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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第19話 オペレーション・ダウンフォール
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エディの思惑

~承前






 キャンプアンディの士官サロン。

 ロックは愛刀の手入れをしながら、たわいも無い話に興じていた。


「しかしまぁ、そう言う軍団分けってありかよなぁ」


 話のネタは各軍団に付けられたネーミングだ。

 それぞれの出自となる国家群ごとに軍団分けされた集団。

 台風の地域別な呼称で揃えられた結果、装備の質の差が問題になり始めた。


「地球の地域ごとに呼び名が違うンだよな」


 そんな事を言うダニーは、資料として配られた書類を見ながら言った。首魁とも言うべきハリケーン軍団は既にセントゼロの北方に取り付いていた。

 米軍を主力とするこの軍団はもっとも先進的な装備を持つ機械化集団だ。その進軍速度は電光石火の如きモノで、敵に対する心理的圧力ならば最凶最悪と言った部類のモノだろう事が容易に想像出来た。


 西から入ろうとしているモンスーン軍団は、遅れじとばかりに進軍速度を上げているのが現状だ。インド連合諸国家やアフリカ大陸東海岸国家などを中心とする彼らは、機械化と人海戦術のミックスぶりが絶妙だった。


 ただ、本当に恐るべきは東側からセントゼロを目指すタイフーン軍団だ。日本を中心にASEAN連合諸国隊で編成された彼らは、やや遅れて進軍しつつもその戦闘力は凄まじい物があるらしい。


 道中で会敵する全てを粉砕しながら前進する彼らは、火と鉄の試練をもたらす陸津波の様相を呈している。


「まぁ、中身は一緒だけどさぁ――」


 テーブルの上のスナック菓子を摘みながら、ダブはボソリと呟いた。

 サイボーグ隊の面々が感じる、素直な言葉だ。


「――なんでこんなにモタモタ進軍するんだろう?」


 ダブのボヤキは先に行われた士官会議の中で説明された事への疑問だった。

 会議の席上、アレックス少将から送られてきた状況詳報の説明を行っていたステンマルク大佐ははっきりと言った。


 ――――セントゼロを陥落させるつもりは無い

 ――――嫌がらせを続けてセントゼロから追い出すのが目的だ

 ――――シリウスの象徴を負けさせるのは得策じゃ無い。


 その言葉の意味する所を理解出来ない訳じゃ無い。

 セントゼロは全てのシリウス人にとって、精神的な故郷であるのだ。


 ただ、残念ながら戦争である以上は戦わないわけにはいかない。

 重要拠点であるセントゼロを奪回する事もまた、重要なテーマだった。


「んで、俺達が使われねぇのは白兵戦が主体だからって訳か」


 ダブの言葉にビッキーが応える。

 ただ、彼らが微妙にお冠なのには理由があった。


「だからって……これはネェぜ」


 背中を壁にもたれさせていたジャクソンが吐き捨てる様に言う。

 彼が見ていたのは、戦闘の経過を知らせる軍内公報の1ページだ。


「まぁ……確かにな」


 ペイトンもそうぼやかざるを得ない理由は、タブレット端末に表示されているワンシーンだった。画面に見えるのは、南下を続けるハリケーン軍団の戦闘車輌の群れ。だが、その一角に見覚えのある将校がふたり、写っているのだ。


「オヤジよぉ……マジでキタネェよなぁ……」

「抜け駆けは良くねぇぜ……」


 ジャクソンもペイトンもそうブツブツと文句を言っている。小休止中の拠点で兵士達と語らうテッドとヴァルターの両大佐は、にこやかな笑みを浮かべて何処かを指差していた。


「どうせエディのお使いよ」

「まぁ、他に考えられねぇよな」


 バードとロックはそんな事を言って顔を見合わせた。だが、だからと言ってこの抜け駆けを許せるかと言えば、それはまったく別の話だ。


「どうせなら連れてってくれよってな……」


 ヴァシリやアーネストとカードに興じていたライアンがそう漏らす。

 お預け状態で鎖に繋がれた犬でしかなく、暇を持て余した彼らは現状の不平不満を遠慮無く吐き出していた。


 だが。


『全員集合だ。ガンルームに来てくれ』


 唐突に響いたドリーの声は、やや上ずった緊張を孕んでいた。

 全員が怪訝な顔になっているが、隊長の呼び出しは行かざるを得ない。


「良い話だといいね……」


 何気なくバードがそう漏らすと、ロックやライアンが『あちゃ……』と頭を抱えるように漏らした。それを見ていたヴァシリが『どうして?』と理由を聞く。


「バーディーがそれを言うって事はだな……」


 ライアンがそう斬りだした後、ダニーがその言葉を継いだ。

 ウンザリ気味になっているその顔は、下唇を噛んだまま眉根を寄せた表情だ。


「極めつけに最悪ってシチュエーションが待ってんのさ。過去の経験的によ」


 おもわず『え?』とヴァシリが漏らす。

 だが、そのままガンルームに行ったとき、その全員が思わず足を止めた。


「……エディ」


 バードが小さく呟くと、エディはニコリと笑ってバードを指差した。


「おいおいバーディー。人を厄介ごとの塊みたいに見るんじゃ無い」


 ハハハと気楽な様子で笑ったエディだが、バードは思わず脱力しながら言った。


「天使のような悪魔って良く言いますけど、悪魔だと思ったらそれ以上だったって時を何度か経験してますので……」


 大将相手に平然と言い切ったバードをヴァシリが不思議そうに見ている。だが、エディのやり口を知っている古参メンバーは、渋い表情で何度も頷いていた。


「……で、俺達の仕事はなんですか?」


 場を仕切り直すようにロックが切り出す。

 するとエディは一枚の紙を懐から取りだした。


「面倒を頼みに来たんじゃ無い。簡単な仕事だ」


 その紙を受け取ったロックは、チラリと見てからライアンに渡した。同じようにチラ見したライアンがメンバーにその紙を回す。サイボーグ故の気楽さと言う事では無く、見た光景を画像化してファイリングできる強みを発揮しているだけだ。


「トップガン……かよ」


 ポツリと漏らしたペイトンは、三白眼の狐目を炯々とさせてエディを見た。

 当のエディはしてやったりの表情で全員を見ていた。


「埃っぽい地上はもう飽きたろ? サイボーグにとってすれば宇宙(そら)の方が空気は良いし、それに、毎日飽きずに居られる」


 エディの見せたその紙に書かれているのは、国連宇宙軍の首魁というべき米軍の宇宙軍に所属するシェルパイロットのエリート養成プログラムだ。すでに生身向けの高機動型オージンが実戦配備され始めていて、そのトレーニングだった。


「シェルの究極形態というべきオージンだが、生身向けの高機動型はまだまだリミッターが効いている状態だ。それを外すのにトレーニングを積み重ねる事になっているので、アグレッサー役を演じてくれ。なに、遠慮する事は無い。いつも通りで良い」


 エディは軽い調子でそんな事を言ったあと、全員に指令書を手渡してガンルームを出て行った。その背中を無意識に目で追ったバードは、思わずニヤリと笑ってロックを見た。


「……宇宙(そら)だって」


 バードが何を笑っているのか?とロックは考えたが、その直後に『あっ!』と言わんばかりの表情になった後、同じようにニヤリと笑っていた。


「なに笑ってんですか?」


 ダブが不思議そうな顔になってロックに中身を尋ねた。だが、それに対しロックが答える前にペイトンがダブの頭を掴んでグリグリとやりながら言った。悪魔も裸足で逃げ出すような邪悪な微笑みを添えて。


「説明してやりたい所だが……ここじゃ駄目だ。ただまぁ、シェルトレーニングだけじゃねぇから安心しとけ。誇りっぽいところにゃ行きたくねぇけどな」


 『はぁ?』と言わんばかりの顔になったダブ。

 そんなダブを指差してジャクソンとライアンがゲラゲラと笑っていた。


「シェルトレーニングで放り出されるのは2回目だけど……今度は上手くやらなきゃ恥ずかしい」


 フフフと笑みを浮かべたバードをロックが楽しげに見ている。

 勿論、Bチームの古株衆は、誰もが楽しげにしていた。


「さて、どこへ放り出されるか楽しみだな」

「案外オヤジとばったり遭遇するかも知れねぇぜ?」


 スミスの言葉にジャクソンがそう応える。

 相変わらず狐に摘まれた様な表情のダブ達新加入組は、黙って従うだけだった。




 ――――同じ頃


「ぶへっくしょん!」


 盛大なヴァルターのクシャミにテッドが大笑いした。『なんだそりゃ!』と指をさして笑うテッドは、ワインでだいぶ酔っていた。そして、同じように酔っているヴァルターも『練習してんだよ! なんかに役に立つ!』と笑いながら言った。


 サイボーグでもクシャミが出るのか……と、装輪装甲車の中にいた士官達は、テッドとヴァルターを不思議そうに見ているのだった。

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