第十四話(人気の消えた図書館で)
モンスターディフェンス内で、ブラザーズのメンバー、ファイターシャインとの戦闘があった日から数日が経過した。
(もう、どのくらい続いただろう)
……一体何が?
当然、そう思う筈だ。
なので、俺が簡単に説明しよう。
図書館内でのファイター星との戦争終了後、一度もこの場所へ本を借りに来るお客の姿を見ていない。
そりゃそうだ。あの日此処に訪れていた合計二十一人の人間が視力を完全に遮断する最悪の事件が起きた。
そんな話を知れば、恐ろしくて誰も近寄ろうとしないことくらい容易に理解出来る。
「暇なのは俺にとって最高のご褒美何だけどさ、暇すぎるのも……なあ?」
彼等との戦闘中に散らばった本や倒れた棚、汚れた床など全て掃除は終了したし、いつ客が来店してもOKなのだが……。
俺と月神は朝方の九時頃からかれこれ三時間以上は受付に座って客待ちをしているが、一向に一人もやって来ない。そろそろ、ただ座っているのにも飽きてきたところだ。
「光大よ、俺様に同意を求められても困る。悪いな。こういう時気の利いた言葉の一つも
かけてやれなくて」
「……お前、最初に会った頃とだいぶ感じが変わったな」
「そうか?自分ではよく分からんが、お前が言うならそうなのだろうな」
「ああ、変わったよ。何か、すげぇ親しみやすくなった。あの日は殴っちまって悪かったな」
「気にするな。それに、あれはこっちが悪い。ギガノに酷いことをした。お前に殴られたことは当然のことだと思っている。あの子には謝罪する必要があるだろうな」
「あいつはそんな昔のこと何か気にしてねぇよ。最近お前が遊びに付き合ってくれるって、ギガノすげぇ喜んでるんだぜ」
「……光大」
「……月神」
シーンと、静まり返っている図書館の中で見つめ合う俺と月神。
なんだよ、この気持ち。
友情とはまた別物の、決して踏み入れてはならない感情が芽生えてしまいそうだ。
「君達は、何時からそんな仲の良い関係になったんだい?」
「うおっ!?社長、あんた何時から其処に居た?」
社長が後ろに立って俺と月神の話を盗み聞いていた。
その顔を見た限りでは、ニヤニヤしていて馬鹿にしている様にしか感じ取れない。
一発で良い。そのニヤつかせた顔面ぶん殴ってやりたい。
「僕から君達にとっておきの言葉をプレゼントさせて貰うよ。ボーイズ・ラヴ」
とんでもない台詞を口にしやがった。
それには後からやって来たスカイも同意する始末だ。
「スカイもそう言おうと思っていたところ。こういうカップリングは腐女子と呼ばれる猛者達に人気があるとネットで知った」
「どうだい?これは僕からの提案何だけど、一緒に暮らしてみてはどうかな?」
「悪い話じゃないな」
「……へ、月神?」
何だよこれ。そんなこと言ったら社長の思惑通りの展開に近付くじゃねぇか。
その反応に素直に嫌と言えない自分が怖い。
「セブンの提案は実に面白いが、遠慮しておく。光大には大切なギガノを守るという大切な使命がある。悪いな、お前の一番になってやれなくて」
「……月神」
またまた否定の言葉を返せない俺は何なんだ。
社長の言う通り、マジでイケナイ道に目覚めてしまったのか?
「こりゃ三角関係、いや……僕を合わせたら四角関係か?大変なことになって来たねぇ」
社長がまたアホなことを口走っているが、俺にはそんなことどうでも良い。
「なぁ、スカイ。ギガノの奴はどうした?」
「遊び疲れて少し前に眠ったところ。連れて来る?」
「いや、良い。眠たいのに起こしちゃ可哀想だろ」
どうせ、図書館には客一人も居ないしな。
「客が来なくなってから何日経過した?」
「二十日だね。このままじゃ給料は出せないかも」
「はあ!?ふざけんなよ、社長。そりゃねぇだろ」
「冗談だよ。そもそも図書館で本の貸し出しは無料。お客は居ても居なくても関係ないさ。ただね、誰も居ない図書館ってのも寂しいとは思わないかい?」
客が来てくれる方法とか全く思いつかねぇな。元々頭使って考えるのは苦手何だ。
「月神、何か客が来てくれるような良い案無い?」
「そうだな……何も思い浮かばん。悪いな。俺様ではお前の力になってやれそうにない」
「気にすんな。俺も全然だし、お互い様だ」
月神とは少し前から普通に話せていた気がするが、目潰し星人を倒してからは会話する機会が多くなった気がする。
自分の片目を奪ったあの星人を倒したことで、俺の実力を認めてくれたのだろうか。
「怪獣喫茶を開くのはどう?」
誰も何も口にしないまま沈黙が続いていた中で、スカイが一つの案を出した。
「怪獣喫茶、とは?」
「ネットで検索してて知った。最近とある場所には怪獣のコスプレをした女の人がご奉仕してくれるカフェがあるらしい。それが「おたく」と呼ばれる社会不適合者に人気があるんだって」
「まさか、俺様達男に怪獣の格好をしろと言い出すつもりじゃあるまいな」
「おお。すごい。まさにそう提案しようかと考えていたところ」
「……マジかよ」
「はは。スカイちゃん、怪獣は君とギガノちゃんの二人が居たらそれで十分何じゃないかな」
そうだな。男の俺等が怪獣のコスプレ何かして喜ぶ野郎はこの世に存在しない。
「そんなイベント開いて大丈夫なのか。客が戻って来るかは分からんが、ブラザーズだって人間達に紛れてやって来るかもしれないぞ」
「それでも、何か行動を起こさなければ図書館にお客はやって来ない」
「その辺に関しては特に心配要らんだろう。この場所は知られていない上に奴等ブラザーズに読書好きや怪獣好きは存在しない。元ブラザーズのその男を除けばの話だが」
月神の言う通り。ウチの社長さんは暇さえあれば読書かギガノを愛でているかのそのどちらしか基本しない。
この男が図書館内の掃除や整理をしている場面何か一度も見たこと無いぞ。
「確かに、本と怪獣を心から愛していたのは歴代ブラザーズの中じゃ僕一人だけだったかもしれないね。好きじゃ無かったら図書館に勤めたりしないし、それは認めるよ」
「それじゃ、この場所でスカイの言うイベントを開いてもブラザーズによる襲撃の心配は無いんだな」
「うん。大丈夫でしょ。襲うとしたらもっと人が多く集まるような場所を狙うと思うし」
シャインの時はギガノの姿を偶然みかけたからとか言ってたもんな。
それさえ気をつけていれば大丈夫か。
「それでOKなら宣伝用にチラシを作ってくる」
「どうしてスカイはあんなに一生懸命何だ?」
「スカイちゃん、毎日此処にお客さんが来るの楽しみにしてたからねぇ。あんな無愛想な感じだけど、図書館に誰かが本を借りに来てくれることが何より嬉しいんだよ」
「そうなのか?」
「まだカード怪獣の友達が居た頃はもっと明るい性格だったんだよ。誰かと喋るのが大好きな女の子だったんだ。君達には信じられないかもしれないけどね」
前に似たような話は聞いたが、やっぱり今でも信じられない。
あまり必要なこと以外喋ろうとしないスカイが明るい性格の女の子だった何て。
それでは今と完全に真逆な性格だ。
「お前のカード怪獣が昔は他に二体居たことは知っている。確か、ゾフに殺られたんだったな……それでか」
「僕はゾフ何かがヒーローだ何て絶対に認めないよ。彼はただの殺戮者だ」
「済まなかった。その時の俺様が少しでも優しい心を取り戻せていたら何か力になれたかもしれないのに」
「僕がゾフのことを何も知らずに挑んだのが間違いだったんだ。最初から彼に実体が無いことを知っていれば、あんな無謀な戦闘はしなかった。二人を殺したのは僕何だよ。スカイちゃんから明るさを奪ったのも僕。何もかもこの僕が悪いんだ」
「そう自分を責めるなよ。今のスカイには十分に友達が居るじゃねぇか。俺とギガノに月神。全員があいつの事を友達だって思ってるぞ」
「光大の言ったことは何も間違っていないな。最初こそ違ったが現在の俺様は此処に居る皆のことを愛している。一時的とは言ったが、ずっと此処に居させて貰いたいくらいだ」
この会社に関わって変われたのは俺だけじゃない。月神も此処の皆と接していく毎日の中でヒーローらしい心を取り戻せたんだ。
いつの日か失ってしまっていた誰かを思いやる優しい気持ちを。
「スカイの為にも会社の為にも、このイベントを成功させようぜ。皆で此処にお客を呼び戻してやるんだ」
「おー!」
社長が握り拳を作って上空に腕をあげて叫ぶ。それに俺と月神も続けた。
「よっしゃ。何かやる気出て来たぜ。なあ、月神」
「そうだな。こんな気持ちになったのは何百年ぶりだろうか」
「……ねぇねぇ有明。何が、おー。なの?」
ギガノが眠たい目を擦りながら俺達の居る受付へとやって来た。
片腕にはウタウサギ(シャイン)が抱えられている。それ持ってるといつも以上に可愛さが増すな。何か、子供らしいって感じで。
「皆で此処に人を呼び戻す案を考えていたんだ。それで少し前にスカイの出した案に決まったとこ。だからギガノも一緒に手をあげようぜ。やってやるぞ。おーって」
ギガノの後ろに回り込み、ウタウサギを抱えていない反対側の手を取って勝手に持ちあげる。
「お、おー」
俺はさっそく、夢の世界から帰って来たばかりのギガノに怪獣喫茶のことについて説明することとした。




