第49話 模倣者の影
王都・庶民街。
灯りはまだ、点き続けていた。
家々の窓から漏れる光。
笑い声。
驚き。
そして――
「便利だ……」
誰かの呟き。
その“当たり前になりかけた奇跡”を、遠くから見つめる影があった。
屋根の上。
黒い外套。
顔は見えない。
その手にあるのは――
歪な魔道具。
「……やはり完成しているか」
低い声。
装置の中心に埋め込まれた魔石が、不安定に明滅する。
「だが」
小さく笑う。
「こちらも、間に合った」
影は装置に触れる。
「起動」
――バチッ
一瞬で光が走る。
だがそれは、レオンのものとは違う。
荒い。
乱暴な魔力の流れ。
制御が甘い。
それでも――
別の通りで。
一つのランプが、点いた。
住民が驚く。
「え?こっちも?」
だがその光は、どこか不安定だった。
チカチカと揺れる。
影はそれを見て呟く。
「完全ではないが……」
「十分だ」
そのまま姿を消す。
同時刻。
実証区域・制御装置前。
レオンは異変に気づいた。
「……ミレナ」
隣にいる
ミレナ・アストラが振り向く。
「どうしました?」
レオンは導線を見ている。
「魔力の流れが……乱れてる」
ミレナの表情が変わる。
「外部干渉?」
アルベルトが即座に反応する。
アルベルト・グランディス。
「あり得るな」
レオンは眉をひそめる。
「同じ系統の波形…」
ミレナが言う。
「まさか」
レオンは呟く。
「再現されてる」
その言葉に空気が凍る。
その時。
護衛が駆け込んでくる。
「報告です!」
セレスティア・フォン・アルヴェリアが振り向く。
「何?」
「別の区域で同様の灯りが確認されました!」
沈黙。
ディランが低く笑う。
「来ましたね」
王女の目が冷たくなる。
「場所は?」
「北側の旧市街です!」
レオンは即座に言う。
「行きます」
王女も頷く。
「私も行く」
旧市街。
狭い路地。
古びた建物。
その一角で――
確かに灯りが点いていた。
だが。
「……雑だな」
レオンが呟く。
光が不安定。
ちらついている。
ミレナが観察する。
「制御が甘い……」
アルベルトが断言する。
「未完成だ」
だが問題はそこではない。
レオンが膝をつく。
装置に手を触れる。
「……これ」
「俺の構造をベースにしてる」
ミレナが息を呑む。
「やっぱり…」
王女が言う。
「盗まれた?」
レオンは首を振る。
「違う」
そして言う。
「見て、再現してる」
アルベルトの目が細くなる。
「天才か」
レオンは小さく笑う。
「厄介なやつです」
その時。
――バチッ
装置が強く光る。
ミレナが叫ぶ。
「危険です!」
魔力が暴走しかけている。
レオンが即座に動く。
「離れて!」
住民を下がらせる。
ガルドが前に出る。
「壊すか?」
レオンは言う。
「待ってください!」
一瞬で判断する。
「制御を奪います」
ミレナが驚く。
「できますか!?」
レオンは答える。
「やるしかない」
装置に手を当てる。
魔法陣を書き換える。
侵入。
強引な上書き。
「……っ!」
魔力が逆流する。
レオンの腕が震える。
アルベルトが言う。
「無茶だ!」
レオンは歯を食いしばる。
「でも!」
一気に書き換える。
「止める!!」
――パチン
光が弾ける。
そして。
静寂。
装置は沈黙した。
誰も動かない。
数秒後。
ミレナが息を吐く。
「……止まりました」
住民たちがざわめく。
王女はレオンを見る。
「大丈夫?」
レオンは手を振る。
「なんとか」
だが表情は険しい。
「完全に敵対してきてますね」
ディランが言う。
「模倣だけじゃない」
「市場を奪いに来ている」
アルベルトが低く言う。
「これは戦争だ」
王女が静かに言う。
「いいえ」
全員が見る。
「これは競争よ」
そしてレオンを見る。
「勝ちなさい」
レオンは小さく笑う。
「はい」
だがその目は鋭い。
もう分かっている。
相手はただの模倣者じゃない。
「同格」だ。
そしてその夜。
どこかの部屋で。
黒い外套の人物が笑う。
「面白い」
手元の装置を見つめる。
「やはり君は」
一言。
「最高の相手だよ、レオン」
その目は狂気ではない。
純粋な興味。
そして執着。
物語はここから――
“天才同士の開発戦争”へと突入する




