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機械仕掛けのバーディー  作者: 陸奥守
第19話 オペレーション・ダウンフォール
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デコット型兵器のデビュー

~承前






「なんか……凄い不思議な感覚だよね、これ」


 人工皮膚の貼り付けられていない両手を閉じたり開いたりしながら、バードは自分の身体のアチコチを眺めている。驚く程細身の機体だが、動きだけは滑らかだ。


「……全くだ」


 ボソリと呟いたロックは、目の前に居るバードを見ながら微妙な表情だった。いつぞや、補修部品が無い関係でDチーム向けのアンドロイド向け機体を使っていたバードを思い起こさせる姿がそこにあった。


 ソリッドな基礎骨格にカーボン系の炭素複合繊維を貼り付けた黒い機体は人工皮膚を貼り付ける事無く完全なアンドロイド姿だ。その上にバードの頭が人工皮膚付きで載ってる姿は、ただただシュールだった。


「こんなシーンをシュールだって思える程度のまともさは維持してたいよな。随分と人間離れしたところに来た気がするが、それでもさ……」


 ここしばらく影の薄いダニーは、そんな事をぼそりと漏らした。正直、医者が必要な激闘の場面は殆ど無くなっている。だが、だからといってチームに不要かというと、決してそんな事は無い。


 何事も場数と経験と言うが、ロックやバードよりも早く戦線に出たダニーの存在は、チームの中でも重要な物があるのだった。


「で、外骨格式の装甲を貼り付けるのが前提なんだってな」


 アリシアの説明を聞いていたライアンがやって来てそんな事を言った。Bチーム全員がその全く新しい機体の中に入っていて、次のステップへ移行するのを待っている。


 キャンプアンディの特別なエリアに居並ぶチームの面々は、階級の高い順に新しい装備とのフィッティングを続けていた。拾いハンガーの片隅には自分より一回り大きな機体が鎮座していて、セッションモードに入るのを待っていた。


「しかし……なんか肌感覚的に誤差が多すぎるぜ」


 ロックはロックで手にしている木の棒を無造作に振っていた。現代の人斬りである彼は、このソリッドなカーボンコンポジットの身体を動かしながら、どうにも馴染まない感覚に苦しんでいた。


 およそ剣士という生き物は、多分に感覚的な物を優先する傾向がある。それは、電光石火に鞘から太刀を引き抜き、飛燕の速さで剣を振り抜いて敵を斬り、そのまま鞘に収める一連の流れひとつひとつを制御している時間など無いからだ。


 ――――おおよそこれくらい……


 そんな風にしか制御し得ぬのだから、感覚的な誤差をどうしても嫌うのだ。


「試してみる?」


 嗾けるように言うバードは、手にしていた小さなファイルの背をロックへと見せるように持ち上げた。そのまま横へ回転させれば、背の部分が横向きに倒れて見える状態だ。


 ――その棒で叩け


 バードが言うテストの意味をロックが理解し、半歩下がってから居合抜きの要領で棒を構えた。ただ、なにかこう姿勢が決まらない……とでも言う様に、微妙な部分での調整を繰り返している。そして――


「っせい!」


 半歩踏み出すと同時にロックの右手が棒を振った。長さ30センチ足らずな物なので、ウンと腕を伸ばす必要がある。その状態で刃先に相当する部分の軌道を制御しながら、背表紙に当てるべく腕を振り抜いた。


 だが、その棒は軌道制御も虚しく空を切った。バードの持っていた背表紙の僅か数センチ上を通り過ぎ、ロックにあるまじき事にそのままバードの腕をペシリと打ち付けてしまった。


「いたっ!」


 かなりの速度で当たったせいか、かなり良い音が響いた。恨みがましい表情でバードはロックを見ている。当事者であるロックは両手を合わせてゴメンゴメンと言い出さんばかりだ。


 しかし、そんなふたりの表情が何ともぎこちないレベルで硬かった。サイボーグの表情を作るアクチュエーターが固いのか、それとも制御が悪いのかは解らない。しかしながら、随分と生身に近くなったはずのサイボーグなのに、その表情は不気味の谷の向こう側だった。


「わりぃ! まさかここまで誤差が有るなんて……」


 ロックは機体のせいだと言い訳がましい事を言っている。だが、そんな姿を腕組しつつ眺めていたエディとテッドは、残念そうな表情でボソリと言った。


「もう少し改良が必要だな。テッド」

「あぁ。これじゃぁ実戦には出せないな」


 ふたりがそんな会話をする中、ロックはバードの右腕を持ち上げて打撃痕を探している。ただ、カーボンのわりに弾力在る素材のせいか、痕跡が一切無かった。


「……一回戻ろうよ」

「だな……」


 バードの声に促され、ロックは整備デッキ片隅にある金網で囲まれた小部屋の椅子に座った。それはサイボーグ整備用のメンテナンスチェアその物なデザインで、やはり頸椎部には幾つものバスが用意されていた。


「この処理は自動か?」


 エディが怪訝な表情で尋ねる。それに応えたのはアリシアだった。

 いつもの白衣姿のまま、ぼさぼさの髪をかき上げつつ切り出した。


「そうよ。ドローンアウトする時の処理は全部自動処理される仕組み。と言うよりあれね。デコットが破壊されたりしたケースなんかじゃ、いちいち手動で処理してられないでしょ。仮にも戦闘用なんだから」


 ウフフと笑う彼女は、傍らに置いてあるサイボーグ向けのシミュレーターボックスに歩み寄った。そのハッチにはBIRDの文字があり、小さな赤いランプが消え青ランプが点灯すると、内部からガチャリとロックの外れる音が聞こた。


 ややあって空気圧で動く作動音が響き、ゆっくりとシミュレーターボックスの扉が開いた。その中に入っていたのは、身体の各所にケーブルを接続したバードだ。


「……やっぱりこっちの方が動きがスムーズ」


 シミュレーターボックスから出てきたバードは、G35系列の最新型ボディだ。

 その脇ではロックが同じように出てきて、先ほどのカーボン素材むき出しな身体から棒を取ると、軽く振っていた。


「やっぱりこっちの方が誤差が少ないな」

「誤差じゃ無くて通信速度がボトルネックになってるんじゃ無いの?」


 カーボン剥き出しな自分自身の機体を前に会話するシュールな光景。

 それは、戦闘の現場に投入される機体を遠隔操作型のロボット化したいと言う実験の一環だった。


「けど、デコットとは良く言った物ね」

「だよなぁ」


 標的を意味するデコイとロボットを組み合わせた造語は、古い時代のSFコミックを発祥とする。そもそも、人造人間をレプリカントと呼び、そのハンターがブレードランナーと呼称する世界だ。


 ムービーやビデオゲームの全盛時代から既に300年が経過し、誰かが生み出した造語は、『正しい言葉では無い』或いは『そんな言葉は存在しない』と批判する思考停止な人々の罵詈雑言を余所に、すっかり世界に定着していた。


「けど、これさぁ……」


 バードの怪訝な表情には理由があった。と言うのも、21世紀の時代に全盛となった遠隔操作型戦闘ドローンが瞬く間に戦場から一掃された理由そのものだ。


 米軍を中心とした人命尊重主義によるドローンの投入は、量子コンピューターの高性能化によって瞬く間に戦場から消えてしまったのだ。と言うのも、基本的には双方向通信を行う以上、ハッキングの危険性は常につきまとう。


 そして、21世紀後半戦に発生した小さな地域紛争で起きた些細な事件がとどめになった。完全武装の飛行ドローンがハッキングされ、友軍の重要拠点を空爆したのだ。


 その時から、戦闘用での使用は完全に停止された。現状で唯一行われているのは偵察などの任務だが、その任務とてハッキングによる偽情報の拡散という失態を幾度も繰り返し、結局は人が出向いて任務をこなす様に回帰した。


 量子コンピューターの凄まじい計算速度と柔軟な思考をするAIの組み合わせ。それは、戦場という極限環境において最終的に人が人と戦うと言う場面への回帰を促す物でしか無かった。


 故に……


「あぁ。言いたい事は良く分かる」


 怪訝な様子のバードに対し、テッドは『全部承知だ』と、そんな風な態度で言葉を返していた。現状の極限戦闘に従事する者に言わせれば、コンピューターの能力は人間を遥かに超える次元にあるのだから、ハッキングされる恐怖があるのだ。


 そして、そんな物と対峙しなければならない不運さは、せめて少しでも安全であってほしいという願望に繋がる。人間の能力を遥かに超えるコンピューターを敵に回せば、自分自身がハッキングされ殺される危険性をはらむのだ。


「何らかの安全装置がいるな」


 エディは腕を組んだまま考え込む。脳殻に接続する部分を外部からハッキングされた場合、果たして自分自身を制御出来るのだろうか?と、サイボーグならば誰だって考えてしまうものだ。


 そして、場合によっては仲間撃つ羽目になるかもしれないし、或いは仲間が自分を撃つ葛藤に直面するかもしれない。そんな状況に陥るのは御免被りたいのだ。


「安全装置としては幾つかの仕組みを作ってあるけど……実際にやられて見るまでは保証の限りじゃ無いわね」


 こんな時、アリシアは一切手心なく現実的な指摘をすることが多い。

 リアリストとしては最高レベルの存在である科学者として、目の前にある現実をそのまま飲み込み、最も適正な対処を黙って行う考えうる範囲で対策を施し、後は経験を積み重ねるしか無いと理解しているからだ。


 ただそんなクール過ぎる面があるからこそ、アリシアは誰からも線を引かれてしまう存在だった。かつてジョンソンは『アリシア自身が最高のAIだ』と言い放っていた程に……だ。それが事実である事を知ってるのは、上層部の一握りだった。


「まぁ、なんだ。こんな使い方前提の兵器だが、バーディーにはちょうど良いんじゃ無いか?」


 エディが零した珍しい軽口にテッドが大笑いしていた。これまた珍しい光景だなとバードは思うのだが、それと同時に少尉達がドローンのコアユニットに切り替えて動き始めていた。


「……すげぇ」

「こりゃやばい所にガンガン踏み込めるぜ」


 アーネストとヴァシリの2人が完全にウォーモンガーモードになっていた。

 極端な言い方をすれば、戦果を上げる為の犠牲は一切省みない。言い方を変えれば、パイロットの命より戦果が重要な場面へ投入するべく検討された、使い捨てになるのを厭わない決戦兵器と言う事だ。


 そのパイロットにサイボーグを使おうという、いわば生身からの当て付けを逆手に取ったドローン兵器の実用化だった。安全なところにサイボーグユニットの本体を置き、遠隔操作で強襲型兵器を突入させ、ダメになった自爆させる作戦だ。


「……とにかく重武装って話ですけど、これ、機体が重ければ射撃には良いですよね。銃口がブレないから当たりやすくなる」


 先の戦闘で射撃を外しまくったアナスタシアがそんな言葉を漏らした。若干ウンザリ気味とも言えるが、その実は歓迎している部分もある。


「あれがそのトンデモ系決戦兵器だろ?」


 ダブが指差したのは、キャンプアンディの郊外を飛んでいる4機のケンプファーだった。ドリーとジャクソンのコンビ2機に、ビルとペイトンのコンビ2機が宙を飛んでいる。


 主兵装は専用の60ミリスーパーバズーカを左右に1基ずつ持ち、S-16と同じ50口径弾を使うオートマチックライフルを両腕に装備。背中に背負ったジェットエンジンはラムジェット推進型で、地上をマッハ1~2程度で飛行し続ける。


 装甲それ自体がリフティングボディなのだから、ケンプファーは地上効果が発生する程度の高度を自在に飛び回って敵を叩くのだ。その為に必要な武装は装甲を削ってでも装備している。


 ――――サイボーグをコアユニットにして使おう


 そんな声に促され試作されたその兵器は、結果論としてサイボーグにしか使えない兵器に化けようとしている。脳殻部から直接的に接続される機体では無く、遠隔操作される機体で戦闘を行うのだ。


「まぁ、スペアの機体まで用意されてたら完璧だと思わない?」


 ウォーモンガーな部分のあるバードは、遠慮無くそう言った。

 いざ戦闘に投入されて、ケンプファーが戦闘不能レベルまで損傷を受けたら敵に突入させて炎上し、ドローンとのリンクが切られたなら新しい機体とエンゲージして別の角度から突入する。


 それこそ、スペアの機体が尽きるまで延々と戦闘し続けられる夢のマシンだ。もっとも、それと敵対する事になる敵にして見れば、悪夢の方がマシと行ったレベルの事態なのだろうが。


「まぁ、バーディーの言う通り、運用方法それ自体を研究する必要がある。この件はBチームを専用の実験分隊としよう――」


 エディは自分だけ納得するような物言いでアレコレと思索に耽っている。

 それを見ていたバードは『あ、これは駄目なパターン』と気が付いていた


「――通信速度がボトルネックになるなら、場合によっては本体その物を地上に降ろしてドローンをそこから発進させる形でも良いだろうな……」


 一体どんな思案をしているのか。エディはどんな画を描いているのか。

 バードはとにかくそれが気になった。ただ、その答えの代わりにテッドが言ったのは、バード自身が自己変革を迫られるモノだった。


「後先考えずに飛び込んでいく度胸の良さはバーディーが一番だが、結果として悪い方に転がった事も一回や二回じゃ無いからな――」


 テッドは笑いながらバードを見ていた。恥ずかしさといたたまれなさで小さくなっているバードに追い打ちを掛けるように、テッドは更に手痛い言葉を遠慮無く叩き込んだ。


「――その意味では遠慮無く切り捨てが出来るってのは良いのかもしれん。それこそ、金星のジェフリーステーションの時の様にな」


 デコットユニットに入った少尉達が興味津々な顔で見つめる中、バードは『もう一度デコットモードにしようよ』とロックを誘いデコットユニットに意識を遷移させてユニットを起動させた。


 無線接続され起動するまでに凡そコンマ2秒程掛かるのだが、その瞬間は何とも言えない微妙な気持ち悪さを感じるのだった。


「あんまり良い気分じゃ無いな」


 抗議するかのように漏らしたロックは、ソリットなボディの各所をもう一度再確認した。両腕と両脚付近に多数のバスが用意されていて、それはあの502大隊の新型が装備しているMCCバスと同じ構造をしているのだ気が付いた。


「まぁ、コレに慣れればいつでもDチームへ転属できそうだぜ」


 ライアンがボソリと笑えないジョークをこぼし、全員が失笑した。ただ、将来的にはその可能性があるので、慣れていた方が良い事は容易に想像が付く。

 だが、それはともかくとして、どんな使われ方をされるのかだけは想像が付かないでいた。そして、バードの思惑を遙かに超える任務が発生するのだが……


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