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霧のメサイア  作者: 川端矢次郎
第一章 聖女の手のひら
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プロローグ

 車椅子に乗った老人の姿が、見えていないわけではなかったのだ。


 時間には余裕を持って出かけた。

 特段急いでもいなかった。

 ただ、面倒くさかったのだ。

 閉まりかけたエレベーターのドアをもう一度開いてやる、たったそれだけのことが。

 

 ドアの向こうから老人がこちらを見ていた。

 それを見なかったことにした。



 

 ヨシヤは、今朝のそんなちっぽけな不親切を思い出した。

 地獄に落ちるまでもないチンケな罪への報いとして、自分はこんな場所に飛ばされたのだ。

 そう考えるほかないように思えた。


「なに……これ……?」


 レジ袋を手にさげたまま、ヨシヤは立ち尽くした。

 奇怪な獣の声が響き渡る。

 そこは鬱蒼とした森の中だった。

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