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学園で一番

 また、いつものように授業を終えてしばらくぼーっとしていると、例のごとく隣にいたジルに話しかけられた。



「昨日は一緒に帰れたか?」


「え? まぁ、な」


「そうか。それはよかった。いやぁ、まさかあのネルさんとクロードが仲良しとはね」


「どういう意味だ?」



 ……昨日言っていた〝あの噂〟について言っているのだろうか。



「だってさ、ネルさんって頭が良いことで有名だろ? 成績はいつも上位だし。ま、実技はあんまり振るってないみたいだが」


「そうだったのか」


「だから、そうだな……実技のクロード、座学のネルさんってところか」


「なんだそれ」



 ジルは俺の机に手をついて、ニヤけながら言う。



「成績上位者……やはり〝アレ〟を狙ってるのか?」


「アレ? なんのことだ」


「は? 知らないのか? その年で一番成績が優秀だったヤツに学園側から与えられる〝どんなワガママでも聞いてもらえる権利〟がもらえるシステム。通称『学イチ』のこと」


「始めて聞いたぞ、そんなの……」



 ジルは呆れたように頭を抱え、また俺の机にドンと手をついた。



「お前は学イチを狙える圏内なんだぞ! なんでも許される権利、欲しくないのか? 一昨年の成績一位は学食に『ニガウリのソテー』を追加したらしい」


「あぁ、苦くて食えなかったやつだな。誰が頼むんだと思っていたが、そういうことか」


「え? 結構美味いけどな……って、そうじゃなくて! お前の成績は去年が全校で七位、ネルさんが五位なんだ」



 よくそんなに把握しているな……お前は勉強できないだろうに。



「で?」


「だから努力して一位になって、ほら……図書館の禁書のコーナーでも見たらどうだ? その時はほら、俺にも見せてくれよ」


「はぁ……いいか、禁書コーナーってのはべつに卑猥な本が沢山眠っているわけじゃないぞ」


「そ、そうなのか! ……いや、べつに知ってたけどな!」



 やはりバカだったか……くだらないな。一位なんてそう簡単に取れるわけないし、学園に頼みたいことも変えたいこともない。何せ、今の生活には何一つ不満がないからな。いや、強いて言うなら授業は一人で受けたいものだ。



「まぁ、そんなに言うなら俺も成績一位を狙うことにするか」


「おっ! やる気になったか」


「で、学園に頼んでお前が俺に近づけないようにしてもらう」


「そ、それは本当に……やめてくれ」



 そんな話をしながら過ごしていると、背後から話しかけられた。すぐにわかる、ネルの声だ。



「あの、クロード……今日も一緒に帰ろう」


「まぁ、約束だしな」


「よかったらジルくんも一緒にどう?」



 ジルは首を横に振って、立ち上がった。



「俺はこの後さ、購買に夕食を買いに行くという大事な用事があるんだよ。だから二人で帰りな」



 そう言って、彼はそそくさと教室から出てしまった。そんなに急いでいる様子はなかったのだが……不思議なヤツだ。


 すると、ネルもまた不思議そうに首を傾げた。



「あの、クロード。購買ってさ、ジルくんが行ったのと逆方向じゃない?」


「あ……確かに」





 その後、いつもよりもゆっくりと、二人で寮を目指した。夕暮れに照らされたネルの横顔を見ていると、何故だろう。懐かしい気持ちになった。理由はわからないが、どこか遠い記憶の中で……いや、気の所為だな。



 すると、こちらの視線に気づいた彼女がすぐさま目を逸らして言った。



「な、何……?」


「何も」


「そう?」



 見られるのは嫌だったか。人間は目と目を合わせてコミュニケーションをとるものだと心得ていたが。



「そういえばネルは、成績優秀なんだってな。ジルが言ってたぞ」


「ジルくんが? いやぁ、まぁ確かに去年の順位は高かったかな。六位とかだっけ」


「五位だろ」


「そうだっけな」



 自分の成績には無関心なんだな。まぁ、俺も人のことは言えないが。



「今度、苦手な科目でも教えてもらおうかな。ネルは座学が得意なんだろ?」


「クロードに勉強で教えられることなんてないよ。むしろ、私が魔法の使い方を教えて欲しいくらい」


「いや、俺は魔獣だから。持ってる魔力量が人より多いだけだ」


「ふーん。それって、もしかしてちょっとだけズルい?」



 ネルは優しく笑って、立ち止まった。つられて俺も足を止め、彼女の方を見る。



「ねぇクロード。君、友達っている?」


「いない」


「ジルくんと私だけってことね」


「いない」


「人と関わる機会が少ないから、人間について学べる機会も減ってるんだよ。だから、君と私で人間らしいことしよう」



 人間らしいことか。



「それって、どんなことだ?」


「色々あるけど、そうだな……夕日に向かってダッシュ、とか?」


「お、スタミナ勝負ってわけか」


「冗談だから、人間ジョークね」


「俺も冗談で言ったんだよ、魔獣ジョークってやつだな」



 ネルは可笑しそうにして、また歩き出した。



「じゃあさ、クロード。手始めに、明日の放課後一緒に勉強でもしてみる?」


「丁度苦戦してた『薬草学』について教えてくれるならいいが」


「いいよ、薬草学得意だし」


「そうか。じゃあその、よろしく」



 なんだか不思議な感覚だ。


 今まで、なるべく一人でいることにこだわっていた。理由は、俺の正体がバレるリスクを背負いたくないということと、人間への理解がまだ足りていないと思うからだ。



 しかし、その二つを気にせずに関わることができるネルという存在が現れた。俺は、そんな彼女のことをどう思えばいいのだろうか。こういう関係のことを、何と呼べば……。



「なぁネル」


「どうしたの?」


「さっき俺、友達はいないって言ったけどさ」


「うん」


「もしかして、俺とネルって友達か?」



 すると、ネルの表情がぱぁっと明るくなった。そして、いつもより少し高い声のトーンで言う。



「友達で合ってるよ!」


「そうか。よかった」


「うんうん!」



 ネルは何度も頷いた。



 寮に着くまでの間、特に大した話はしなかったが、少し充実感があるようにも思えた。これなら、誰かと一緒に帰るのも悪くない……のかもしれない。


 しかし、友達か……ジルはどうなんだろうか。



 そしてふと、ジルに聞きたいことがあったのを思い出した。明日、どうせ隣の席に来るだろうから、その時は問いただしてやる。



 ……〝あの噂〟について。

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