42.おかえりなさい(42/42)
大きな石の城壁に度肝を抜かれた。これが村の入り口の門構えとは思えない。閉じられた門に声をかける。行商人に教えられたと言うと、門がゆっくり開いた。
どうも森に旅人を惑わす仕掛けがしてあるらしい。
たしかに途中、すごい霧が出たんだが、こうしてたどり着いたのも何かの縁だということで、村に入るのを許された。
不思議だった。
初めて来る場所なのに、懐かしく感じた。
村の門を守る若い男が「村長に挨拶しろ」というので、俺は村長の家に向かうことにした。
その途中――
金髪碧眼の、まだ六~七歳くらいの小さな女の子と鉢合わせた。
ふわふわとした髪が風に揺れる。
あれ……。
なんでだろう。
涙がこぼれた。
「あれ? 泣いてるの?」
「あ、うん。どうしてだろうね」
女の子がじっと俺を見上げる。そして――
「パパ?」
「え?」
「パパだ! 帰ってきたんだ! ひいおじーちゃーん! パパ帰ってきたよ!」
きょとんとする俺を差し置いて、女の子は村長の屋敷の方に手を振った。
大柄な山男みたいないかつい老人がやってくる。
「ふむ……どうやら恐らく……そうか。お前さんがログ・ノーティスなんじゃな」
「あ、あの、初めまして」
「導きの書が残した通りじゃの。そうか……お前さんは……ようやった。成し遂げたんじゃ」
「はいぃ?」
「まずは家に帰ろう。それから教会に光の書が安置されとる。それを読めば、お前さんは自分が何者か……思い出せぬかもしれぬが、理解はできるはずじゃ」
老人は目に涙を溜めていた。
隣で小さな女の子が両腕を万歳させる。
「ねえパパ! だっこして!」
「君は……なんで俺をパパなんて呼ぶんだ?」
「だって、パパだもん。ほら抱っこ!」
老人に視線を向ける。ゆっくり頷いた。
もしかしたら、ここが俺の居場所なのかもしれない。
正直、いきなりパパにされるなんてわけがわからないけど。
俺は女の子をそっと抱き上げた。
「おっきくなったでしょ!」
「ええと……」
「しょーがないよね。パパが知ってるのって、赤ちゃんだった時だもん」
不思議と全てを受け入れられた。
老人が笑う。
「落ち着いたら、お前さんの物語を最初からひもといていこう。この世界の誰もが忘れてしまったとしても、導きの書には全部書いてあるんじゃからの」
俺はそっと女の子を地面に降ろすと、膝を折って彼女の目線の高さに合わせた。
どことなく懐かしい。大きな瞳。屈託無い笑みに、胸の中がじわりと温かくなる。
「だいじょーぶだよ。これから新しく、思い出いーっぱい作ろうね。ママの分まで、いっぱいだよ!」
不意に、俺は自分の胸に手を当てる。
指輪が二つ。その意味が今、わかった気がした。
「そうだな。そう……だよな」
俺は小さな少女を抱きしめる。
ずっとずっと、こうしたかったんだ。
何もかも無くしてしまったんじゃない。
俺の腕の中には、大切なものがこうして残っていた。
遠く天から声が聞こえた気がした。
おかえりなさい……と。
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