表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻酷法〜Starting Story〜  作者: SOR
1章 はじまりの!
6/18

決意と赤

加羅くんと仁奈の仕事が終わるのを待ち、私たちはミロック城へ向かった。

シーズセラピーの設立許可をもらうためだ。

さっそくアヤメさんにそのことを伝えると、嬉しそうにしてくれた。


「シーズセラピーなかなかいいじゃない、私は応援するよ如紗」

「ありがとうございますアヤメさん」

「ただ優がどう言うかよね」

「優がどうゆうか…?優が、どう、ゆう…??」

「あんた、最近優と一緒にいるから頭わいたんじゃない?」

「アヤメさんその言い方ひどくないっすか!?」


ひぇ〜と加羅くんはオーバーリアクションを取る。

実行務候補生としてミロックにいるんだから、距離が近いのも当たり前だよね。

なんだか少し、羨ましい…


「四醋剣でメンバーを固めるかと思いきや、四季剣保持者、しかも実行務候補にBe Quietまでいるからねぇ。

まあ、波乱も波乱だよね」

「えっと、あなたは…?」

「はじめまして!俺、鏡賀白空(きょうがはくう)!よろしくなっ」

「白空さんよろしくお願いしやす!」

「おう加羅!やすやす!!」

「白空さんとか違和感しかないなあ…」


遠くで見ていた如月先輩が言った。

なぜか二人は同じ匂いがする。


「まあでも今のミロック王はアヤメさんだし、アヤメさんが良いなら別にいいんじゃない?

って鏡賀白空の双子の妹、鏡賀利愛(きょうがりあい)は思いまーす!」


「私、梅崎零(うめざきれい)の実の兄である優も最近なんか頭堅いし、断られてもやっていいわよ。

私が許可するわ。なにか言われたらすぐ教えて、力でねじ伏せるから」


「ん〜でもどうなんでしょう。

アヤメさんの一つ前の七代目ミロック王である椿元星(つばもとすた)調べによると、実行務長である優さんの意見は耳を傾けた方がいいかと」


「何あんたらどさくさに紛れて自己紹介してるの?あとあれだね、星のDQNネーム感やばいね」

「こ、これがロイヤルファミリーか…!」

「憂間、ちょっとそれ違う」


みんなキラキラしてるなあ…ってあれ!?


「卯月先輩…」

「話はなんとなく聞かせてもらった」

「それヒーローが悪者の計画を盗み聞きしてて得意げに出てきたものの、そのままやられるパターンのやつだ」

「俺は強いからな」

「あ〜ほんと零ちゃんの言う通り、最近の優やばいかもしれないわ」

「やっぱむつきもそう思う?」

「優だけにですよね!優はゆうですよね!!」

「は?」

「あ、あの!!」


このままだと収拾がつかないと思った私は、会話を遮り卯月先輩の前に立ちはだかった。


「ミロックでの四醋剣の見方を変えたい、そう思ってシーズセラピーを作ろうと思います」

「…メンバーは?」


さすが卯月先輩、先ほどと顔つきが変わった。

背負っている立場がある以上、しっかり見極めたいのだろう。


「私相田如紗に憂間京、三宅加羅と望月仁奈です」

「ふーん…」

「ちょっと優、何その反応」


いつの間にか卯月先輩の隣に移動していた如月先輩が脇腹を小突いた。


「好きにやればいい、そんなもの非公式だって出来るだろう。

俺らが知らないだけでもしかするとそんな団体あるかもしれないし。

全部が全部管理できるわけじゃない」

「それじゃダメなんです」


私は卯月先輩の言葉を遮った。


「私は、ミロック公認のシーズセラピーを作りたいんです。そうじゃないと意味がありません。

中途半端なことは出来ないんです。

ミロックの偏見で夢を壊されてしまうのを見過ごせないだけ」


チラリと憂間くんを見る。

シーズセラピーは私だけじゃなくて、憂間くんの夢でもある。


「このミロックには四醋剣に悩まされている人だっているかもしれない。

全て管理できないと言うなら、そんな人たちを見放せと言うのですか?」

「…お前の気持ちは分かる。

市場のこともあったしその思いは強いだろう。

だが四醋剣撲滅を一番謳っている俺たちが許可を出したらどうなる?

シーズセラピーどころかミロック全体が不安定になる」

「それは…」


言葉に詰まる。

結局、ぶち当たる問題はそこなのだ。

卯月先輩の言い分も痛いほどわかる。


「…なら俺が持ちますよ」


加羅くんが私を守るように一歩前に出た。


「実行務候補でも組織の承認をする権利はありますよね、優先輩」

「ああ、そんなこともお前に教えたな」

「ならシーズセラピーは俺が管理します。

それなら優先輩たちが関与していないということになるでしょう。

もしなにかあったとしても、実行務候補生が勝手にやってるだけ。

皆さんに迷惑はかけません」

「お前たちに出来るのか?」


卯月先輩は加羅くんに向かって言い放つ。

その瞳にはどうしても守りたいものを守ろうとする意思が見えた。


「出来る、出来ないじゃないですよ優先輩。やるんです」

「忘れてたわ。

加羅は前からそういうヤツだったな」

「それじゃあシーズセラピーは…!」

「これを渡しておこう。とりあえず現時点でのメンバーの名前を本人たちで

書いて欲しい。あとは加羅に託しておけ」

「ありがとうございます!」


卯月先輩から一枚のプリントをもらう。

シーズセラピーが現実になる…!


「あと何か調べ物なら図書館に行ってもいいかもね。

あそこの館長が四季剣と四醋剣の研究をかなりやってるらしくて、参考になるものがたくさんあるよ」


如月先輩がニコニコしながら教えてくれた。


「分かりました、行ってみます」

「正式にOKが出たら活動場所も必要になるから探しておけ」

「オッケーが出たら探してオッケー!」

「は??」

「優先輩のそのは?っていう威圧、俺好きっす。

なんかクセになりますね」

「ごめんなさい、加羅くんまだアメリカから帰ってきたばかりだからテンションがおかしくて…」

「えっ何そのフォロー。それでなら仕方ないか〜とはならないけど??」


もうここで書いちゃえと利愛先輩がボールペンを持ってきてくれた。

三人とも嫌な顔一つせず名前を記入してくれた。


「本当は後輩がこうやって打診してくれること、すごく嬉しいはずなのに素直じゃないよね」

「うるせえよ、一応はこういうやりとりもしないとだろ。

元はと言えば、むつきが何でもかんでもやろうとするからミロック内でいろんなルールが出来て、実行務長の俺に仕事が回ってきて…」

「あ〜はいはい、小言は良いから。

そういうのは現ミロック王に言ってくださ〜い」

「ふ、夫婦喧嘩に巻き込まないでもらえる!?」


後ろで如月先輩たちの声が聞こえる。

温かい気持ちになりながら最後に相田如紗、と文字を書いた。


「まあ拒否されることもないだろう。

俺が言っても変だが応援はしてるから」

「ねえなんで優がそんな大きい顔してるの?

今のミロック王は私なんだけど」

「分かった、分かったからお前は怒るな。

後ろのボディガードが今にも俺にアッパーカットをキメてきそうで怖い」


私はじっとみんなの名前の書かれた紙を見つめる。ここからまた私の夢が始まるんだ…!





「んで、シーズセラピーって具体的になにやんの?」

「薬品の融合とか!?ワクワクしちゃうなあ。

お砂糖にスパイス、素敵なものいーっぱい入れてみたい!」


ルンルンと仁奈はスキップしながら言った。


「いや、そういうのはしないと思う…」

「そーなの!?それじゃ何をするのよ」

「それは…」


しまった、メンバーが集まったことの喜びでその後のことを全く考えてなかった。

ちらっと京くんにSOSを送る。


「シーズセラピーのリーダーは如紗でしょ。

名簿の名前も最後に書いてたし。俺に聞いてもなあ」

「そうなの!?私!?」

「他に誰がいるのよ。京は根暗だし、加羅はアホだからまとめるのなんて無理でしょ」

「毒舌だなあ仁奈さんは!泣いちゃうよ!?」


私が、リーダー……


「そういえば私、今までずっとBe Quietにいたから四季剣のことも四醋剣のことも詳しくは知らないんだよね。

ミロックにはどれくらいの割合でいるの?」

「四季剣の方が多いってのは俺も聞いたことがあるけどどうなんだろうな」

「それを調査してもいいんじゃない?人口比っていうの」

「確かに把握しておいた方が良さそうだね」

「どうせならミロックだけじゃなくて他の国にも頼んでみようぜ!」

「他の国って、マリックとかサラとか?」

「おう。近々各国の実行務が集まる会議みたいなのがあるんだ。

そこで呼びかけたらいいかもしれない」

「そんなことが出来るの!?」

「えへへ、こう見えて俺期待されてるんだぜ」

「見かけによらずよねえ」

「なんだよ仁奈、文句あるのかよ」


素直にすごいとは思うけど、京くんの前でこういう話題は出しにくいなあ…


「他の国の事情ははそこで聞いてみるとして、とりあえずミロックだけは俺たちでやったら?

如紗もミロックに慣れないとだし」

「京の言う通りね。

そういえばこの辺で今任務やってるから合流してもいいわよ」

「任務?」

「分布された四醋剣の回収をBe Quietがやってるの。

四季剣と四醋剣って相性最悪だからむやみに近づくと危ないのよね」

「慣れるっていう点では合流しても良さげかも」

「ならそうするか」


すごい、みんなのこれまでの経験が上手い具合に噛み合っていく…!

呼びかけをする時は実行務候補である加羅くんに、ミロックを調査するには仁奈のBe Quiet網を借りる…


「あの、みんな!」


動き出そうとする三人を私は止めた。


「集まってくれて、ありがとう。必ずみんなの夢を叶えられる場所にするから」


私がそう言うと三人とも笑みを返してくれた。

今ならなんだって上手くいく、そう信じてやまなかった。





仁奈の言っている現場へ行くと、もう任務は始まっているらしくBe Quietの人たちがそれぞれ散らばって四醋剣を探していた。


「テンバーじゃない!あんたも手伝いにきてくれたの?」

「私たちシーズセラピーと言って四醋剣のことについて調査しているんです」

「シーズセラピー?聞いたことないな。

まあ手伝ってくれるのならありがたいわ。私らより四醋剣のこと知ってるだろうし」


Be Quietのお姉さんは地面を指差して言った。


「地面に光るものがあったら四醋剣だから、それを回収していってほしい。

回収する時はこの手袋をしてね、それないと私たちにも被害が及ぶから」


手袋を四人分差し出す。

あえてどうなるかは聞かないでおこう…


「分かりました。範囲はどの辺までですか?」

「それが結構広いのよねえ」

「じゃあ私たちも散らばって探そっか」

「その方がいろんなとこ見れていいかもな。

作業が終わったら報告会、ということで」

「分かった!それじゃあまた後でね」


こうして、私たちは散り散りになった。


さっそく光るものを見つける。

少し地面を掘り起こしてみるとそこには見慣れた剣のキーホルダーが落ちていた。

これを回収していけばいいんだ、なんだ簡単簡単。


よく目を凝らしてみると、四醋剣の場所はよくわかった。

遠くの自販機の近くにもキラリと光るなにかが見える。

きっとあれも四醋剣だろう。


「お母さん、喉乾いたからジュース買ってきても良い?」

「さっき飲んだばっかりじゃないの涼太。トイレ近くなるからほどほどに…

ってあら、こんにちは。もしかしてBe Quietのみなさん?」

「こ、こんにちは」


お母さんらしき人に声をかけられて私は作業の手を止めた。


「休日なのにお疲れ様ね」

「いえ、私は手伝いを…」

「そうなのね。いつもミロックの平和を守ってくれてありがとう」


母親はそう言って笑った。

…この人は四醋剣を排除してくれてありがとうと言っているんだ。その事実に少し胸が痛んだ。


「あっちに自販機がある!ちょっと買ってくるね」

「こら、涼太!走ったら危な」


次の瞬間、大きな爆発音がする。

言葉では言い表せない大きな音だった。

ピチャピチャと何かの液体が頭から降り注ぐ。

私の身体はまるで金縛りにあったように硬直していた。

そして目の前に繰り広げられている光景から目を離せなかった。


「たっくん、たっくん!」

「お母さん離れてください!この先は危険です」

「やだ、やだなんで、たっくん!!」


悲痛な声をあげる母親をBe Quietが止めている。

母親が手を伸ばす先には、変わり果てた姿の子どもがいた。いや、子どもだったなにかがあった。


「如紗ちゃん!いまの大きな音なに!?」

「う、うぷっ」

「如紗ちゃん!?」


加羅くんに声をかけられ、私は吐き気を催しその場で崩れた。

慌てて口を抑えるが、目の焦点が合わず視界が揺れる。


「えっ何よこれどうしたの?」

「如紗がちょっとやばいんだ、医務班呼んできてくれないか仁奈」

「わ、分かった!」


パタパタと走り去る音が聞こえる。


「如紗ちゃん、吐くなら吐け。

その方がスッキリするから」


加羅くんが背中をさすってくれるが、吐き気がするだけだった。

先ほどの光景が頭から離れない。

ずっと気持ちが悪い。

さっきの液体って、もしかしてたっくんの…


「うっ…うぅ……うう」

「大丈夫、大丈夫だから。ゆっくり呼吸して」


何度も何度も背中をさすってくれる。

5分ほどしただろうか。

少しだけ吐き気がおさまった私はゆっくり手を口元から離した。


「か、加羅くん…血……血が…肉が……」


ヒューヒューと喉が鳴る。

言葉にならない。

ちゃんと酸素を吸っているはずなのに、一瞬で二酸化炭素に変わっていく。

息ができない、苦しい。


「今度は過呼吸か!?このままじゃ如紗ちゃんは…どうすれば……」

「如紗!!」


聞き慣れた声が聞こえてくる。

私はずっとその声を、望んでいたのかもしれない。

声の主はそっと私の肩を抱いて言った。


「ゆっくり深呼吸して、すーはー…」


その声の主に合わせて私は呼吸をする。

ああ、なんだろう気持ちよくなってきた。

頭の中がぐるんぐるんと回る。


「如紗、如紗!!」


そのまま私は、真っ赤な世界へと堕ちて行った。





『続いてのミロックニュースをお伝えします。

痛ましい事故が起こりました。

Be Quietの四醋剣回収作業の途中で、小さな男の子が爆発に巻き込まれ命を落としました。

遺族の要望もあり、名前は伏せさせていただきます。

やはり、四醋剣は忌むべき存在です。

もし何か不審なものを見かけた時は、ミロック警察であるBe Quietにすぐに通報ください』





鉄の匂い。

そういえば小学校の時に耐震工事の影響で仮校舎で過ごしたことがあった。

その仮校舎も鉄のパイプで出来ていてこんな匂いがしたっけ。


それにしても、ここは暑い。汗が止まらない。

私は持っていたハンカチで汗を拭いた。

ん?なんだろうこのぬめっとした感じは。

ハンカチを見てみるとそのハンカチは真っ赤に染まっていた。


赤、赤、赤、血、血、血。


フラッシュバックする光景、一瞬で粉々になった子ども。

子どもが着ていた黄色の服は、黄色だったとは分からないほど綺麗な真っ赤に染まっていた。


「いやあああああ!!!!血が、血があああっ」

「如紗!!」


飛び起きた私を男の人が止めた。


「京、くん…」

「落ち着いて」


思考停止した私は京くんの顔を見つめていた。


「如紗起きた!?」


仁奈と加羅くんが部屋に入ってくる。


「全く丸一日も気失うなんてよ…とりあえず何か飲むか」


丸一日?私そんなに気絶して…


「とりあえず喉乾いたろ?水飲んで、ほら」


加羅くんが冷蔵庫から出してきたペットボトルを渡そうとする。

私はそれを受け取らなかった。いや、受け取れなかった。


「どうしたの?水はいらない?

少しでも飲んでおいた方がいいけど…」

「まだ気分悪い?」


京くんが心配そうに覗き込む。

違う、違うのと言いたくても上手く伝えられない。声の出し方が分からない。


「コップにでも入れとくか。飲みにくいだろうし」


ペットボトルのキャップをひねり加羅くんは水を注いだ。


「血…血が……」

「血?」


とぷとぷとコップに液体が注がれていく。

私の目には赤いフィルターがかかっていた。

また頭がぐるんぐるんとしはじめる。


「おいやめろ」

「は?何がだよ憂間」

「水さげて」

「京、それってもしかして…」


仁奈が驚いたように言う。


「如紗、もう少し休め。俺はずっとここにいるから」

「ケッ彼氏気取りかよ」

「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょう」


京くんはそっと手を握ってくれた。


「あり…がとう……」

「うん、おやすみ如紗」


その言葉を聞くと私はまた眠りについた。





「ねえ、液体を見ただけで血を思い出すって結構やばくない?」

「俺らと違って如紗はこういう事態に疎い。

ショックはかなりでかいだろう」

「如紗ちゃんに限らず、人の身体が吹っ飛ぶとこなんて見たら誰だってトラウマくらいなるわ」

「そんな…シーズセラピーはこれからだっていうのに」

「今回の件で、また如紗は自分のことを責めるだろう」

「この前の件は住人側も理不尽な部分があったけど、今回はどう見ても四醋剣のせいだもんね…」

「もしかして誰か手袋せずに四醋剣を触ったのか?」

「…おそらく」

「シーズセラピーの創設者が四醋剣に嫌悪感、か。こりゃ茨の道になりそうだな」









今週の土日はいろんなことがあったなあ…

そんなことを考えながら、私はベッドの上で寝返りを打った。

今日は月曜日だが、学校は休んでいる。

まだ手の震えが収まらないからだ。


人が、目の前で、死んだ。

一瞬で原型もなくなるくらいに吹き飛んだ。

残ったのは赤色だけ。


私がやろうとしていることってなんなのだろう。

本当にこれが正解なのかな。

自分がやりたいことが見つかったって思い込もうとしてるんじゃない?

だからムキになってるだけなんじゃないか。


怖い、四醋剣が怖い。

知らなかった。あんな簡単に人が死ぬなんて知らなかった。

私がシーズセラピーの活動を本格化すれば、もっと犠牲者が増えるかもしれない。

…もう、全てやめてしまおうか。




「如紗起きてる〜?お客さんが来てるよ」

「お客さん?」


京くんたちは今学校だし、他に訪ねてくるような人もいないような…


「如紗、こんにちは。急にごめんなさいね、具合はどう?」

「アヤメさん!?」


なんでアヤメさんがこんなところに!?


「気になって来ちゃった。

とりあえず顔だけでもと思って。会えて良かったわ」

「あ、あのアヤメさん」

「どうしたの?」

「少しだけ時間をいただけませんか?」


これはきっと、そういう巡り合わせなのかもしれない。


「忙しいのは百も承知なんですけど、その、話したいことがあって」

「ふふっそういうと思った。

いいわよ、私もそのつもりでここへ来たし」

「あがってください」


部屋へアヤメさんを招き入れた私は、すぐに本題へと入った。


「アヤメさん、もし自分が信じていたものに裏切られそうになったらどうしますか?」

「まーた重い質問だね如紗」

「ご、ごめんなさい…」


そうね〜とアヤメさんは窓の外を見ながら言った。


「裏切られたかどうかなんて自分じゃ分からないと思うよ」

「分からない…?」

「信じている限り、裏切られたなんて感情は湧いてこない。

もしそう思うのなら裏切られたんじゃなくて、自分に屈してしまった方が大きいかもね」

「アヤメさん…私、このままでいいんでしょうか」

「シーズセラピーのこと?」

「はい、何も知らないままこんな組織まで作って、みんなを巻き込んで。

あの時だって私、ほんとは気づいてたんです四醋剣があることを。

でも言えなかった、だからあの子は…!」


感情が抑えきれず涙がこぼれる。



「如紗はさ、もし大事なものを家に忘れてきたとしたらどうする?

なんで忘れたんだって自分を責める?」


アヤメさんは心配そうに寄り添ってくれながら聞いた。

そういえば、そんなことつい最近あったような気がする。

その途中で四醋剣を拾って…



「私なら取りに帰ります、時間が許す限り。

だから自分を責めたりしません。忘れたことを怒ったって無駄なだけです」

「それじゃ矛盾してるね如紗。

今のあんたはなんで忘れたんだ、なんで確認しなかったんだってずっと過去のことに怒ってる」

「あっ…」

「言えなかった、出来なかったのなら次はそうならないように努力なさい。まだまだ若いんだから」

「でも、今回のことは忘れ物なんかと比にならないですよ」

「重要なのは物事の比重じゃないわ、如紗。

それに、どれだけ悩んでももう答えは出てるんじゃないの?」

「…卯月先輩に解散しろって言われても、私ならシーズセラピーを守り抜きます」

「あはは、優は悪者扱いか」

「黙っておいてくださいね!?」

「分かってる分かってる」


アヤメさんといると、いつの間にか笑顔になっている気がする。元気付けられる。


「アヤメさん、本当にありがとうございます。

こんなところでクヨクヨして…なんか恥ずかしいです私」

「違うなあ。ありがとうって言う相手は私じゃないよ」

「えっ?」

「ちゃんと言葉に伝わらないこともあるよ。

京なんて一睡もせずにあんたのそばにいたんだから」

「きょ、京くんが…」

「如紗ならミロックを変えられる、そんな予感がしてるの。私のこの期待こそ裏切らないでよね」

「はい…!」


それじゃあとアヤメさんは部屋を出て行った。

なんだろう、今ものすごくみんなに会いたい。


仁奈に、加羅くんに、そして京くんに。

授業が終わったらみんなに会いに行こう。

私はケータイを取り出して三人にメールを打ち始めた。





「おっ出てきた。結構話してたな」

「おかえり、アヤメさん」

「むつき、優!?なんでここに…」

「お前も大概心配性だよな。

相田のこと気にして家まで来るなんて」

「私たちが出る幕なかったね。

如紗ちゃんも私よりアヤメさんの方が話しやすいだろうし。元気そうだった?」

「えぇ、とても。また決意を新たにしたみたい。

あのまっすぐな瞳…これからが楽しみだわ」

「厄介ごとだけは起こさないで欲しいがな」



「そうそう、そういえば優。京のことはどうするの?」

「憂間か、少し落ち着いたら本人にも話をしようと思う」

「え、なになに何の話?京くん?」

「むつきにはしていなかったか、実行務候補の話だ。

あいつらを見てて、四醋剣保持者だから除外するのはおかしいと俺も思いはじめてな」

「実行務に欠員が出たのよ。その枠を決めようって」

「あれ、でも実行務候補から推薦するんじゃ…」

「実行務長の推薦枠があってな、その枠に俺は憂間京の名を挙げようと思っている」

「へえ!そうなんだ」

「あと加羅もだな…いい機会だ、二人も知り合い同士らしいし実力を計ろうと思う」

「それで実力の高い片方を実行務にする、と」

「そういうことだ」

「なんかまた面白くなってきたね」

「上手くといいんだがな…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ