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50湖の怪物

確かに、戦闘空間が広大過ぎるので、バラバラに行動するのは危険だった。


猫にも影の体を貸して、湖に向かう小百合たちを援護しながら下に降りていくことにした。


誠は影の手を無数に出してビーチボールを破壊し、仲間のピンチには蛹弾を撃って援護していくが、井口のカラスや、長い耳を羽根にした川上の兎たちが思うよりも有効に敵を蹴散らしていく。


彼らは影なので、時に死角を突かれビーチボールが裏返るようにその触手を伸ばしても、消滅し、新たに生まれ変わるだけだ。


猫の戦闘力は相変わらず凄いので、頭上は猫に任せ、他の三方を皆で倒しながら、下に向かう。


ユリも虫を数十操っているし、福の毒は広範囲の敵を一気に倒せるので、さしものビーチボールたちも数が少しづつ減ってきていた。


だが、元々無限に湖から湧く敵なら、根本を倒す以外に本当の勝利は無かった。


信介は戦車のカードで空飛ぶ戦車を出し、さらに太陽のカードで大きな火の玉を出し、死神のカードで大きな鎌を振るう死神を出してビーチボールを倒していった。


大には、誠が岩壁から棍棒を作り、渡した。


戦い慣れてきた頃、下に遠く湖が見えてきた。


岩から、岸辺も何もなくズドンと湖になっている。


地上ではあまり見ない光景だが、地下では普通なのかもしれない。


湖は炭酸のように泡立ち、それがそのままビーチボールとなって浮かんで来る。


しかしかなり上空から見ているが対岸は目視できない。

誠は、昔、家族旅行で行った琵琶湖を思い出していた。


彦根城や岩だらけのお寺など、かなり変わった観光が出来た旅行だったが、対岸の見えない琵琶湖の巨大さも印象に残っていた。


とはいえそれは地上での話であり、これだけの上空からも対岸が見えないとなると、その巨大さはまさに海だった。


その全体からビーチボールが浮き上がってくるのだから、一瞬気を抜けば数は元通りどころか倍倍に増えていく。


だが、いかにハマユと言えども、あの広い湖を凍らせられるのか、誠は不安になってきた。


近づいて聞いてみると、


「全体は無理かもしれないけど、一部でも塞げればいいし、徐々に範囲を広げていければ戦況も変わってくるでしょ」


ただし、誠たちの人数であまり広範囲を守るのには無理があった。


間が広がれば、各個撃破されてしまうのは誠たちの方だ。


ターゲットはビーチボールの発生源だった。

それを倒さない限り、誠たちは数で圧倒されるだろう。


だが原因が分からないのにそれを言っても、架空の理想を振り回す政治家と何も変わらない。


誠は幽霊の数人に湖の内部を見てきてもらうことにした。


元美容師の高橋、真面目な大友にマリエでお願いする。


誠は水中内で地上程度の遠方視力を獲得しているので、幽霊たちも同じく見える。


「底からどんどん浮き上がって来てるね」


と、高橋。


影の体を使えば戦闘もできるが、幽霊の状態なら誰にも見られず、ビーチボールにも襲われずに水の中を進める。


高橋たちが深く潜って行くと、思うよりも早くビーチボールの原因が見つかった。


湖の底には、巨大なカニが無数におり、互いに共食いをしていたのだ。


そのカニの腹から、泡のようにビーチボールが生まれ、またメスカニは、腹を割って卵を吹き上げていた。


大量の卵や泡状のものが浮き上がり、ビーチボールになるらしい。

どうやらビーチボールは、この巨大ガニの泡と卵の二種類が混じっているらしい。


そうしてビーチボールを吹き上げながら、カニたちは相手を容赦なくハサミで砕き、腕をもぎ、殺し合いが湖の湖底中で無限に繰り返えされている。


(なんでこんな事を……)


無論、大地母神の悪意なのは間違いないが、蟹はこんなに激しい共食いをするものなのだろうか?


(おそらく交尾なんじゃないかな)


と田辺。


(交尾に際して共食いをする生物は少なくないし、卵は空中に飛んで行くのだから、後はバトルロワイヤルって感じなのかも)


それを生き残った者が次の交尾に参加するのか……?


無論、誠たちは敵の数が減ってくれれば、その分楽になるのだが、とはいえ琵琶湖を超える巨大湖だ。


その湖底一面に巨大蟹の大群が交尾と共食いを同時にしている。


蟹は一体の体高が十メートル近い、文字通りの化け物だ。

ここで言う体高は、計測値ではなく、あくまで幽霊たちの見た見た目の高さ、蟹は構造的にハサミを除く八本の足で、やや斜めに立つ形で歩行するので、本来は十メートルをゆうに超える体長だろう。


まさに地獄絵図のような光景であり、これが湖底一杯に広がっているなら到底誠がどうにかできる、いや全ての影繰りが戦える生物と数ではない。


この琵琶湖並みの湖に氷を張っても……。


怪物たちの狂気の受精祭りをとてもどうにか出来るものにはならないだろう。


誠は頭を抱えるが……。


(誠君。

君は蒸気の壁を作る時、何処から蒸気を持ってきている?」


田辺は聞くが、誠も、自分でやっておいて何だが、そんな事は全く分からない。

水分くりの神の力なのだから。


そう答えると、


(そうだろうね。

だから、一度、確かめてみよう。

出来るだけ怪物の側で、可能な限り最大限の蒸気を作ってみてくれ)


水の中に蒸気?


考えると、同じ水の形態の違うものであり、どうなるのか分からなかったが、誠は田辺に家庭教師もしてもらっており、頼りになるお兄さん的に、一人っ子の誠は盲目的に信用していたので、素直に最大限の水蒸気を蟹に被せるように作った。


思うより大きく、数百メートルの球体に水蒸気が生まれた。


無数の化物蟹が巻き上がり、まるで機雷が爆発したように湖面が破裂した。


「え、どうなったの?」


誠が幽霊と会話していることは、誰も知らない。

が、皆、懸命に戦っていたので、誠の呟きには気が付かなかった。


(やはり、思った通りだったよ!

君は、周りの水分とは関係なく、思う場所に蒸気を発生させるんだ。

たとえ湿度0パーセントの砂漠でもね)


湖という、安定した水に満たされた場所に、いきなり何百メートル規模の水蒸気が発生したため、安定した原子の連なりの中に巨大な異物が出現したため、大きな爆発が起こったのだという。


ある意味、これも水蒸気爆発と言えるらしい。


誠は、どんどんと水蒸気を蟹の側に作り出した。


やるうちに、だんだんと大きな水蒸気が作れるようになり、一キロ近い水蒸気を連続で水中に発生させた。


それでなくとも交尾祭りだった湖底では、巨大機雷の爆撃を受けたような騒ぎになり、湖面は波打ち、蟹の残骸が一面に浮かんだ。


誠たちは往年の重爆撃機のように上を猫、周りを他の仲間でビーチボールを撃退しながら湖を移動した。


化物蟹の破片が至る所に浮かぶ湖は、この蒸気爆弾により、徐々にビーチボールの数も減っていった。


十メートルの蟹が死滅する水蒸気爆発は、当然、受精したばかりの蟹の姿すら、まだ獲得していない卵か雛の命は容赦なく削り、湖面には割れたビーチボールのような無残な死骸が埋め尽くした。


それでも広大な湖を全て掃討するのには数時間がかかったが、ビーチボールは見えなくなった。


「こんなのが水面に出ないで良かったな」


カブトも、プカプカ浮かぶ自分の身体より太く長い蟹のハサミを見ると、しみじみ語った。


確かに怪物蟹が数匹でも外に出たりしたら、大事件になるだろう。


だが実際、環八を塞ぐような池の生物入りのスライムが暴れたり、サソリ少年がスカイツリーで皆殺しの惨劇を行ってもいる。


大地母神は、いつでもその程度のことはやれるのだ。


待てよ……、と田辺は考える。


(環八は赤羽あたりまでだけどそこから弧を描けば浅草辺りまで繋がるな……)


つまり、東京をランダムに破壊したように見えて、実は全く無意味にテロルを行っていたわけでは無いのかもしれない。


実際、誠が襲われたのも環八の内側、と言えば内側だ。

その辺りを標的にする理由が何かあるのだろうか?


ともかくビーチボールを倒した誠たちは、


「あと、教官と合流できれば芋之助さん以外は皆揃うね」


少し、ホッとした様子だ。


「やはり芋之助さんは敵に捕まったんだね」


信介が呟く。


「実は大地母神に洗脳されると反応が消えんるだ。

だから僕には二人の居場所は分からないんだよ」


教官が大地母神側についている!


誠は呆然とした。


仮にも教官と芋之助は最強の二人と言えるだろう。

他のメンバーで二人を、特に倒すのではなく仲間に戻すことは可能だろうか?


誠は暗然と考えた。


「と、とにかく二人同時は拙すぎるよ。

一人づつなら、何か策を考えられるかもしれないけど……」


呟くように誠は言った。


「それは賛成よ。

でも、何処にいるかを知らなければ作戦も立てられないわ」


美鳥が教える。


「近づけば匂いで分かるけどなぁ」


川上は言うが、芋之助もアクトレス教官も匂いの分かる距離まで近づいたら、死しかないだろう。


「信介くん。

個人の特定は出来なくとも、このエリアは危険だ、ぐらいでも分からないかな?

可能なら二人の居そうな感じまで掴めれば嬉しいんだけど」


誠が言うと、信介は考えていたが、肩を竦めて、


「やってみるよ」


と答え、カードをめくり始めた。

そのポーズは二枚目だったが、今の信介はアバターではなく誠と変わらない身長、体重の、ひ弱な少年だったので少しチグハグだった。


「地図がある方が分かりやすいべ!」


小百合は言うと髪の毛で複雑な迷路を細かく作った。


「俺は空間認識には自信があるべ!」


凄いよ!


誠は言って立体地図をスマホで撮った。


耳の裏にデバイスは貼ってあるが、写真はスマホの方が撮りやすい。


だがスマホに写真を残すのはまずいので、デバイスに送ったらすぐ消去する。


信介はしばらくカードを並べていたが、


「ここ、ここと、後はここが、三人っぽいね」


「三人?」


カブトが聞くと。


「芋之助さん、アクトレス教官、そして鏡写しの猫だ」


そうだ。

敵は三人だった。


「ちなみに大地母神はダンジョン全体にいるようなものだから探すのは無理だよ」


「教官は戦場モードで戦われたら、まず勝負にならない。

まずは芋之助さんを正気に戻せれば、だいぶ楽になるから芋之助さんを探そう」


「どうやってだよ」


ユリコが言うが、誠は。


「今までと変わらないよ。

違ったら逃げる。

ポイントは三つなんだから」


「だけど見つけたらどうするんだ?

敵わないから逃げた相手だろう?」


大が疑問を口にした。


「僕が囮になって接近します。

皆は、距離を取って援護してください」


傷は治せるとはいえ、痛いのは嫌いだったし、とてつもなく怖い。


だが、誠が接近戦を挑む以外、勝ち目は無かった。


皆は納得し、誠は最初の危険地帯に、地面の亀裂を辿って近づいた。

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