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花の妖精と腹黒王太子  作者: 水無月 撫子
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お客様のおでまし サフィー目線


 2017年最後の投稿でございます!



 バタバタ、バタバタ。


 いつも静かな王宮に今日は皆の足音が響いています。


 理由は簡単、本日、隣国のブルーファルケ帝国王太子ご一行がいらっしゃるからです。




「……うぐっ…」


 王太子妃らしからぬ声を出しているのは見逃して下さいな!!


「サファイア様!もうちょっとです!!」

「うぅ……」


 今、私はコルセットを締め中です。


 キツいよ~(泣)


 も、もう食べたものが出てくるかと思うぐらい絞められました…。

 やっぱり怖い、コルセット。


「サファイア様。締め終わりましたよ?」

「…ありがとう。」


 げっそりした私にニナが紅茶を淹れてくれました。


「ふはぁー」

「ふふふ、サファイア様。お疲れですね。」

「ええ、もうぐったりよ。世の淑女方も毎度あれを経験するなんて大変よねぇ。」


「でも、サファイア様は楽な方ですよ?」


「え?」


 いや、今何ていった?

 私のあれが楽だって?

 いや、だって本気で死ぬと思ったよ!?


「サファイア様はもともとスタイルがよろしくて腰もくびれてらっしゃいますからそれほど締めておりませんもの。世の淑女方はもっと締めていますよ?」


 その瞬間、私の顔から血が退いていく感覚がしました。


「だ、大丈夫でございますか?」

「えぇ、大丈夫よ。ただ、さっきのあれ以上に締めているなんて恐怖だと思っただけよ。」

「確かに、それはそうでございますね。」


 と、まぁ恐怖のコルセットの話はこの辺にしてドレスを着ることとなりました。


「まぁ、本当におきれいですわ。」


 うっとりした様子で眺めてくるニナ。


「そうかしら、わたくしは地味顔だから…」

「なぁにをおっしゃるんですか!!サファイア様が地味顔な訳ありませんわ!!!」


「そ、そう……」


 私の呟きに大きく反応するニナ。


 でも、このドレスは本当に綺麗…。


 今日のドレスは少しデコルテが広く、肩や胸元が心もとないデザイン。

 ちょうど腰の少し上辺りでスカート部分が広がっていてフリルが何段にもなっている。

 そこに、これでもかとパールをあしらっていて一体いくらすることか…。


 あぁ、もちろん色は白です!


 そのドレスに合わせたパールの装飾品も靴も髪型もとても上品な仕上がりです!!



コンコン



「あぁ、殿下でしょう。」


 そういって、ニナが扉を開けに行く。

 開いた扉の先から顔を見せたのは王太子エディーだった。


「やぁ、サフィー。今日も綺麗だ。」

「ありがとうございます。エディーもかっこいいです。」


 私がそう言うと、白い正装を身に纏ったエディーが赤くなってそっぽを向いてしまいました。


「コホン。それは、いいとして、行こうかサフィー。」

「はい。」


 何がいいのかよくわからないが、とりあえず行かなければならないだろう。



「サフィー。たった今あちらの王太子一行が王都へ入ったと知らせがあった。」

「そうでしょうね、エディーがわたくしを迎えに来るというのはそういうことでしょうから。」

「さすがだなサフィー。あちらの警護は予定どうりに上手くいっている。」

「まぁ、あれは王太子一行を守る警護ではなく我が国民を守る警護ですがね。」

「ははは、そこまで見越していたか。」


心底、楽しいといったように笑うエディーを内心疲れてるんだろうなと思いながらそこをわざわざ言おうとはしなかった。

 だって聞いたら今度は私が振り回されるから。


「当たり前です。だから王都の入り口からの案内役をお兄様にしたのでしょう?」

「そのとおりだよ。レイドは次期宰相で特務師団の団長だし、王太子妃の兄だからね。国民を守るためにとりなせる数少ない立場の人間だ。これ以上にうってつけの人材はいないだろ?」


 と、お馴染みの黒い笑みで返してくる。

 レイドお兄様、ご愁傷さまです。

 エディーの策略のいけにえと化した兄の冥福を祈ることとした。


 私たち二人は他愛のない話をしながら王太子たちが来るであろう王宮の正面へ移動した。



「王太子殿下、妃殿下に申し上げます。たった今ブルーファルケ帝国王太子ご一行が正門をお通りになられたとのことでございます。」

「そうか、分かった。」


 もう、いらっしゃったのか。

 まだ予定の時刻よりだいぶ早い。


「少し早いな。」


 エディーの方も同じように感じたようだ。


「えぇ、確かに。」

「サフィー。用心しておけ。剣は?」


 私にだけ聞こえる声で聞いてくるエディー。


「今日はこのようなドレスだったので剣ではなくナイフと毒、それから解毒薬だけです。」

「そうか、ならいい。」


 いつもは、ドレスの下に短剣を忍ばせているのだが、今回はちょっと無理そうだった。

 代わりに、右足に小型のナイフを10本。左足に毒薬を8本。腰回りに解毒薬を10本。それから胸元にナイフを1本。ドレス全体にもナイフや解毒薬、毒薬を仕込んでいる。

 あぁ、そうそう忘れるとこだった、髪に挿したパールの髪飾りはもちろん針だ。人を殺せる位の針ではある。

 まぁ、いつもはもっと多いのだが、このデコルテとデザインで少なめになってしまった。

 しょうがないか……。


「愛用の剣がなくやりにくいだろうがなんとか頑張るんだ。いざとなれば俺が守る。」

「いいえ、ご心配には及びませんわ。わたくしがあなたと背を預けて戦うことを望んだのですから、守っていただく必要はございませんわ。」

「くくっ、そうだな。」


 必要ないと言い切る私にエディーが面白そうに笑う。

 それを見て私も顔が少し緩んでしまった。


「あぁ、サフィーついたようだぞ?」

「あら、本当だわ?」


 さっきまでの一人の私という個人を脱ぎ捨てて幾重にも重なった王太子妃の仮面を被った。


 そうして、私たちの前には一台の馬車が止まった。

 青い鷹の紋章が入った馬車から一人の男性が降りてきた。


………濃い…


 あぁ、いけないついつい。

 でも、あちらの王太子のお顔はなにせ濃いという一言が似合う方だもの。


 焦げ茶色の髪に黒に近い碧い瞳。太い眉毛に黒みを帯びた肌。そして何より服がはち切れんばかりの大きな体。

 表面上は王太子妃としての微笑みを浮かべているけど内心ひきつり顔よ!!


「ブルーファルケ帝国王太子殿。遠いところよくおいでくださいました。」


 と、エディーが言う。

 それはもう、凛々しい涼やかな声だったのだが……


「あぁ、お初にお目にかかる。ブルーファルケ帝国の王太子、オルデン・ザルド・ブルーファルケだ。よろしく頼む。」


 おう!なんて、暑苦しい感じのお声。それに大陸公用語の発音汚い!これは向こうの言葉で話した方がいいかしら。


「こちらこそ、お初にお目にかかります。アクアリスト王国王太子のエレディオール・ライト・アクアリストです。それからこちらが……」


 と思ったらエディーもやはり向こうの言葉で話したわ。

 じゃあ私もそれがいいわね。

 スッとエディーの後ろから前に出る私。


「お初にお目にかかります。オルデン王太子殿下。わたくしは「おお、なんて綺麗な方だ!!お名前は?」」


「サファイア・ブ「おおそなたはサファイアと言うのか名前まで綺麗な名前なのだな!!」」


「……お褒めに預かり光栄ですわ。」


 ガシッと私の手を握る両手に私はナイフを突き刺してやろうかと思いましたがそれはさすがにいけないので止めることにしました。


「オルデン殿。その手をお離しいただけますか?」


 恐ろしいほどの殺気と低音が響いてくる。

 ヤッバイ。エディーが切れてる。


「おお、すまないな。サファイア殿。エレディオール殿。」

「オルデン殿下。国王陛下と王妃殿下がお待ちです。」


 ナイス!

 レイドお兄様!!


「エ、エディー行きますよ?」

「サフィー今度手を握られたら容赦なく刺せ。」

「はぁ、分かったから。ほら、行きますよ?」


 そう言うとエディーはぎゅうっと私を抱きしめて頷いた。



 はぁ、全く疲れるわ……。


 

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