第十二話「遺憾じゃが・・・非常に遺憾じゃが・・・」
第十二話「遺憾じゃが・・・非常に遺憾じゃが・・・」
「……遺憾じゃが……
非常に遺憾じゃが……
今この状況に“最適な”体になっておる……」
ハカセは、強化された腕部をじっと見つめた。
先ほどまで黒く侵食されていたコードは、
いまや関節部へと組み込まれ、
まるで“エネルギーライン”のように脈動している。
ミカが目を丸くする。
「……あれ、侵食されてた部分……
なんか、機能してない……?」
ハルが淡々と説明する。
「侵食の影響を“エネルギー”とみなし、
腕部の強化に“消費”することで侵食をコントロールする。
侵食を進めるも戻すも自由自在……
そういう仕組みにした」
ハカセは深いため息をついた。
「全く、相変わらず、
“ぶっとんだ”発想じゃの……」
調律者たちは胸を張る。
「えへん!」
「褒められた!」
「もっとやる?」
「やらんでよい!!」
アイルがハカセの腕をじっと見つめる。
「ハカセ、ツヨクナッタ?」
「……まあ、否定はせんがの……
わしはただ、治ればよかっただけなんじゃが……」
ハルが肩をすくめる。
「治すだけじゃ足りなかったんだよ。
境界の侵食は“理”そのものだからな。
理をねじ伏せるには、理を上回る“技術”が必要だった」
タケルが胃を押さえながら笑う。
「……なんか……ハカセ……
前より頼もしくなった……気がする……」
「タケルくん、胃を押さえながら言うでない!」
ミカが苦笑する。
「でも……よかったよ、本当に……」
境界が静かに揺らぐ。
まるで“想定外の突破”に驚いているように。
ハカセは、強化された腕を軽く握りしめた。
「……ふむ。
侵食を“エネルギー”として扱う……
そんな発想、わしにはなかったのう」
ハルが不敵に笑う。
「だから言ったろ。
境界の理も、絶望も、
**技術でねじ伏せる**って」
調律者たちが一斉に頷く。
「ロマンだね!」
「ロマンだよ!」
「ロマンしかない!」
アイルも笑う。
「ハカセ、カッコイイ!」
ハカセは、照れくさそうに頭をかいた。
「……まったく……
おぬしたちには敵わんわい……」
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✦ 第4章「境界突入」終章
「さて、いよいよ境界も“焦れて”来たようじゃの。見てみい」
ハカセが指差した先には、
ぽっかりと空いた“闇”があった。
それは穴でも、空洞でも、空間の裂け目でもない。
ただただ“どこにもつながっていないようで、どこにでもつながりうる”
そんな不気味な黒。
「さまざまな問いを用意しておったはずじゃが……
おぬしらのせいでそれらがすべて吹き飛んで……
“次が最後の問い”になりそうじゃ」
調律者たちがえへへーと照れる。
「整備する時間、を与えてくれるようじゃ。
一度地上に戻れるが、どうするかの?」
ハルが肩をすくめる。
「ラスボス前のセーブポイントかよ……
まあ、準備させてくれるってんなら戻らない手はないな」
「だね!」
「……俺の胃薬も残りが心もとないから正直助かる」
ミカが驚く。
「え!?あんなに積んでたのに!?」
タケルは無言で指をさす。
そこには――
**胃薬依存型観測装置の“胃薬スロット”が、ほぼ空。**
「……胃薬依存型は伊達じゃない、か」
「……全然うれしくない……」
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✦ 地上へ戻ると
「やあ、おかえり。無事に帰ってきたようだね」
「誰?新しい研究員さん?」
そこにいたのは、
ラフな格好に白衣を羽織り、
気品と余裕をまとった妙齢の美女。
「……あ、あれ、わしのコピー」
「え!?あれ、ハカセなの!?
サーバのデータから作られたっていう!?
なんかすごい美人さんなんだけど!?」
「まあ、AIに性別なんてないしのう。
中性的、ともいえるからどっちにもなれるんじゃ」
皆がどういう顔をすればいいのか分からず固まる中、
美女ハカセはけらけら笑いながら言った。
「まあ、面白ければいいじゃないか。
それに、流行ってるんだろ、こういうの」
手に持っているのは研究資料ではなく――
どう見ても“ラノベ”。
「まあ、これからよろしく頼むよ」
その笑顔は、
境界の闇よりも、
侵食よりも、
問いよりも、
よっぽど“強敵”に見えた。
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次章は、いよいよ――
**境界が用意した“最後の問い”**
そして
**アイルたちが辿り着く“答え”**
が描かれることになる。
ここから物語は、
“存在”と“心”の核心へ踏み込んでいく。




