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ほかほかスープで一服。

「とりあえず、ティノはアレンと草摘んでな。俺たちは少し離れたところで狩りしてくるから」

「は~い……」

「絶対に、ここから離れちゃだめだからね! わかった?」


 じゃあね、と行ってしまうモナたちを見送り、がっくしと肩を落とした。


「うううー……お肉……私もいきたい」


 ちっくしょう、狩りに参加できれば、お肉の端くれとか手に入れられて、さっそくコンソメに一歩近づけると思ったのにぃ!


「仕方ねーよ。俺らまだガキだし……」


 いや! 見た目は子どもでも中身は大人! ってか、精神年齢はあのなかじゃ私が一番だもん! 


「ガキって言うなー! 私お姉さんだもん!」

「とは言ってもなぁ……はあ、ティノ、ほら野草教えてやっから採ろうぜ。集めとかないと怒られるぞ」

「うん……」


 ……いや、野草でもかなり美味しい発見があるもんね! よし、ポジティブシンキングだ私! 


 よし、まずこの何か……ぶちっとな。


「アレン、これなに?」

「ん? ああこれか……あれ? 珍しいな、ポテロンだ、これ」

「ポテロン?」

「うん。これは葉っぱじゃなくて、根っこを食うんだ。ほら、これ」


 アレンが葉っぱが生えていたところを掘り返し、なにやら丸い物体を取り出した。少し薄茶色で、ボコボコしてて……ってこれ!


「《ジャガイモ》!」

「は?」


 ジャガイモだ、ジャガイモ! 間違いない。葉っぱもよく見ればそんな感じだし、土にまみれててよくわからないけど、絶対これはジャガイモだ。


「なに言ってんだ? 聞き取れなかった。これはポテロンだよ、ポテロン!」


 ジャガイモだ! と思わず叫んじゃったけど、そうか。この世界じゃポテロンという名前なのね。 


「ポテロン……ポテロンかぁ~フフフ~」


 ジャガイモといえば、肉じゃが・カレー・オーブン焼き! なにより、蒸かしてバターをのっけるジャガバター……! むふふ、美味しそう……!


「なんだよ気持ちわりぃな……ほら、さっさとほかのも採集しちゃうぞ」

「はいはーい! あっ、これはこれは!?」

「ああ、これは──」



 ──と、数十分後。



「まあこれだけあれば上出来だな!」


 どっさりと集められた野草。……と、私が個人的に集めた野菜たち。

 私が個人的に集めた野菜はと言うと……オレンジで細長いキャロンの根、みずみずしいセロの葉、剥いても剥いてもきりがないニオニンの実、三日月形のセレーネの葉、赤いトメの実。つまり、ニンジン、セロリ、玉ねぎ、ローリエ、トマト……に似た植物。だけど、トメの実以外はほとんど細っこくて使い物になるかどうか分からないレベルだった。とはいえ、トメの実も干からびていて使い物になるかどうか、だけど。ドライフルーツ的な意味では使えるんじゃないかと思うけどね。


 でもすごいよ、こんなに一気に香味野菜がそろうなんて! まあ、トマトは香味野菜ではないんだけど、珍しいみたいだから採っておいただけなんだけど。でも、あとお肉の端くれさえ手には入れば、ブイヨンができるぞ~!


「ったく、ティノのやつほとんど細っこいやつじゃねぇか! どうすんだよこれ」

「いいの! 私がどんな食材でも美味しくしてみせるからっ!」

「なんだそりゃ。モナに怒られても知らねーぞ!」


 アレンに怒られても、大満足! ふふふ、これでブイヨンへの道が拓けたも同然! えへへへぇ~……!


「あっ、お、おい! ティノ! そっちは……!」

「え? うわああああっ!」

「ティノーッ!」

 

 足元がぐらりと傾いたかと思うと、ゴロゴロと滑り落ちていった。

 ──意識が途切れる直前、最後に思ったことは、「死んでも食材は守りきる!」だった。





「んっ……」


 頬に冷たい物が落ちてきて、目が覚めた。どうやら雨が降ってきたみたいで、空から冷たい滴がポタポタと落ちてきている。


「あれ、私滑り落ちちゃって……それからどうしたんだろ?」


 ってか、なんか下が柔らかくて暖かいんだけど……うわあっ!


「ちょ、アレン! だ、大丈夫!?」

「んう……ティ、ノか……?」


 無我夢中で揺すると、気がついて起き上がった。私をかばってくれたのか、全身傷だらけ、服はドロドロ、さらには頬っぺたから血が出ている。……ナンテコッタ! 私は国宝級のイケメン(になる予定)の顔に傷をつけたというのか! うわあああ! ごめんなさいいいいい!!


「アレン、ごめんねごめんねっ……! アレンの顔が……!」

「いや、こんなのかすり傷だし……ってか、ティノは怪我ねぇか? よかった。ところで、早く帰ろうぜ。雨も降ってきたとこだし」


 よいせ、と立ち上がるアレンだった……けど、すぐに顔を歪めてまたうずくまった。


「アレン!? あ……捻ったの!?」


 アレンの手を押しのけて足を覗きこむと、真っ赤に腫れていた。


「ごめん、私のせいだ」

「んなことねぇって……はっくしっ!」


 今は春先とはいえ、まだ肌寒い。しかも、雨も降ってるし……このままここにいたら、アレンが風邪ひいちゃう! どうしよう……。


 オロオロと周囲を見渡す私の目に飛び込んできたのは、木々の中にひっそりと隠れた小さな洞窟だった。


「アレン、あそこで雨宿りしよ。もしかしたらお姉ちゃんたちが気づいて、助けに来てくれるかもしれないし」


 アレンに肩を貸して、洞窟に移動した。中は薄暗くて、ぴちょん、ぴちょん……と水の滴る音が聞こえてきた。


「あ、ラッキー! 乾いた木があるから、それで火おこしちゃお」


 前世ではキャンプをしまくった私にとっては朝飯前。その辺に落ちてた木をかき集めて、ささっと火をおこす私の手際の良さに、アレンが興味深そうに覗きこんできた。


「どしたの? そんなに珍しい?」

「いや……そんな古典的な方法するやつ、始めてみてさ。一般的にはほら、魔法石でどうにかすんじゃん」


 へぇ、魔法石……なんじゃそら。聞き間違いかしら、うん、そうだそうなんだな。


「そお? まあとにかくあったまろ。あ、あと服も脱いでね」


 濡れた服を脱ぎ始めた私を、アレンが「お、おい!」と引き留めた。


「なに?」

「い、いや……あの、恥じらいってもんはねぇのかよ……」

「え、だって別に裸じゃないし。ほらほら、早く脱いで」


 無理矢理脱がせたアレンの服と自分の服を焚き火にかざした。……うん、とりあえずはこれでいいけど、どうやって上に戻ろうか……登るにしては高いし、アレンも怪我してるし。どうしたものか──沈黙が私たちの間に流れた、その時。


 ぐぎゅるるるるるる……。


「……!? あっ……」


 アレンのお腹の虫が盛大に鳴った。


「ぷっ……お腹すいたの?」

「べ、別に、そんなんじゃ」

「よしよし、私が作ってあげるよ」


 腕捲りをする仕草をして立ち上がった私を、呆れたようにアレンが見上げている。


「とは言っても、なに作るんだよ? 俺が採ってた野草はないし、お前のも干からびたトメと細っこいニオニンしかないじゃん。何もできねぇよ」

「ふふふー、それが違うんだなぁ、これがぁ! 食材さえあれば料理はできる、これ鉄則ね!」

「んだそら……」


 よし、生まれ変わってから初のお料理! 張り切っちゃうよ!


 まず、私のかごに入れてあった、鍋を取り出した(実は料理がしたくてこっそり持ってきてた)。それに、洞窟の奥で見つけた小さな湧水から水をとってきて、焚き火におく。

 干からびたトメ……トマトは、一口サイズに切って鍋に入れる。ニオニンは薄く切って(まあすでに細いけど)、これもまた鍋に入れる。で、蓋をする。


「これでよし」

「……これだけ?」

「うん。これだけ」


 しばらくして、火から下ろした。蓋を開けると、水は見事に赤く染まっている。


「よおし、トマト……じゃなくて、トメの実スープ完成っ!」


 前世でお母さんがよく作ってくれたスープ。ドライトマトを一口サイズに切って、だしをとった簡単スープ。少し酸っぱくて、超美味なんだよね、これが。

 コンソメとか塩コショウとか、そんなかんじの味付けはできないけど、それでもなかなかに美味しいはず! 


 これもまた持ってきてたお椀によそって、アレンに渡した。ほこほことたつ湯気と、美味しそうな香りに引き寄せられるように口につけて……一口、すすった。


「どお?」

「……うまい」

「ほんと!? でしょ~!」


 うまい!うまい! と、ゴクゴクと飲んでいく姿をみて、にやにやと笑みがこぼれた。これ、これだよなぁ料理人の幸せって。自分で食べるのも好きだけど、やっぱ食べてもらうのが一番好きだなぁ。ふふふ。


「ふはぁ……ごちそうさま。ティノ、すげえな! こんなうまいの初めて食べた」

「ふふふ~ん♪ でしょでしょ!」


 からになった鍋をみて、ほとんど食べてはいないものの、こっちまでお腹いっぱいの気分だ。美味しゅうございました。

 腹がふくれたら眠くなってきたのか、うたた寝をうちはじめたアレンの隣に座って、私も寝ようとした。その時。


「ティノ~!」

「アレン! どこだぁぁぁ!?」


 洞窟の外から、モナたちの声が聞こえてきた。


「お姉ちゃん! ここだよー!」


 大声で、返事をした。泣きながらやってきたモナと、三兄弟は私たちをみてほっとした瞬間、こっぴどく怒り始めた。で、ですよねー……。


 その晩は、お母さんに怒られて夕食抜きだったけど、トマトスープのおかげで、なんとか朝まで持ちこたえることができたのであった。




ようやく、念願の初料理です!

ドライトマトの出汁のスープは、たまに私の母が作ってくれます。本編ではなんの味付けもしてないので薄いでしょうが、現実では超おいしいです。ぜひご賞味あれ٩( 'ω' )و

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