八拾参 金々先生、気炎を吐く
キンケツの酒癖がもう一つあって、それは、すぐに大言壮語を始めることであった。
寅さんとヤンマーは、それから農作業の相談を始めたが、キンケツが酒をがぶがぶ飲みながら、直ぐに自分の会社の話に持っていこうとするので、なかなか話が噛み合わない。
「お二人は御存じれすか? ヒック。世界中で今、和食ブームなんですよ。これからは日本の食材が海外で、どんどん売れるはずです」
「そりゃ、楽しみだ。ところで、誠、明日の稲刈りだが――」
「お二人とも、何かそういうものにナゲット、じゃないナーゲットを絞って……。いやそれでもない、ターゲットだ。こういう時に教養が邪魔をしていけないんだよな。ふふふ。上手いこと言うなあ、僕も」
一人で悦に入っているので、寅さんもヤンマーもきょとんとしている。
「とにかく、何か儲かるものをれす。そいつにターゲットを絞って作付けしてみないれすか? ただし、二人だけでは駄目れす。集団栽培で団地化したうえに、恒常的に供給できるような態勢を組む必要があります」
「なるほど。御高説、有難うございます」
「それで、さっきの続きだけど、今までどおり稲刈りは寅さんとこを先に片づけたあとで、うちのをやるとしよう。天気も当分心配ないみたいだし」
ヤンマーは、おれと同じように早くに両親を亡くしている。それで、寅さんがいろいろ農作業について手ほどきしてやったのだが、今ではこうして共同作業を行っているらしい。
「僕はしばらくアメリカに滞在することになりますが、帰国するまれに近隣の生産者の皆さんと話をまとめておいてください。僕の会社れ、どんどん輸出して差し上げますから。そうすれば、皆さん、今よりもっと豊かになれるはずです」
「それは嬉しいなあ。で、あんたの会社ってそんなにすごいのかい?」
「だから、言ってるじゃないれすか。うちは、あのアイジン、いやジンアイ商事ですよ。今や我が社は、世界的な大企業ですからね。
新幹線や人工衛星を輸出していますし、原発だって輸出します。将来は、兵器を輸出することも検討しています」
「死の商人か。何が仁愛だ。そうやって汚い金を稼いで、兵器の平左衛門を決め込むというわけだな」
ヤンマーが意図せず駄洒落を吐く。
「上手い、座布団一枚!」
キンケツが、ヤンマーを指差して言う。
すると、俳句同好会の輪で、どっと笑いが起きた。
「ほーら、受けている」
キンケツはそう言うと、自分の座布団をヤンマーに押し付ける。
「いや、一枚じゃ足りない。二枚だ」
今度は、寅さんの座っている座布団まで、無理やり引き剥がした。
「な、何なんだ、こいつ……? 欽之助より、酒癖が悪いじゃないか」
弾みで引っ繰り返った寅さんが、目を白黒させている。
「いやあ、皆さんの俳句は素晴らしい」
キョンシーが、例のポーズで素っ頓狂な声を出す。顔は真っ赤だ。
「粗削りだが、生活に根差している。そこが素晴らしい」
つる坊が、誰かの俳句を声に出して読み上げたあと、言った。
「何て句だ」
するとまた、皆でどっと笑った。
どうやら、句会が始まっていて、こちらには関係なく盛り上がっているようだ。 俳句を解さないおれには、興味がないことだ。
それより気になったのは、清さんまでが真っ赤な顔をして、嬉しそうに酒を飲んでいることだった。
「兵器も金も、国民を守るためには、必要なものじゃないれすかねえ」
キンケツが、話を元に戻す。
「我が社はそのために、国にも寄与しようとしているんれすからね。それが、社名でもあり、しゃれ……ヒック、社是ともなっている仁愛の精神れす」




