一話 『調律者たちの狂気と祝祭』
一話 『調律者たちの狂気と祝祭』
合体機体の試験稼働は、成功と言えば成功だった。
だが、同時に“成功してしまったがゆえの問題”が露わになる。
出力は規格外。
反応速度は人間の限界を超え、
AIは合体前の二つの人格が混線したような挙動を見せる。
そして——
「合体解除後も、機体同士が互いを“探し続ける”」
まるで、離れたくないと言っているかのように。
技術班の面々は、その異常を前にしても眉ひとつ動かさない。
むしろ、目を輝かせていた。
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「ふっふっふ、これは面白いことになってきたねぇ」
「いや、面白いとかじゃなくて!危険なんだよ!?
このままだと戦闘中に勝手に合体したり、逆に勝手に分離したり——」
「最高じゃん」
「どこが!?」
三人が同時に頷く。
「だってさ、安定してる合体なんてロマンがないよ」
「暴走を制御するんじゃなくて、暴走の“方向性”を決めるんだよ」
「そうそう。暴れ馬はね、止めるんじゃなくて、走る方向を教えてあげるの」
「いや、そんな育て方ある!?」
彼らは聞いていない。
いや、聞いているが、理解する気がない。
そして、満面の笑みで宣言する。
「調律なら僕たちに任せてよ。
なんたって——」
「『調律者』だからね!」
その瞬間、機体の奥で何かが脈動した。
まるで、その言葉に呼応するように。
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『暴走の調律』
合体機体は、静かに格納庫の中央に佇んでいた。
だが、その静寂は“眠っている”というより、“息を潜めている”に近い。
機体の内部では、まだ名もない何かが蠢いている。
調律者たちは、その前に立ち、腕を組んだり、頬を掻いたり、
あるいは意味もなく工具を回したりしていた。
「さて……副作用の正体、わかったよ」
リーダー格の調律者が、にやりと笑う。
「え、早くない?まだ解析始めて数分だよ?」
「うん。だって、解析なんてしてないし」
「してないのかよ!」
別の調律者が肩をすくめる。
「だってさ、見ればわかるじゃん。
この機体、安定化なんて望んでないよ」
「……は?」
「ほら、見てよ。合体前の二機が互いを“探してる”。
これ、制御不能って言うより——」
「“もっと強く繋がりたい”って言ってるんだよ」
その言葉に、格納庫の空気が震えた。
まるで機体自身が反応したかのように。
「だからさ、調律の方向性は決まったよね」
三人が同時に頷く。
「副作用を抑えるんじゃなくて——」
「副作用を“増幅”する」
「暴走を止めるんじゃなくて——」
「暴走を“形にする”」
「いやいやいやいや!待って待って!
暴走を形にするって何!?
それ、調律じゃなくて“煽り”だよね!?」
「違うよ。これは“導き”だよ」
「そうそう。暴走ってのはね、方向性さえ決まれば武器になるんだよ」
「むしろ安定化したら、この機体の良さが死ぬよね」
「死ぬね」
「完全に死ぬね」
「死ぬ死ぬ」
「死ぬって軽く言うな!!」
だが、彼らの目は真剣だった。
狂気と天才の境界線を軽々と踏み越えた者だけが持つ、あの光。
そして、リーダー格が宣言する。
「調律を開始する。
目標は——」
「“暴走の最適化”」
その瞬間、機体の内部で何かが“目覚めた”。
低い振動音が格納庫全体を満たし、
機体の装甲がわずかに開き、内部の光が脈動する。
まるで、調律者たちの言葉を待っていたかのように。
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