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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第19話 オペレーション・ダウンフォール
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セントゼロ攻防戦の終わり

~承前




 同士撃ち。或いは、仲間割れ。


 負けの見えた武装組織は古今東西を問わず、だいたい同じような末路を辿って滅亡へと向かう。先鋭化した集団と穏健派集団とが鋭く対立し、統制の利かない状態に陥ってしまうのだ。


 これが始まってしまうと、もはやどうにもならないケースが殆ど。小僧の我儘的な思想で繋がっているに過ぎないテロリストグループなどは、たいていが恐怖で雁字搦めにされて、ギリギリで統制を維持しているに過ぎない。


 何故なら、彼等テロリストは社会に対する責任や果たすべき義務と言ったモノ全てを拒否する思想が出発点だから。絶対に嫌だと言う拒否感や嫌悪感、要するに感情論のみで動く厄介な存在の集団でしかない。


「……全部死ぬでしょうか?」


 ボソリとアナが呟いたのは、オーグ側の生き残りが見せる本気の戦闘具合への感想だ。ついさっきまで共に戦列を作っていた者同士だというのに、今は思想の違いで本気の激突をしているのだ。


 相手を殺してでも自分の我儘を実現する。そんな幼稚な思想に大して恥や気後れと言ったモノが一切ないのだから、やむを得ない事なのだろう。今は単に生き残る事だけを目的とした闘争にまで堕ちていた。


「死ぬだろうな。相手を殺してでもって思想の集団だから」


 ビルの回答にバードは内心で『その通りだよね』と呟く。ただ、そんな状況下にあって周囲を統率し、まだまだ戦闘を継続しようとしている者も居るらしい。敵ながら天晴と褒めてやりたいくらいだが、実際には直撃など御免被る。


「西側が何かキナ臭ぇな」


 ペイトンが直感的な事を漏らした時、その方角からシェルに向けた携帯型対戦車兵器らしき攻撃があった。瓦礫の中を上手く移動した面々が遮蔽物の向こうからロケット弾を使っているらしい事が見えたのだ。


 重装備で重装甲なシェル相手の攻撃としては豆鉄砲以下の物でしかない。だが、手持ち最大威力の兵器を使うしかないのだろうから、勇猛果敢なその敢闘精神は褒めてやるべきだとすらバードは思った。


「……健気ってこういう状況を言うんだろうな」


 ロックの詩的な表現にライアンが『間違いねぇ』と返している。ただ、そうは言っても豆鉄砲レベルから重火器を持ち出すようになってくると話は変わって来る。


 上空から見える大きなコンテナの中身は、3人がかりで運用する大型無反動砲だった。電磁加速+ロケットモーターで放たれる砲弾は、着弾と同時にリニア駆動型加速装置を使ってアーマーピアシング攻撃を仕掛けてくる。


 いくらシェルの装甲がぶ厚くとも、エンジン周りなどに喰らえば大爆発を起こしかねないのだ。そして、そんな攻撃を行っている連中が陣取っているのは、シェルの背面に近いエリア。嫌でも最悪のケースが予想される・・・・


「全員高度を落としてカバー(援護)に入れ! あいつはヤベェ! 着陸しても良い! シェルをぶっ飛ばすとあとで困る!」


 ジャクソンが悲鳴混じりの声で叫んだ。こうなったなら着陸する方が高効率になるのは目に見ている。どんなに照準系統が高性能になっても、飛行中の精密制御は不可能だ。


 だが、その時バードは言葉に出来ない違和感を覚えた。何かが心の奥底で叫んでいる。何を叫んでいるかと言えば、『危険』だ。バードは無意識レベルで視界にサーマルビューをオーバーレイさせた。


 視覚情報に熱源のレイヤー化を行った時、シェルの東側に熱源反応があった。ポツポツ程度の斑点がいくつかあって、そのどれもが静止している。


 (……熱を帯びた瓦礫?)


 先ほどの強烈な爆発による熱源が残っている可能性もある。しかし、そうだとして考えると、今度は温度が低すぎる。それは、凡そ人の体温と言って良いレベルのものだ。そしてこの場合は、危険性を帯びている存在で間違い無い。


 (多分……)


 バードは確信を持って視界を最大ズームした。スタビライザーの効果で飛行中でも像が安定するのは技術の勝利だろう。ただ、その結像した姿は、息を潜めて出番を待つオーグ兵士の集団だった。


「東側に自爆特攻組がいる! あいつらスーサイドアタックしそう!」


 その声と同時にバードは視界を全員に転送した。拡大撮影されたそれは、全長1メートル近い対戦車攻撃筒だ。遠隔操作ドローンやAI行動ドローンにぶら下げて使うもので、装甲を貫徹する以外に能の無い純粋な徹甲弾だ。


 そんな代物を3人がかりで抱えて走って行く作戦らしい。それを使えば間違い無く死ぬが、攻撃サイドには問題ないのかも知れない。何故なら、その武器を持っているグループのすぐ近くにある死体は白い血を流していた。


 (レプリが死ぬ意味を欲しがってるんだ……)


 それはブレードランナーであるバードが散々見た光景その物だ。テロ行為を思想や理念では無く目的としていたレプリカントが沢山居たのだ。死ぬ意味は生きる意味と同義であり、その短い生涯の最後に死ぬ意味を求めてテロを実行していた。


 (何てこと吹き込んだのよ! あのクソども!)


 仲間のため。或いは、シリウスの為に死ね。そうすれば次は人に生まれて来られるだろう。そんな風に吹き込まれると、レプリカントは残っていた寿命の全てをそれにつぎ込むようになる。


 苦役と飢えと疲労と絶望感だけで生きてきたレプリだ。最後が見えて来たころともなれば、コロッと簡単に騙されてしまう。そんなシーンをいくつも見てきただけに、心の何処かにグッと何か負の感情が沸き起こった。


 それが何であるかをバードは良く知っているが、今は無視する事が重要だ。しかし、人とは考える葦であるなどと言うように、思考こそが人を人たらしめている主要因でもある。


「……………………ッチ!」


 腹立たしげに舌打ちしたバードだが、そんな所にドリーの声が響いた。


「バーディー。東側はお前に任せる。上手くやってくれ」


 (…………あっ)


 ドリーは気を使ってくれた。そう。ブレードランナーであるバードは、レプリカントをどこか親類縁者のように見ている節がある。そして、彼等を使い捨てに仕立て上げた連中を、バードは絶対に許さないだろうと思ったのだろう。


「了解。こっちのレプリは……全部死んでもらうから」


 手短にそう回答し、ケンプファーの火器管制を射撃優先から照準優先に切り替えた。凡そ戦闘中ならば、とにかく撃たなきゃいけない時の方が多い。だが、ここでは正確に狙って一撃で死んでもらう事にしたのだ。


 (ご苦労様だったね。次は人に生まれるのよ)


 姿勢を制御しながら一気に着地したバード。シェルとレプリの間に割って入る形になったので、オーグ兵士の間に動揺が広がっている。だが、そんなものに惑わされることなく、レプリの一人がスクッと立ち上がって一気に走り始めた。


 まるで棒高跳びの選手が助走するかのようにも姿だが、その爆薬筒は必殺の一撃を実現する威力の筈だ。シェルの装甲だって一撃で打ち抜きかねない代物は、ケンプファーを一撃で戦闘不能にするだろう。だが……


『地上で戦闘中のパワードスーツ! 離陸しろ! 巻き込む!』


 聞き慣れたエンジンの始動音と共にテッド大佐の声が無線に響いた。やはりこっちの機体はテッド大佐だったか……とバードは思うが、そんな事より巻き込まれない方が重要だ。


 ケンプファーの飛行ユニットを再起動させ、メインエンジンに残っていた種火を使って発火させれば推力はすぐに立ち上がった。あとは上空高くに舞い上がれば良いので、反動を加速器代わりに使うべく50口径を撃ち始めた。


『了解!』


 隊長と言いかけて、思わず言葉を飲み込んだバード。チームラジオでは無く広域戦闘無線でオープンコールだったのだから、正体を明かすわけには行かない。その辺りも咄嗟に判断が付くようになっているのは、間違い無く成長だ。


「はっ! やっぱスゲェぜ!」


 ライアンが嬉しそうに叫んだそれは、テッド機のエンジンが点火した瞬間の映像だ。グリフォン系エンジンが立ち上がった直後、数千℃にもなる超高速の炎が地上を焼き尽くした。


 制御された核反応エンジンによるイオン炎噴射は、地上のありとあらゆる物を焼き尽くす威力だ。当然のように数多く居たレプリや囮のオーグ兵士達が一瞬で蒸発していて、そんな中を二機目のシェルが離陸した。


「さすがだぜ」

「全くえげつねぇな」


 ペイトンが感嘆したようにつぶやくと、ビッキーが呆れたように応えた。その威力は人類の制御できる最大級の火炎放射器かも知れない。少なくとも恒星間飛行デバイスは地上では使えないのだから、間違いなく真実と言える。


「なんか魂が旅立つみたいな光景だね」


 バードの言うそれは、地上のありとあらゆるものが蒸発して空へと登っていくシーンの感想だ。様々なカラーリングの煙が空に立ち上り、そんな中を突き抜けるように2機目のドラケンが離陸していった。


「……終盤戦だな」


 スミスの渋い声音が響き、バードは改めて地上を見た。最初に到達したハリケーン軍団は包囲の輪を狭めていて、オーグ側兵士の残数はもうそれ程でもないと思われる程度だ。


 ただ、セントゼロのモニュメントは完全に破壊されていて、このシリウス開拓で命を落とした者達全ての名前を刻んだ外壁は、ただの瓦礫に変わっている。オーグ関係者の引き起こした蛮行は、シリウス全土に生中継されていた。


「人類遺産がパーだな」


 ビルの言葉にバードはなにかこう形にならない負の感情を持った。誰かの苦労や絶望やささやかな希望と言ったモノの象徴だった筈だ。その記念碑的なモノを破壊し、土足で踏みつけて行くテロリスト達の自己満足は絶対に許されない。


「これで心置きなく皆殺しに出来るってもんだぜ」


 嫌そうにそう吐き捨てたライアン。だがシリウス全土に生中継されている最終戦闘でテロリストの見せしめこそが重要なのだ。僅かに生き残って各地で闘争を続けそうな連中の存在意義を根元から刈り取る行為。


 全てのシリウス人にとって敵となる様に仕向けたエディの深謀遠慮は、すべてこのシーンに集約されているのだろう。そう。再びヴァルター大佐が急降下していくシーンだ。


 あのシ(・)リ(・)ウ(・)ス(・)製(・)シ(・)ェ(・)ル(・)による対地攻撃こそ、全てのシリウス人の総意として、シリウスの社会を不安定にしようとするテロリストは絶対に許さないというスタンスの発露となる。


「んで、俺たちどうすりゃいいんだ?」


 ロックがポロリと零したそれは、今後の事についてだった。地上では凄まじい勢いで掃討が続いている。ついさっきまで同士討ちを行っていた地上は、シェルのフライパスによる衝撃波や地上軍団の猛攻撃に晒されている。


 その結果、オーグ各所で投降を試みる動きが見られるが、そんな所へも容赦なく榴弾が叩き込まれ凄まじい数で死傷者が増えている。最後の手段として逃げ込むべき地下への入口は、オーグ当人たちの破壊工作で塞がれてしまっているのだ。


「すり潰されるのを見届けるしかなさそうですね」


 上空で旋回しながら地上を観察しているアナは、全く無警戒にそんな言葉を吐いた。事実として、もはや包囲の輪は直径1㎞を下回ったようだ。慎重に前進する地上軍団は、全ての死体にとどめを入れながら進んでいた。


「あの連中が素直に全滅してくれるほど親切なら良いんだけどねぇ……」


 同じく無警戒にバードが呟く。そしてそれは、チーム無線の中に石を投げ込んだようなものとなった。一斉に言葉が沸き起こり、思わず(しまった)と呟いた。


「ってこたぁ、もう一波乱ありそうだな」

「そうだぜ。戦女神のご宣託だ」


 ライアンの浮かれた声にペイトンが合いの手を入れ、ロックが確かめるように『ケンプファーで地上降りるか?』と言葉を継いだ。ただ、それは絶対に無いという確信も全員が持っている。


 少なくともここで目立つようなことはするべきじゃないし、やらない方が良いだろう。この先のどこかで何かが起きて、再び地球人が敵に回らないとも限らない。その時の為に、ひっそり足跡を残さず撤収するのが最良の筈だ。


「俺たちは高みの見物と行こう。高度を上げる。燃料が心許なくなったら引き上げるとしよう。エディからはそれ以上の指示を受けていない」


 隊長であるドリーが言うのだから、それはBチームの方針だ。バードは手短に『了解』と返して高度を上げた。ふとレーダー情報に目をやれば、遥か上空にはテッド大佐のシェルがいて、今にも大気圏外へ飛び出しそうだ。


 スーパーアースなこの惑星から自力で大気圏外へ出られるとは思えないが、それでもまるで宇宙へ帰ろうとしているように見えた。


 (……リディア大佐は地上よね……たぶん……)


 何となくそんな事を思ったのだが、それにしたってテッド大佐には宇宙(そら)が似合うのだ。地上戦で見せる凛々しさは尊いが、宇宙で見せるあの勇猛果敢さはプライスレスな輝きだ。


「……地上が片付いたみてぇだな」


 あれこれと妄想に沈んでいたバードの意識を現実へと引き戻すように、ジャクソンは控え目な声でぽつりと言った。空を見上げていたバードが地上へ意識を向けると、あのセントゼロの瓦礫が積みあがった辺りで、ハリケーン軍団の兵士が抱き合って喜んでいる。


 その周囲には夥しい死体が残っていて、執拗にとどめを入れて歩いていた。生き残りを作れば面倒のタネになる。それだけは絶対に避けねばならないのだから、こんな行為も必用な事だ。


「……まったくこりゃ……こりゃ極めつけに後味が悪いぜ」


 あのペイトンをしてそう言わしめるワンシーン。まだ生きていたらしいオーグ関係者を見つけたらしいのだが、全員立たせておいて射殺している。必至で命乞いしているのも居るが、関係なく撃ち殺していた。


 ここまで散々と非道の限りを尽くしたのだ。今更死にたくないなどと喚いたところで意味は無い。ただ、それをする側が楽し気にやっているのは頂けない。もっと事務的に、淡々と『処理』していけばいいのに……とバードは思った。


「まぁ良い。スタートポイントへ戻る。念のため対空攻撃に注意しろ」


 ドリーは最初に機を捻って帰路に就いた。一気に高度を落としながらスターティングポイントへと戻るのだが、その道中でふとバードは思った。


 (……本当に全滅したのかな)


 その疑念は間違いなく確信なのだが、口に出すのは憚られる。ただ、もう一度突入戦をやる羽目になるだろうな……と、妙なところで確信を持つのだった。


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