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52剣技

芋之助の注意がカブトに向いた瞬間、誠は迷った。


反撃は可能か?


影の通路の縁に、瞬間、誠は留まった。


芋之助の剣は、一瞬で濃密な霧の向こうに光の剣を走らせ、そして……。


返す刀が、誠に突き刺さった。


誠の額に剣が刺さる。


しまった。

そんなに甘い先輩ではなかった。


誠は霧の作る影の通路に逃げた。


透過は僅差で遅れていた。


ただ、これは本物の誠ではなく、影の身体だ。


切り裂かれたが、切っ先が抜かれれば元に戻る。


切断されたら、切られた先が落ちてしまうため復元が出来ないが、刺されただけなら、傷はすぐに塞がるのだ。


だが、カブトには誠がやられたように見えたらしい。


「やりやがったな、先輩!

あんた、自分がデカいと思ってるだろうが、アメリカ行ったら、あんたぐらいザラだぜ!」


言いなから、身体の周りに火の玉を螺旋状に回転させる。


芋之助の剣がカブトを襲うが、火球が破裂して剣を弾く。


そのうちに、あちこちに地雷を設置していく。


カブトは兄の順平への対抗心か、総合格闘を身につけている。

内調では、学ぼうと思えば、それなりに実践経験の豊かな先生から、あらゆる格闘技を習うことができた。


師匠は影繰りの場合もあるし、もと自衛隊とか警視庁、それに海外で傭兵をしていたような猛者もいた。


芋之助は、まるでプロボクサーがジャブを連打するように、凄まじいスピードでカブトに剣を放つが、火球と、カブトの両手に蓄えた炎が全てを弾いていく。


その早すぎる攻防に、誠は割って入る隙間を見つけられなかった。


芋之助の背後に回って蛹弾を放つ、などは出来るだろうが、芋之助の感知能力なら、おそらく誠の動きも見抜くだろう。


そして、剣で弾くかもしれず、もっと高度なら交わすかもしれない。


すると蛹弾はカブトに向かってしまう。


まだ相手が足を止めて戦っているならいいが、芋之助もカブトも、共にスピードで戦うタイプだ。


互いに激しく動き、位置もクルクルと変わっている。


ちょうどいいタイミングなど判らないし、何処かに潜んでいれば芋之助の感知に引っかかる。


誠は悩んだが、他に三体の影の体を入れていたので、戦いの周りを距離を取って取り囲んだ。


精密に動くために颯太と裕次と大地がそれぞれの影の身体に入った。


芋之助の剣は四方、上下に関係なくカブトを襲ったが、パワーアップしているカブトの火球は全てを弾く。


そして両手の炎で至近距離から火炎弾を撃ち込むが、その全てを芋之助は見事に剣で抑えた。


もしかすると、感知能力で次の攻撃が読める、くらいのスペシャルな力なのかもしれない。


誠は、透過で芋之助を落としてみたが、あっさりと透過部分を飛び越えられた。


やはり、野性的な感覚なのか、明確に攻撃が分かるのかは不明だが、あらゆる攻撃を予期しているように誠には見えた。


と、周りに黒い蝶が飛び回り始めた。


美鳥が部屋に入ったようだ。


「誠!

何、縮こまってるの!

出て戦いなさい!」


誠は美鳥の側に出て、芋之助の感知能力がスペシャルな事を教えた。


「自分の周囲に限定すれば、予知に近い力です。

戦いながら、それをこなせる事を思うと、信介くんやレディさんより上かもしれない」


「なら蝶で撹乱するわ!」


とカブトと芋之助の間に黒い蝶が乱入した。


誠は、蛹弾で芋之助を狙ったが、見事に剣の柄で弾かれた。


弾かれる寸前、誠は蛹をムカデにして、芋之助の腕に飛び移らせた。


少しでも取り乱せば隙も生まれる、と思っとのだが、芋之助はムカデの乗った腕をブンッと振り、地面に落とすと見もせずに踏み潰した。


誠は芋之助の足元のムカデを爆発させたが、内調の頑丈なブーツが爆発に耐えた。


周囲は、足元も見えないほどの霧の中だ。


カブトは炎を操るので見えるかもしれないが、落ちたムカデの位置など、絶対に目視できないはずだった。


「どういう感知なのかしら?」


美鳥も、その正確無比な動きに困惑したようだ。


美鳥の蝶も、影の刀に貼り付いた、と思うと、刀が消えて蝶はあっけなく落とされた。

ならば、と芋之助の身体に貼り付こうとすると、光の剣で切断される。


どうやっても芋之助には触れられない。


「よー、待たせたな!

なかなか真子が合格させてくれなくてよ!」


ユリコが超高速で芋之助に走り寄る。


芋之助はユリコに光の剣を撃とうとするが、カブトが火炎弾で阻止した。


「オラオラ!

誰が相手だと思ってるんだよ!」


言って火炎弾を連発する。


誠たちも蛹弾を撃ち込んだ。


芋之助は、後に跳んでカブトと誠の攻撃を避ける。


そこに五メートル以上を跳んで、ユリコはチタンの棒を振り下ろした。


芋之助は影の剣で受け止めるが、ユリコのパワーは影能力なので、あの芋之助がグイと押された。


ここぞとばかりに誠やカブトは遠距離攻撃を撃ち込み、美鳥は蝶を貼り付かせる。


集中砲火を受ける芋之助だが、ビルをウエハースのように叩き割るユリコのパワーを、一旦は身を沈めて肩で担ぐように押されながら、一瞬静止すると、全身の力で跳ね返した。


その勢いのまま反撃しようとする芋之助だが、スルリと彼の手足に黒い紐が巻き付いていく。


「あんた馬鹿だべ!

もう、好きにはさせないべ!」


小百合の髪だった。


「ちょっと眠ってもらうだ!」


福も影の身体で参戦し、どうやら毒を吐いたようだ。


芋之助が、グラリと揺れた。


やったか!


思った誠たちだが、次の瞬間、芋之助は小百合の髪の毛を切断していた。


影の剣は全身、何処からでも出せるのだ。


「うおぅ!」


と、吠えた芋之助は、渾身のパワーでユリコを連続攻撃した。


ユリコが防戦一方になって後ずさる。


「助太刀するぜ!」


大と川上の兎たちが芋之助の左右側面を攻め立てた。


だが芋之助は、三人を同時に相手にして一歩も引かない。


そして、仲間が接近戦をしているために、福は毒を吐くことをためらった。


誠は、影を辿っての接近戦を諦めざるをえなかった。

どういう原理か分からないが、芋之助には誠が影から出た瞬間を狙われている。


「芋兄!

仲間の顔も解らなくなったです?

気を確かに持ってください!」


猫が指からのエクトプラズムを芋之助にぶつけた。


猫は天井に張り付いて、頭上から芋之助の動きを封じる。


芋之助は、小百合の髪のように、猫のエクトプラズムも切断しようとするが。


小さな羽虫が二十匹程、芋之助の背中や手足に着地した。


ユリの羽虫だ。


通常なら一、二匹でも命の危険に直面する羽虫だが、芋之助は獣のように吠えていた。


が、芋之助の双眸から光が消える。


誠は、接近戦を諦めた代わりに、石の床の真下に透過して潜り、芋之助の足の裏から影の手を差し込んで、気道を塞いだのだ。


気づかれるのではないか、と不安だったが、石に特殊な成分でも混ざっていたのか、誠の動きを芋之助は気づかなかった。


ある意味、他の皆が頑張ってくれたために、それを陽動として誠は隠密に動けた。


気道を塞ぐと、芋之助の巨体がよろめいた。

そして……。


ぐにゃり、と倒れた芋之助をユリコが支え、ゆっくり寝かした。


芋之助の脳内には細菌が暴れ回っていたが、誠は白血球を増産し、芋之助の肉体をグリーンアップしていく。


「やっと化け物の一体は奪還したか」


カブトは膝に手を置いて、肩で息をしている。

数年、アメリカに渡り現場の猛者たちともやり合ってきたカブトの疲弊ぶりは並では無かった。


「ち、野郎あたしの大事な棒に傷つけやがって!」


鋼鉄より硬いチタンに傷をつけるとは、やはり怪物と言うにふさわしい怪力のようだ。


うーん、と唸って芋之助は起き上がった。


「なんか、寝てしまっていたか?」


ぼんやりと言うが、福の毒を喰らい、ユリの羽虫を二十も乗せて暴れていたのだ。

夢どころではない。


「やな夢を見たな。

なんか、小さなゴブリンが火を吐いて襲ってくるんだ」


カブトは肩で息をしていて反論出来ないが、ギロリと芋之助を見た。


「それにゴッツイ赤鬼が、棘付きのバットで殴ってくるんだぜ」


「……赤、鬼だと……」


さすがのユリコも再び棒を伸ばしそうになったが、誠が慌てて間に入る。


「ほら、目的は達成したんだから……。

それより次の仲間は何処にいるのか分かる?

信介くん」


わざとらしく明るく誠が聞くと、信介はパチンと音を立ててタロットカードを一枚、指から出現させた。


「一人は、さっきまで仲間を救援しようとここに向かっていたようだよ。

ただ、決着はついてしまったので、引き返した」


「で、何処に向かってるんだ?」


井口が聞いた。


信介はまた、パチンと指を鳴らし、一枚のタロットカードを出現させた。


「少し上、そこに敵の集団が待ち構えている」


「やばいぜ!

あの植物人間みたいなのが何十も出てきたら、勝ち目がない!」


川上が言った。


「その逃げてる敵を追撃して、集団に合流する前に倒しちまおうぜ!」


と、カブト。


「各個撃破というやつね、異存無いわ」


美鳥が薄く笑う。


誠は、反論できる女子は決まっている。

霧峰静香と母親くらいだ。


すぐに皆を影の手で包み、信介の立体地図を頼りに、岩の隙間を進んだ。


(お前って本当にツルチン童貞野郎だよな)


しみじみと裕次が言った。


誠は、うっ、と唸ったが。


(僕は人と交わるのは苦手なんだ……)


俯いて告白した。

自分でも自覚はあるようだ。


(でも、あたしたちには普通に接してるでしょ?)


真子は首を傾げるが。


(生きてる人は苦手なんだよ……)


ある種、誠と幽霊は共生関係で結ばれていたので誠としては否応なく対話せざるを得ないようだ。


(kiil♡とかりうとは上手くいってるじゃない)


中村も言うが、


(あれは必死に仕事をしているだけだよ)


(だから頑張ればクラスの人気者にもなれるんだろ。

何、縮こまってんだよ!)


何故か颯太が誠に説教し始めた。


(ギャラも出ないで頑張れるか!

クラスの人気者?

何の意味があるんだ?)


と、颯太に反論しながら。


「このスピード。

偽猫ですね」


アクトレスも同程度かそれ以上の速度も出るが、おそらく、そこまで合流にこだわらない気がする。


逃げるにしても、一度、追跡を粉砕してから悠々と合流する、と誠は推測した。


芋之助の籠もっていた岩の広場には出入り口など無いように見えたが。


信介がパチンとタロットカードを一枚、出すと、


「ほら、そこの隙間に溝が見えるでしょう?」


岩の一部が、巧妙に作られた隠し通路の入り口だった。


誠が影の手で蝶番を外すと、転がるように岩は動き、芋之助も自在に出入り出来る大きさの通路が上に続いていた。



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