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第10話

 20年、アルはアイシャと森で過ごし、愛刀を腰に差して賊らしいこともしないで平穏に暮らしていた。

 いつもよりも騒がしい鳥の地鳴きは空に響き、胸を叩くような不安が襲ってくる。

「アイシャ、息子に狩りを教えてやってくれ。俺よりもアイシャの方が上手だ。弓の技術も教えてやれ」

 アイシャと息子の背中を押して森の奥に行かせたアルは、枝から見守る鮮やかなオレンジ色の目をした梟に手の甲を向ける。

「行け、アイシャのところへ。奥まで誘導するんだ」

 アルの言葉を理解できたのか、梟は枝から離れてアイシャが向かった森の奥へと羽ばたいていく。

 1人になったアルは衰えることのない身体能力で木に登り、枝から枝へと飛び移る。

 森を抜ければ、生えて間もない草原が視界に映り込み、さらに王国軍の兵達が馬を走らせている光景。

「悪賊アルフォンス! 今こそ討つ!!」

 神々しい光に包まれる両刃の剣を掲げて、先頭に立つのは復讐に身を焦がす青年だった。

「マクス、執念深いな」

 復讐を果たそうとする青年の名を呼び、アルは木の枝から飛び降りて静かに抜刀する。

「アルフォンス! 一族の仇ぃ!!」

 マクスの雄叫びに応えるように王国兵も叫び、アルは単身で王国軍に立ち向かう。

「うぉあおおおおおお!!」

 王国兵を圧倒する咆哮に似た声を上げたアルに怯んだのは馬達。

 馬は前脚を勢いよく振り上げて体を反らし、王国兵はバランスが取れずに振り落とされていく。

 散らばる馬達に置いて行かれた王国兵を次から次へと斬り捨てていくアルは、返り血を浴びながらマクスを睨み続ける。

 息を切らすアルは大勢いたはずの王国兵を半分まで減らし、よろけながらも切っ先は捉えた。

 悪賊と呼ばれるアルを相手に戦う意志を失くした王国兵は、武器を構えることができない。

 唯一アルに立ち向かうのは光の剣を構えているマクス。

「アルフォンス!!」

 アルの名を呼んで勇敢に振り下ろすマクスに対して、アルは刀で受け止める。

「マクス、情けないぞ。魔力のない俺に魔女エマから与えられた剣を使うなんて」

「これは正義の剣だ! この力で悪を斬り裂く!!」

 マクスの怒りが光の剣に伝わり、輝きが増していくとアルの刀に亀裂が入った。

 アルは振り払うと刀を捨てて、遺体からロングソードを奪う。

 ロングソードで斬りかかろうとするも光の剣で弾かれて、刃は砂のように崩れ落ちる。

 光の剣は無防備となったアルの胸部を斬りつけた。

 出血する傷口に手を当ててその場に座り込んだアルは、生き残っている王国兵の1人に、

「息子に伝えろ……復讐に、意味はないと、行け、今すぐに!」

 呼吸を乱しながら、口腔内に溜まった血液が飛び出すほどの強い口調で伝える。

 王国兵は口を紡いで、マクスとアルフォンスを交互に見ながら急いで森へと駆け込んでいく。

 見慣れない森林に戸惑いながらも、王国兵は鮮やかなオレンジ色の目をした梟と目が合った。

「アルフォンスに頼まれてきました。お願いですから彼の家族が暮らしているところまで案内してください」

 王国兵の願いが通じたのか、梟は導くように森の奥へと飛んでいく。

 平地森林の先には開けた草原と小屋があり、弓と矢筒を背負う少年が屋根に登って空を見上げていた。

 気配を感じた少年は弓を手にもって屋根から下りてくると、森から出てきた王国兵を睨んでいる。

「誰だ?」

「て、敵じゃない。アルフォンスさんに助けられた事がある。王国兵を率いるマクスに、アルフォンスさんが先程討たれた」

 王国兵の口から零れた訃報がアイシャにも聞こえてしまい、小屋の入り口で膝を崩していた。

「父が、死んだ? どうして!?」

「彼は悪賊としてたくさんの人々を苦しめた罪人だった。ウズ族を滅ぼされ、家族を奪われたマクスは復讐を果たす為にアルフォンスさんを討ち取ったんだ。けど、死ぬ間際に伝言を」

「父は……なんて言っていた?」

 王国兵は小さく頷く。

「復讐に意味はない、と。多分ここで家族を守れってことだと思う」

 静かに沈黙をしていた梟が地鳴きを始めると、少年は首を横に振る。

「母さんが小屋で悲しみに暮れているのに、何もしないまま黙っていろと!?」

 立ち向かおうとする少年に、王国兵は止める為に肩を掴んだ。

「それはマズい、マクスには魔女エマ様に与えられた光の剣がある。人間が作った武器では絶対敵わないし、返り討ち遭うだけだ」

「じゃあどうすれば勝てる!?」

「死に急ぐな。まずは母親の傍にいて安心させた方がいい……そして落ち着いたら話をする。いいね?」

 少年から返事を聞けないまま、王国兵は少年の肩を優しく叩き、平地森林を抜ける。

 マクスが集めた屈強な兵士達は血が混じる草原に倒れ、斬られた痛みと苦しみに顔を歪めたまま息絶えていた。

 人並に強い兵士では勝てない事を思い知らされた王国兵は抜くことができなかった剣の柄を握り締める。

 隊長のマクスは光の剣を収めて、呼び戻した馬の隣で凄惨な景色を眺めていた。

「エイデン」

「は、はい!」

 エイデンと呼ばれた王国兵は目を丸くさせて返事をする。

「レナードさんの事もあり、大勢で攻めたというのにこの有様だ。アルフォンスがただの悪賊というわけではなかった……彼のように強い戦士はいないだろう。だが、こいつは俺の家族を奪った山賊、許すわけにはいかない、さぁ首を斬ろう」

 マクスの真下には座り込んだまま動かないアルフォンスの遺体があり、エイデンは唇を噛み締めて目を閉ざした。

 目が眩むほどに輝く光の剣を再び抜き、マクスは空に向けて振り翳す。

 鋭い一閃が振り下ろされた時、呆気なく転げ落ちるアルフォンスの首と静かに横たわる体は草原を赤く濡らした。

 マクスはアルフォンスの髪を掴んで鞍に吊るすと、馬に勇ましく跨り、鮮血を垂らしながら駆けていく。

 首がないアルフォンスの側に落ちている亀裂が入った刀を手に取ったエイデン。

「この刀が息子さんの手に入らないように、今は預かります」

 エイデンは口笛で呼び寄せた馬に跨ると、決して繰り返さない様にと心に誓い、振り返ることなく王都の帰路につく……――。

読んで頂き、ありがとうございました。

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