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怪獣はヒーローが嫌い!  作者: SAKAHAKU
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第十九話(ファイターマンVSファイターゾフ)

間に合った。間に合って良かった。

もう少し俺の到着が遅れていたらギガノはファイターゾフに魂を刈り取られる所だった。

「……君ぃ、どうして此処にぃ?」

ゾフは殴られて激しく歪んだ顔を不気味にニヤつかせて呟いた。

「憶えておけ。お前みたいな悪が存在する所必ずヒーローは現れる。誰かの「助けて」の声が聞こえれば尚更な」

「まさか夢の中までやって来るとは考えませんでしたねぇ。我々が何か悪事を働こうとすれば決まって君達が現れる。これだからヒーローは嫌いですよ。折角厄介なブラザーズ共を支配下に置いたというのに、まだあっしの邪魔をする愚か者が存在するとはねぇ」

今の話を聞いた限りじゃ、ブラザーズの異常な変化にはやはりコイツが絡んでいるっぽい。

……ということは、ゾフを倒せばエースやタロット達は人間を殺すような邪悪な性格から解放されるのか?

その可能性は十分にある。

「ギガノ、危ないから離れてな」

「うん。有明、死んじゃやだよ」

「大丈夫だ。任せろ」

「勝てる自信たっぷりの様ですが、勢いだけではあっしには勝てませんよ。知っている筈です。あっしには実体が無ー」

奴が長々と言葉を紡いでいる途中でも構いはしない。今度は反対側から顔面に二発目の拳を叩き打つ。

どうやら俺はこいつにダメージを与えられるらしい。それはおそらくこの両手にはめているファイターグローブのおかげだ。

「うぐっ……何故実体の無いあっしに打撃が通用する?貴様まさか、他にあっしの知り得ない能力を隠し持っていたのか?」

「俺の使える能力は「レンタル」一つだけだ。他の能力何か持っちゃいねぇよ」

「ならば、どうして……可笑しいだろうがっ!」

「このグローブには殴れる対象と殴れる対象を認識するシステムが施されていてな。殴りかかる瞬間に善と悪を判断し、対象が善の心を持つ場合は体にストップがかかる。つまりこれは悪い奴限定でしか殴れねぇ特殊なグローブ何だよ。こんな風にな」

試しと証明を兼ねてゾフの腹部に一発拳を叩き込んでみる。やはりストップはかからないようだ。

「ほら見ろ。グローブはお前を悪党だって認めたぞ」

このファイターグローブは昔相棒のベリアルが俺の為に作ってくれた武器だ。

悪い怪獣や良い怪獣。ちゃんと見分けが付くように。

今思えば、出会った時にコイツを使っていればギガノの容疑は軽く晴れたのかも知れない。

「実体がある無い関係無しに悪い者相手なら何でも殴れると言うのか?」

「みたいだな。実際にお前がダメージを受けている時点でそれは確信出来る。どうした?もう終わりなのか?俺をがっかりさせんなよ。ブラザーズ隊長の実力はそんなもんか?」

「場所を変更させて貰う。此処では少々戦い辛い」

そう言うとゾフは戦闘場所を勝手に他のフィールドへ移しにかかる。これもこいつの能力なのか、さっきまで自分の自宅内で戦っていた筈の風景ががらりと変化する。

見覚えのあるそこは間違いなくファイター星にある競技場の中だった。

この場所なら家の中と違って広々としている。コイツ相手に本気で戦うならこのくらいの空間がちょうど良いのかもしれない。

「この場所なら貴様を思う存分叩き潰せる」

「どうかな。このグローブがあればお前にダメージを与えられることが分かった。上手く戦えばこっちに勝機がある」

「ちっ。いちいち気に障る台詞を吐く。ブラザーズの連中も曲者ばかりだったが、一番厄介なのは貴様だ。ファイターマン、貴様くらいだよ。あっしにダメージを与えたヒーローは」

「そうか。お前に褒められた所で全く光栄には思えないんだがな」

「ふふ。これからサイズアップするあっしの姿を見てどこまで余裕で居られるだろうねぇ」

「サイズアップ?」

「巨人化のことだよ。あっしの所有する能力の一つだ」

コイツ、能力を発動させる前から自分の手の内を晒すとか、案外馬鹿何だな。

それとも、興奮してるせいで正常な判断が出来ていないのか?

「すげぇ能力持ってるじゃねぇか。だがな」

「今に踏み潰してやるよ。サイズアップ。カモン!」

ゾフが巨人化しようとするも、奴の姿には何の変化も起きていない。

まあ、それもその筈だ。何故ならばその能力は一時的にゾフが使える能力リストの中から完全に消失しているのだから。

「……あれ、何故だ。どうしてサイズアップが発動しない……、どうして、どうしてだっ!……ひょっとして貴様、まさか!?」

そう。奴が能力を発動出来ない理由など考えてみれば一つしか思いつかない。

俺がゾフの巨人化能力をすでにレンタルしている。

こう思考すれば自分が能力を使えない原因などすぐに納得がいく。

「奪ったのか!あっしからサイズアップ能力を!返せ!今すぐ返せっ!」

「奪ったんじゃない。借りたんだ」

何と呆気ないことか。自分の能力を一時的に借り出されたくらいでこの焦りよう。

こちらへ連続で繰り出してくる打撃も狙いが定まっていないから簡単に回避可能だ。

ほんとコイツって、自分の実体の無さばかりに頼って来たんだな。

「ふざけるな!それはあっしの能力だぞっ!貴様何ぞに使われてたまるかっ!」

「ふっ。今のお前相手にレンタルした能力は使うまでも無さそうだ」

三度目の顔面を今度は正面からストレートに殴った。ゾフの野郎を後方へと吹っ飛ばす。

地面に倒れ中々起き上がらない姿を確認し、勝敗は決まったと思った。だが奴は何気にしぶとくゆっくりと立ち上がる。

「…………まだ、だ」

「ああ?」

「まだだ!行け!あっしの分身達よ!」

ゾフの叫びに反応し何体にも分裂し襲い掛かってくるも、悲しいことに怒り狂った相手の出方程分かりやすいものはない。興奮状態の敵が繰り出す考え無しの攻撃パターンなど長年の戦闘経験で大体分かる。

「すげぇな。コイツ等にもこのグローブは有効なのか」

五~六体に分裂したゾフは呆気なく俺のファイターグローブの前にひれ伏した。

「嘘だろ……。分身はあっしの持つ最後の手段だったんだ。それがこう簡単に葬り去られる何て」

「敗北を認めるか?」

「いや、まだだ。貴様など、そこにいる怪獣娘を捕まえて盾にすればどうとでもなるっ!」

「俺がそんなことさせると思うか?」

ギガノを狙おうと企んだゾフの腹部に拳を押し込んだ。その与えた痛みによって動きを封じる。

「ギガノに指一本触れさせるつもりはねぇよ。もうじき正気を取り戻したブラザーズ達がお前の身柄を引き取りに此処へやって来る。それまでそこで大人しく寝てろ」

最後の一撃が効いたのか、ゾフは目の前ですんなりと気を失って倒れた。

さっきまでファイター星の競技場だった景色は気付けば俺の自宅の中へと元に戻ってい

た。

ギガノが部屋で眠っている姿を見るに無事に夢の中から戻って来れたのだと実感出来る。

ゾフを倒したことで能力の効果が遮断されたのだろう。

これでギガノも目を覚ます。

「よう。やっと起きたか。心配させやがって」

「……あり、あけ……有明っ!」

悪夢から目を覚ましたギガノは、俺の姿を視認した途端瞳を潤ませながら抱きついてきた。

「怖かった。怖かったよ……もう二度と会えないって思ってたから、有明とまた会えて嬉しい」

「俺も嬉しいよ。怖いヒーローは倒したからな。もう大丈夫だ」

「うん。ギガノのこと助けに来てくれてありがとう」

優しく頭を撫でてあやしていると、落ち着いてきたのか、ギガノが突然にこんなことを口にした。

「……あのね、ギガノ、有明に謝らなくちゃならないことがあるんだ。聞いてくれる?」

「ああ。もちろん」

「夢の中でね、ゾフに言われたんだ。有明は夢の中にギガノを助けに来れない。此処で死んだら二度と会えないぞって。最初はその言葉を信じそうになっちゃった。でも、ごめんなさい。そんなこと無かった。最後の最後で名前を呼んだら有明はちゃんと助けに来てくれた」

「別にそんなこと気にしないって。誰だってそう思うだろ。夢の中に何て常識じゃ入りたくても入れないもんだ」

「ありがとう。有明は優しいね。本当にギガノのこと、許してくれるんだ」

「当たり前だろ。正直に伝えてくれるギガノに逆に嬉しくなったくらいだ」

「良いんだよ。有明が気に入らなかったらギガノの頭打ってくれて」

「馬鹿。そんなことしないよ。エースの石化から救ってくれた時から俺はお前のことが大好きだ。命の恩人のギガノが嫌がること何てしたくないな」

「やったー。また有明に好きって言って貰えた。嬉しいな。ギガノも有明のこと大好きだよ。両想いだね」

この子は恥ずかしい台詞をはっきりと言うな。

ま、その通りと言えばその通りなのだから否定をするつもりは無い。

「ああ。そうだな。俺達は両想いだ。ギガノ、今度は俺の話を聞いて貰っても良いか?」

「うん。なあに?」

「お前を犯罪者に仕立て上げた悪者は俺が倒した。これからはヒーロー達から命を狙われる心配は無いだろう。これで護衛の役目は終了した訳だが、俺はギガノと一緒に居たい。そこで一つお願いがある。今までと変わらずこれからも傍に居てくれないか?」

「……へ?」

「あ、いや……別に無理にとは言わない。嫌ならそれで良いんだ。自分の故郷に帰るなり好きにしてくれて構わない」

「不思議だね。ギガノも同じこと言おうと思ってた。有明と一緒に居たいって」

「え、そうなのか?」

「うん!だってギガノは大好きな有明の傍を離れたく無いんだもん!」

今までで一番の、ギガノの最高の笑顔を見た気がした。頬がほんのりと赤く蒸気しているのは俺の告白染みた台詞を聞いて照れていたのかもしれない。























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