第十五話(オカマが来店した本来の目的)
「怪獣喫茶?お客さんをおもてなしするの?」
「スカイと一緒にな。頼めるか?」
「うん。良いよ。ギガノのも皆に図書館に来て欲しいもん」
ギガノは頼みごとを快くOKしてくれた。
これで後は明日の本番に備えるだけなのだが、怪獣喫茶って何をしたら良いんだろう。
「ギガノちゃん、明日君が着る衣装持ってきたよ~」
「何この服?フリルがいっぱいで可愛いね」
にやけた気持ちの悪い面で、社長が手に持っていたのはメイド服。なるほど。それを着たギガノの姿を頭に思い浮かべているんだな。
「おい、社長。こんなのギガノに着せて何やらせるつもりだ?」
「何って、うちは図書館だからね。可能なサービスはせいぜい飲み物を提供するくらいだよ」
「だったら 普段着で良いだろ。こんなおたく受けしそうなの着せる必要ねぇよ」
「え~。何でだよ、光大君。ギガノちゃんのメイド服姿見たかったのにぃ~」
「あんたがみたいだけじゃねぇか。却下だ」
明日の天気はニュースの情報だと快晴。雨は降らないらしい。まさに絶好のイベント日和となるだろう。
どれくらいの人がこの図書館に集まるのか、俺を含め皆が明日という日を楽しみにしていた。
(……それなのに)
次の日に眠りから覚めてみれば、部屋の窓から見えたのは土砂降りの激しい雨。
完全に天気予報士が予報を外したようだ。
ありえねぇ。こんな天気じゃお客はほぼ来ない。ほぼどころか、一人も来ない可能性だってある。雨がザーザー降っている中、ずぶ濡れになることを覚悟に無理して図書館に行こうとする人は中々いないだろ。
「この様子じゃ、お客さんはまず来てくれないだろうねぇ……」
「え~。じゃあ中止なの?折角おもてなしの練習して来たのに……」
「え!何々!?ギガノちゃん、それ僕の前でやってみて!」
「へ?う、うん。お帰りなさいませ。ご主人様」
ギガノが社長の頼みを断れずに、メイドお決まりの来店時の台詞を口にした。
それを聞いたこの男は興奮したようで、
「良い。良い!実に良い!!ギガノちゃん、僕専属のメイドさんになってはくれないかい!!!」
「却下だ、却下」
「なあ、光大。この雨、何か可笑しくないか?」
図書館内の窓から外の景色を見て月神がそんなことを聞いてくる。
「可笑しいって、どこら辺が?」
「快晴で、雲一つ無い青空からの大降りの雨。それがかれこれ四時間近く降っていて弱まる様子もない。これをお天気雨として片付けてしまうのはどう何だ?」
……確かに、可笑しいとは感じる。
月神の言う通り、晴天の中を朝六時頃から土砂降りの雨が降っていて、現在十時近くなっても降り止まないままだ。
俺のよく知るお天気雨は割と早くに止むタイプの雨だと思っていたが。
「この辺りに浸水した住宅が結構あるみたいだよ。すごいねぇ」
社長がTVを点けて災害情報を確認していた。此処は大丈夫なのだろうか?
ニュースで映された映像は街の中が海と化した恐ろしい光景で、崩れて泥水の中を流されている建物もあるみたいだし、心配にもなる。この場所が安全だとは限らないんだ。
「……ん?小降りになって来たみたいだな」
「ほんとだー。これならもうすぐ止むんじゃない?」
「止んでも今日は誰も来ないだろ」
「え~。つまんない……」
大人が体の半分くらいを水に沈めているほどの雨が溜まっている状態では、誰も自宅から出ることなど不可能だ。
「…………光大。一つ聞きたいのだが」
「聞きたいって……何を?」
「今は六月で合っているよな?」
月神が何故そんな当たり前のことを聞いてくるのか、俺には不明だ。
「ああ、そうだけど」
最近の何年かは温暖化が進んでいるせいか、六月でも夏本番並みに暑い。これから七月、八月になるにつれどんどん暑くなると考えただけで気が滅入る。
「なら、どうして雪が降り始めるんだろうな」
「雪って、降っていたのは雨じゃなかったのか?」
「雨に変わって今度は雪が降ってきた。なあ、セブン。お前は何か引っ掛からないのか?」
「ジャッチの言いたいことは何となく分かるよ。居たよね。ブラザーズの中に気象を自由に操れるメンバーが」
「シト、そうなの?」
「ああ。かなりの変わり者でな。この地球で言うところのおネェみたいな喋り方をする気味の悪い男だ」
月神がギガノにそう説明したところ、図書館入り口の自動ドアが開く。
こんな災害クラスの酷い天気の中、一人の来客が現れたのだ。
俺とギガノを除いた三人がその客の姿を見てゾッとした。
「……タロット」
「ちょっとぉ~。あなた達あたいの噂話してたでしょ。しっかりこの耳で聞いちゃったんだからねっ!」
「お前、タロットか?その姿初めて見たぜ」
ブラザーズの一人、ファイタータロット。気象を自由に操れる能力を持ったオカマヒーローの人間体を初めて目にした。
「……あら、もしかしてその美声。ファイターマン様じゃない?そうよね?」
「……いえ、ヒーロー違いです」
「あら、可笑しいわね。あたいがファイターマン様の声を聞き間違える何て百パーセントあり得ないんですけど?」
「ファイターマン、様?」
ギガノが首を傾げるのも無理は無い。
俺がまだファイター星でヒーローを続けていた頃の話になる。
たったの一体でファイター星所属のヒーロー達の命を奪いファイター星を滅ぼそうとした怪獣をあっさりと倒してしまった俺はこいつに惚れられてしまったようで、気付いたら様付けで呼ばれるようになっていた。
尚、このオカマがヒーローを目指した理由はファイターマンである俺の強さに憧れたから……らしい。
「お待ちになってぇ~!!」
「うっせー!付いて来んな!」
背中を追いかけられて必死になって逃げた。
オカマ野郎に捕まらないよう全力で逃げていたらファイター星一周してた何て日もあったくらいに……。
「あら、その子指名手配中の怪獣よね。あたいのファイターマン様に近付かないで貰える?速やかに離れなさい」
タロットに恐怖を感じているのか、ギガノが俺の後ろに隠れながら、ちょっぴりと顔を覗かせていた。
「あ、有明……あの人怖い……」
「心配すんな。こっちには俺だけじゃない。月神に社長、スカイも居るだろ。お前に手出しはさせねぇよ」
「この異常気象はやはり貴様の仕業だったか。安心したよ。ついに地球が滅びるのかと思っていたところだ」
「そうよ~。全部あたいの、し、わ、ざ。災害を起こして無力でか弱い人間共を一掃しろと、ゾフ様直々のご命令でね。雨や雪を大量に降らせて貰ったって訳。どう?ビックリしたでしょ?」
「どうしてこの場所が分かった?」
「至って簡単な話よ。シャインの反応が消失したのがこの辺りだってことを知っていたから、もしかしてと思ってね。あの子を返り討ちに出来る相手何て地球上には貴方達以外存在しない。その怪獣ちゃんをあたいに渡してくれないのなら、愛しのファイターマン様でも容赦しないんだからね」
このオカマは四精霊の力を自由に操れる。気象を変え災害を起こし、一度に大勢の人間を滅ぼそうと企んでいた。
確か精霊一体ごとには名前があって、ウンディーネ、サラマンダー、シルフ、ノーム。順に説明すれば、水、火、風、地。中々厄介な相手だ。
「渡すかよ。ギガノをお前達ブラザーズから守るのが俺の果たすべき使命だ。殺りあうつもりなら手加減は出来ねぇぞ」
「ずっきゅーん!きゅん!きゅん!きゅーん!良いわよ!あたいの胸に飛び込んで来て!ファイターマン様!!」
相変わらずの気持ちの悪い台詞を吐くタロットに俺はちょっぴり後退り。
こいつが体を借りている人間は胸板や腹筋をバキバキに鍛えている。それはボディビルダーのようなイカつい腕やボディを見ればすぐに分かった。
オカマ野郎の胸何かに誰が飛び込むかよ。
ファイターグローブを両手にはめ戦う姿勢を見せた俺の動きを、タロットの言葉が止める。
「と言いたいところだけど、実はあたいね、今日はファイターマン様達と殺し合いに来た訳じゃないのよ」
「は?」
「貴方達とあたいが戦ったところで勝敗は見えているでしょう。どう考えたって数の勝っているそっちが優勢よ。元ブラザーズ二人とジャッチを相手にして無事でいられる自信は無いわ」
「じゃあ、お前は此処へ何しにやって来た?災害まで起こしやがってどういうつもりだ?」
「災害は挨拶代わり。本来の目的は貴方達に三対三の戦闘を申し込むことだったの」
「お前は挨拶代りに大勢の人間を殺すのか?そんなのヒーローのやる事じゃねぇだろ。それじゃただの殺人鬼だ」
「だってゾフ様のご命令だもの~。仕方ないじゃない。ねぇ?」
「俺様達に同意を求めるな。お前達と一緒になどされたくもない」
ああ。同感だ。月神の言うことは正しい。
俺達はこいつ等とは違う。人間を殺した事などこの世に生まれて一度も無いんだからな。
「あら、釣れないのね。それじゃあたいはそろそろお暇するわ。ファイターマン様、またね」
タロットが帰り際に俺へ投げキッス。
気持ち悪かったのでギガノの持つウタウサギを勝手に借りて、そのぬいぐるみのボディでキスをブロックした。
「何をするんや!おっさんのキス喰らってしもうたやないかい!」
「嬉しいだろ」
「嬉しい訳ないわ!アホ!」
向こうから直々に戦闘を申し込みに来るとは、以外だった。
ブラザーズの連中も二人も戦力を失って焦って来ているのかもしれないな。
今じゃ月神はこっちの味方だし、シャインはウサギだし。




