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鏡の中のゆうちゃん  作者: 松山 さくら


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プロローグ

 セットしたスマホのアラームが鳴るよりも、早くに目覚めてしまった私は、スマホを手繰り寄せてアラームを解除した。隣で寝息を立てながらまだ夢の中にいる友人のいつきを、起こさないためだった。

 夕べは遅くまでいつきとお喋りに夢中になっていたので、布団に入るのが遅くなってしまったが、短い時間でぎゅっと深い眠りに就けたからか、身体は思いの外、軽そう。この調子なら、今日も一日、思う存分『アメリカンパーク』を楽しめるかなと、期待に胸を膨らませる。

 晩秋のこの時期は、日を追うごとに日の出が遅くなっていく。ホテルの部屋のカーテンの向こうでは、空が白み始めていた。とりあえず布団から起き上がって、いつきの邪魔にならないように、荷物の整理を始めようかな。それとも、ガイドブックを眺めながら、今日まわりたいアトラクションをチェックしておこうか。

 だけど、電気をつけてしまうと、いつきを起こしてしまうことになるので、結局は布団にくるまったまま、いつきが起き出すまでぼんやりと天井を眺めていることにした。

 振り返ってみると、高校時代の友人のいつきとは、大学生になってからは海や山、温泉や遊園地など、これまでに色々なところを巡ってきた。その中でも、一番行きたかったのは、この『アメリカンパーク』……日本人なら一度は行ったことがあるかも知れない夢の国。「一緒に行こうね」と、高校生のときから約束していながら、なかなか実現できなかったのだけれど、お互いにアルバイトをしてお金を貯めて、ようやく願いが叶った。

 行程は二泊三日で、今日はその最終日。三日とも朝早くから閉園時刻になるまで、余すことなくパークを堪能するのは、なんとも贅沢な話だったけど、いざここに来てみると、一日が経つのがあっと言う間だった。気がつけば、もう最終日に入っていたって感じで、昨日までの二日間でまわれなかったところを一気にまわろうと、頭の中にパークの地図を思い描いてみせる。開園と同時にあそこに走って行って、その後はあれに乗って……そんなことを思い浮かべているだけでも、まだ布団の中だと言うのに、心がなんだかワクワクしてきた。私って、まわりに影響されやすいから、夢の国の魔法の虜になっているのかな。できれば、醒めないで欲しいな。これからもずうっとずっと。

 そんなことを考えていたら、なんだか心がうずうずしてきて、横になっていられなくなってきた。私は、がさっと起き上がると、身支度をするために、化粧台へと向かう。奮発しただけあって、まるで豪邸のようなつくりのパウダールームは、ピカピカに磨き上げられた大理石が輝いて見えた。洗面を済ませ、歯磨きをして、私は大きな鏡に向かって化粧を始める。

 不意に、後ろで気配を感じたような気がした。私が立てる音で、いつきが起き出したのだろうか。それならそうと、「おはよう。優里、早いね」なんて言ってくれればいいのに……。

 なおも、誰かがいる気配を感じる。私の後ろを、右に左にと動きまわっているような、そんな人が動く気配。

「もう、いつきったら、私を驚かそうとしても駄目だからね」

 ファンデーションを塗りながら、そっと後ろを振り向いてみたが、そこには誰もいなかった。

「えっ、いつき、いつきなの?」

 念のためにバスルームの扉を開けて中を覗いてみたけど、照明の消されたバスルームの中にいつきがいるはずはなく、首を傾げながら鏡を見返したとき、私の後ろ、左側に男の子がニッコリ笑って立っていた。

「えっ?」

 とっさに全身が凍りついてしまって、身体が動かない。目を大きく見開き、「あわあわ」と口を動かしているのは、声を出せないでいるから。もしも、声を出すことができたら、テレビの心霊番組のように、「キャーッ」と、甲高い悲鳴を上げているだろうか。

怖いと言うよりも、不思議な感覚だった。どうして男の子がそこにいるのかと、考えている私がいた。そうか、間違ってこの部屋に入ってきてしまったんだわ。そう、ここは『アメリカンパーク』のホテルだもん、子供たちだってたくさん泊まっているはず。そんなことを、考える余裕さえあった。

どれほどの時間、私が男の子を見つめていたのかはわからないが、突然、男の子がその場を立ち去った。それと同時に、まるで金縛りが解けたように、私の身体に自由が戻る。

「えっ、どこに行ったの?」

 とっさに男の子が去って行った客室の中を眺めてみたが、そこには寝息を立てているいつきの姿があるだけだった。耳を澄ませていたが、客室の扉が開閉する音も聞こえなかった。

「なんだったの、今の男の子は? もっ、もしかして……」

 そう思った途端に、私は恐怖に襲われた。血の気が一気に引き、全身がガクガクと震えはじめる。どうやら、私は気を失ってしまって、そのままそこに倒れ込んでいたみたい。次に気がついたときには、

「ちょっと、優里、大丈夫? しっかりしてよ」

と、いつきが心配そうに私の身体を揺すっていた。


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