第50話 生活魔道具戦争
王都。
実証区域は一時停止となった。
住民は不満げだったが、王女の命令は絶対だ。
「安全確認が済むまで再開しない」
それが
セレスティア・フォン・アルヴェリア
の決定だった。
その夜。
王城の地下会議室。
そこに集められたのは、限られた者だけ。
レオン。
ミレナ。
アルベルト。
ディラン。
伯爵。
そして王女。
机の上には――回収した模倣装置。
歪な構造。
荒い魔法陣。
そして、妙に合理的な部分。
レオンはそれを見つめながら言った。
「相手は」
「俺の設計を見て、理解した上で再構築してます」
ミレナが悔しそうに言う。
「完全に天才です…」
アルベルトが腕を組む。
アルベルト・グランディス
「ギルド内の者ではない」
「こんな構造は教えていない」
ディランが笑う。
「つまり外部ですね」
王女が言った。
「他国か?」
レオンは首を振る。
「分かりません」
「でも目的は明確です」
伯爵が低く問う。
「目的とは?」
レオンは一言で答えた。
「王都の生活市場」
ディランが嬉しそうに言う。
「そこに気づいたか」
レオンは続ける。
「街灯だけなら」
「ただの便利な道具です」
「でも魔力供給網は違う」
ミレナが言う。
「水」
「火」
「暖房」
「冷却」
「通信」
レオンは頷く。
「生活そのものです」
沈黙。
王女が静かに言った。
「つまり」
「これを握った者が」
「王都を支配する」
レオンは答える。
「はい」
王女の目が冷たくなる。
「なら奪わせない」
アルベルトが言う。
「だが敵はすでに動いている」
レオンは机に手を置いた。
「だから」
「次の段階に進めます」
全員が見る。
レオンは言った。
「供給網の“暗号化”です」
ミレナが目を見開く。
「暗号化……?」
レオンは紙を出し、魔法陣を描く。
複雑なパターン。
「供給波形を固定せず」
「時間ごとに変える」
アルベルトが唸る。
「……波形変調」
ディランが言う。
「それは盗めない」
レオンは頷く。
「模倣装置は」
「今の波形に合わせてるだけ」
「だから波形を変えれば」
一言。
「止まります」
王女が笑った。
「素晴らしい」
ミレナが興奮する。
「それなら」
「相手の装置は暴走する可能性が…」
レオンは即答する。
「暴走させません」
「止めるように変える」
アルベルトが笑う。
「優しいな」
レオンは言う。
「市民を巻き込みたくないので」
王女が言う。
「なら決まりね」
そして宣言する。
「王都実証計画」
「第二段階へ移行」
ディランが口を挟む。
「ですが」
「敵も必ず動きます」
王女は頷く。
「ええ」
「だからこちらも動く」
レオンが聞く。
「何を?」
王女は一言。
「先に普及させる」
全員が固まる。
伯爵が言う。
「急ぎすぎでは?」
王女は笑う。
「遅いのよ」
そしてレオンを見る。
「あなたの技術が」
「模倣されるなら」
「模倣される前に」
一言。
「当たり前にしてしまえばいい」
レオンは息を呑む。
ミレナが小さく呟く。
「……王女殿下、強い」
王女は続けた。
「王都全域ではない」
「だが」
「庶民街の半分まで広げる」
アルベルトが目を見開く。
「規模が大きすぎる」
王女は言う。
「国庫を使う」
ディランが笑った。
「これは勝負に出ましたね」
レオンは静かに頷く。
「分かりました」
王女は満足そうに言った。
「勝ちなさい」
レオンは答える。
「勝ちます」
翌日。
王都の庶民街。
再び装置が設置されていく。
配線。
魔法陣。
供給塔。
市民たちが集まる。
「またやるのか?」
「今度は大丈夫か?」
不安と期待。
その中心でレオンが言った。
「今回は」
「模倣されても止まります」
「安全です」
ミレナが装置に触れる。
「波形変調、確認」
レオンが頷く。
「起動」
――ブゥン
光が走る。
灯りが点く。
水の魔道具が動く。
暖房が熱を生む。
子供が叫ぶ。
「すげぇ!!」
母親が涙ぐむ。
「冬が…楽になる…」
老人が震える声で言う。
「火を起こさなくていいのか…」
歓声。
街が明るくなる。
その時。
遠くの屋根。
黒い影が見ていた。
「……変えたな」
装置を取り出す。
起動する。
だが――
光らない。
沈黙。
影は小さく笑った。
「なるほど」
「暗号化か」
そして一言。
「面白い」
次の瞬間。
影は指を鳴らす。
パチン。
別の場所で――
小さな爆発が起きた。
レオンの装置ではない。
模倣装置の暴走。
住民が悲鳴を上げる。
影は呟く。
「なら次は」
「破壊ではなく」
冷たい声。
「奪取だ」
生活魔道具戦争は
ついに次の段階へ。
模倣から――
直接奪う戦いへ突入した。




