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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第19話 オペレーション・ダウンフォール
301/358

更なる新兵器投入へ向けて

~承前






「これか?」


 ボソリと漏らしたヴァルター大佐は、自分の身体より一回り大きな『新しい重機材』を見つつ押し黙った。キャンプアンディの中に作られた特別な区画には501大隊の首脳が揃っていた。


「……小型シェルってコンセプトなのは面白いね」


 ウッディ大佐は腕を組みながらその新しい機材のまわりをグルグル歩き、何事かを思案している。背面にはスイカのようなサイズのジンバル機構付きジェットノズルが3基あり、最大速度はマッハ1.2と説明を受けていた。


「でもこれ、重力下飛行するにゃまだ重いんじゃねっすか?」


 ロニー大佐の表情は怪訝なままだ。

 リフティングボディに充分な推力のエンジンとは言え、重力下における高機動を行うには機体が重いと感じている。スペックシートに並ぶ文字は全備重量480kgとあるが、そこには小さく『ベースユニットの重量は含まない』と書き記されていた。


「山ほど武装を背負うんだからこのサイズは要るだろうよ」


 怪訝そうなロニー大佐をからかうようにジャン大佐がそう言った。そして、その言葉の通りにその機体は、各所にガッチリと喧嘩装備を揃えている。


 左右の腕には50口径機関砲が一門ずつ装備され、背中のエンジンユニット周りには小型の榴弾ランチャーが自在マウントに乗っていた。


「……って言うか、ミサイル無いんだね」

「要る? 要らないんじゃない?」


 ヴァルターの言葉に女性の声が返ってきた。

 そこにいたのはミシュリーヌ中佐だった。


「どっちかというと地上戦における……まぁ、要するに空飛ぶ戦車でしょ?」


 彼女の見立ては概ね正しい。

 コンセプトとしては、大気圏内の重力下で戦闘ヘリの機動性と対地攻撃機の速度を併せ持ち、尚且つ主力戦車打撃力を備えた高機動兵器だ。


 現在の国連軍では来たる最終決戦に向け様々な新兵器が準備されているが、その多くは兵器産業の駆け込み提案とも言える物だった。この戦争は間も無く終わる……と、誰もがそう思っているし歓迎している。だがその裏には、大きな声で言えないながらも戦争の継続を望む声が、通奏低音の如くに流れている。


 兵器産業。或いは戦争産業と言った死の商人と呼ばれる人々は言うまでも無い。しかし、その数倍、数十倍の規模で存在するのは、全ての産業の裾野にある下請けや孫請け産業に従事する人々だ。

 つまり、誰か知らない存在が殺し合っているが、その消耗品を生産する産業に従事する者にすれば、自分が死なない限り戦争は継続して欲しいと願うもの。そんな声なき声に荷担すること無く、一気に戦争を終わらせる為の準備なのだった。


「まぁ、一方的な掃討なのは間違い無いからな」


 ヴァルターは少々嫌そうな顔をしながらそう言った。この大気圏内向け高機動シェルに荷電粒子砲系装備が無い理由。つまりそれは、火薬系爆発兵器の方が効率よく殺せると言う事だ。


 ビーム兵器やレーザー兵器は点で穴を穿つことしか出来ない。命中したところに爆発する媒体が必要な兵器では効率が宜しくない。言い換えるならそれは、効率よく相手を殺して勝つ為の兵器を選択したと言う無言の圧力であり、また、敵に対する言外な殺意の表明だ。


 つまり、今からお前を木っ端微塵にしてやる……と、そう大声で叫ぶようなモノと言えるのだ。そして、それが嫌なら今すぐ投降しろ……と、そう圧力を掛ける為のモノ……


「これ、C-31も装備出来るもん?」


 ウッディ大佐が首を傾げながらそう質問する。それに答えたのは、全てのサイボーグの母と言うべき存在。サイボーグ母艦からやって来た技術将校のアリシアだった。


「それを望めばすぐに着けられるわね。C-31はスタンドオフだから電源の供給も必要ないし、マウントは共通よ」


 ……ビーム系兵器も装備出来る。


 その安心感は彼らヴェテランには特別な意味を持っている。

 爆発系兵器で散々とやり合いながら、ビーム系兵器を待ち望んだのだ。


「まぁ、とにかく、ベースユニットの完成度を含めて、一度は使ってみないとな」


 話をまとめるようにテッド大佐が口を開く。その場にいた全員が一度テッド大佐を見てから、再びその小型シェルに目を移した。


「実際に使ってみて、それから問題点の洗い出しと言う事だな?」


 エディはややきつい口調でそう言った。精神的に弱い者ならば、その言葉だけで恐慌状態に陥りかねないような物言いだ。だが、エディを良く知る者ならば、そこに悪意が介在してる訳では無いと気が付くだろう。


 基本的にエディは全てを客観的に見ている節がある。それこそ、自分自身ですら思い描いた物語のキャラクターの1人程度に考えているのかも知れない。

 エディが目指す物語のハッピーエンドは、一言でいえばシリウスの安定的かつ自主的な独立なのだ。だからこそ……


「ならば使ってみよう」


 エディは遠慮無くそう言い放ち、ニヤリと笑って壁際の物体を見つめた。

 ハンガーの真ん中では無く、壁際の専用区画に用意された、カーボン系素材と軽金属により組み上げられているソリッドなサイボーグの機体だ。


 その外装はカーボンが剥き出しになっていて、通常の機体と違い人工皮膚が張り込まれているのは顔の部分だけだった。


ケンプファー( 闘 士 )か」


 ぼやくようにそう呟いたテッドは、エディの隣に立ってそれを見た。そもそものコンセプトは、惑星上重力下で使える小型高機動な重武装シェルの実用化だった。


 だが、その肝は重装備かつ高機動な機体による一撃離脱を旨とした、徹底的な強襲型兵器だ。そしてもう一つは、多くのサイボーグの兵士のQOLを維持したままに、一昔前のサイボーグが実現していた強靱かつ強力な機体を戦線投入し、一気に方を付ける戦闘の再現だ。


「Bチームの面々が来るのが待ち遠しいな」


 エディとテッドの所へやって来たステンマルク大佐は、笑いながら言った。

 そこに集まった首脳陣が機体のひとつを眺めていた。その機体の頭部ユニットはバードの顔になっているのだった。


「S-16が当たらないって文句言ってたな」


 ウッディ大佐は楽しそうにそう言った。

 現場指揮官としてまだ最前線に立つウッディは、配下の面々がG35に切り替える中だというのにG30系列を使い続けていた。


 ――――……実際のところ軽すぎても不便だよ


 かねてよりそんな事を言っていたウッディだが、現実に多くのG35ユーザーが機体の行き過ぎた軽量化を訴え始めていた。戦闘中にどうも()()が悪いのだと訴えていたのだ。


「あんま軽すぎるとな」

「だよな。距離が有ると当たらねぇ」


 テッドのボヤキにウッディがそう漏らす。このふたりは当たらない銃で酷い目にあった者同士。だからこそ、実感のこもった言葉でそれを言うのだった。


「このケンプファーは戦闘重量でざっくり700キロよ。50口径どころか88ミリクラスを装備しても問題無いわね」


 アリシアは軽い調子でそんな事を言った。

 ただ、その言葉が軽い理由を首脳陣は嫌と言うほど知っていた。


 ――――AIは気楽だな……


 そう。このアリシアの人格はAIが造り出したものだ。かつてのシリウス開発で地球から運び込まれたスーパーコンピューターを幾つも並列接続し、RAID駆動させながら仮想人格を動かしているに過ぎない。


 アリシアに求められたのは、シリウスの地上開発におけるリスク管理と問題解決の為の思考だった。その莫大なデータが蓄積し続ける中、情報の海に生まれた人格こそがアリシアの根本だった。


 なぜシリウス人は抵抗するのか。なぜ地球と上手くやろうとしないのか。なぜ人類は同じ愚行を繰り返して尚、理想に殉じる事を美しいと考えるのか。答えの出ない思考を積み重ねて行った結果、アリシアは人類の機械化という仮定を生み出していた。そして、その実験を行う為だけに、サイボーグの支援という行為を繰り返しているのだった。


「まぁいいさ。ロックとバードにやらしてみよう。あのふたりはBチームの中でも指折りの適応率だからな」


 テッドがそう言ったとき、全員がニヤリと笑ってテッドを見ていた。


「早速呼ぼう。ここへ」


 ウッディ大佐がそう言うと、テッド大佐は僅かに首肯して一般士官向け周波数の中へ暗号変調をBチームと501大隊司令部だけに設定して切り出した。


『Bチーム諸君、私だ。せっかくの優雅な午後を邪魔して悪いが、ちょっとキャンプアンディまで来てくれ。今後の案件について話がある。まぁ、悪い話じゃ無い』


 全員の無線に入るようにテッド大佐が切り出した。

 まるで自分の息子夫婦・娘夫婦を自慢するかのような姿に、全員が笑っていた。




 ――――同時刻のセド市街




 街の中心部で片付けの陣頭指揮に当たっていたバードは、唐突な無線で現実に引き戻された。その声の主はテッド大佐で、何事だろうか?とすぐに思考を切り替えるのだが。


『ショウエイ・ノギの追跡に関し、新兵器を投入する事になった。片付け現場は生身に任せて大至急キャンプへ帰還してくれ。詳しくはキャンプで説明するが、少なくとも悪い話じゃ無い事は保証する』


 テッド大佐の声にバードは苦笑いを浮かべてロックを見た。そのロックは失笑を禁じ得ないと言った風で、バードの視線を受けてからドリーを見た。


「……なんだろうな?」


 ドリーはそんな風に嘯いている。だが、これは絶対知っている顔だとバードは直感している。そして少なくとも、チーム全員がそれを確信していた。


「さて、プレゼントの包みを解きに行こうぜ」


 ドリーに続きジャクソンがそう言ったとき、これは予定されていた事なんだと全員が確信した。ただ、そのプレゼントがどんなモノかは全く見当が付かない。少なくとも良識に則った良いモノであって欲しいとバードは願うのだが。


「全員準備良いか?」


 上機嫌なジャクソンは埃まみれの戦闘服を叩きながら、ティルトローター機のハンガーへと入って行った。まだ戦闘装備のままだが、装甲服では無い関係で見た目はソフトな印象だ。おまけに、碌に返り血も浴びてないと来れば、野戦演習の帰りと言った空気だ。


「何だよ。ジャックはまるで遠足にでも行く小僧だな」


 茶化すようにペイトンがそう言うと、ジャクソンは破顔一笑に言った。

 こんな部分でジャクソンは本当に解りやすい反応をするのだ。


「そりゃそうさ。前々から内示が来てたんだが、遂にデビューするんだからな」

「デビュー?」


 微妙な表情のペイトンがそんな事を言う。

 だが、ジャクソンは喜色あふれる笑みで声を弾ませながら言った。

 バードの予想を遙かに超える代物がジャクソンの口を突いて出てきた。


「大気圏内向けの小型シェルがデビューするんだよ。これ、実は俺達の存在理由その物になるかも知れねぇって代物だ」


 その説明で全体像を理解しろというのがそもそも無理な相談だろう。だが、戦争が終わりかけている現状で新兵器が投入される理由を考えるのも必要な事だ。


「シリウスに仕事を作ろう!とかじゃ無いと良いよな」


 ボソッと零したビッキーは、若干怪訝な顔で緊張気味だった。シリウスの地上に仕事を生む為にダラダラと戦争が継続されている。そんな声が市民の間からボチボチと出始めている状況だ。

 そして、正直に言えば全員がそれに近い事を考えていた。エディ以下、サイボーグ大隊の首脳陣が揃って何かを企んでいる。字面にすればそれだけだが、その中身は全く察しの付かない新たな挑戦なのだと覚悟するしか無かった。


「まぁ、自分以外の誰か痛い目にあっても死ぬ目にあっても、幾らでも我慢は出来るって奴で、ぶっちゃけその死よりも自分の仕事の方が大事だろうからな」


 ヴァシリは若干ウンザリ気味でそう応えた。それを利己的だとか自己中だとかと誹るのは簡単だ。しかしながら、じゃぁ自分が飢えと渇きを我慢して平和を望むのか?と問われれば、多くの者が微妙な顔になるあろう。


 ――――明日からどうやって喰って行こう……


 多くの市民が考える諸処の問題や、困難辛苦が連続する毎日への対処法。

 それはつまり、自分と自分以外の家族が死ぬのなら、むしろ戦争はやって欲しいと望んでしまう事だろう。


「けどよぉ……」


 ダブは表情を暗くして重い声音で切り出した。指折りの高適応率なメンバーの揃ったBチームが呼ばれるのだ。それはつまり、これから装備する事になる他のチーム向けアクセサレーターのテストベッド扱いを覚悟するより他なかった。


「あぁ、解ってる。何でこのタイミングで新兵器なんだろうな」


 アーネストもまた怪訝な顔でそう言った。もはや戦争は終りだ。シリウスの抵抗戦力は最終局面で抵抗のための抵抗に勤しんでいる。つまりそれは、野望に身を焦がした者達が全てを納得して死ぬための必要な経費だ。だが、それをするには余りに戦力が余りすぎる……


「……まぁ要するに――」


 少尉達の話しを聞いていたバードは、ロックをチラリと見ながら切り出した。

 エディとテッドから余りにも多くの事を聞いていたふたりは、当然の様に多くの事を少尉達より知っている状態なのだ。


「――これから先を見据えてアレコレ験す最後のチャンスって事よ。実際、訓練と戦闘じゃ天と地ほど違うモンでしょ。実戦に使えるかどうかは今しか出来ないんだから、開発側だって急ぐのよ」


 そこまで言ったバードの後を受け、ロックはボソリと付けたした。

 ある意味、問題の核心な部分を……だ。


「平和が来てからじゃ遅いんだよ――」


 それがどんな意味を持つのかは、少なくとも少尉たちには見当が付かないだろうと思われる。しかし、こうやって話を深読みする能力は鍛えられていく。


「――シリウス独立派との戦争はもう終わるだろうが、そこから先を見据えてる部分があるってこった……」


 ヴァシリやアーネストだけで無く少尉達5人組が息を呑んでロックを見ていた。

 ただ、実際にロックを見ているのは少尉達だけで無く、ペイトンやライアンも同じようにロックとバードを見ているのだった……

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