三澤家
「ただいま」
「おかえりなさい。どうだった?」
帰宅後、すぐに渡しを迎えてくれた女性”三澤 歌織”。
現世におていの私の母親だ。
魔王時代には家族と言える者はいなかった。
当たり前のことなのだろうが、なんだか少しだけこそばゆい気がする。
「一次審査は合格した」
「あらそうなの! おめでとう! 今日の夕御飯は少し豪勢にしましょうか!」
「まだ一次審査でしかないよ」
「そうかもしれないけど、おめでたいことにはかわりないじゃない」
「母さん、お腹すいた。あれ、姉貴帰ってたんだ。ま、落ち込むことないって」
一階へと降りてきた私の弟”三澤 海斗”は、私の顔を見るなり、オーディションの結果を聞くこともなく決めつけで慰めてくる。
「いや、一次審査通ったから」
「え!? うそ、だろ…?」
「本当」
信じられないと、歌織の方へ顔を向ける海斗。
それに、笑顔で返答する歌織。
「姉貴がアイドルなんて、天変地異くらいにありえない!」
「海斗。お姉ちゃんに失礼でしょ?」
「そうだぞ、母上の言うとおりだ」
「「…」」
海斗の失礼な発言に対してフォローをしてくれた歌織に同調する形でそう発言する私だったが、何故か二人は眼を丸くして私の方をじっと見てくる。
「な、なんだ…」
「姉貴、頭でも打った?」
「?」
海斗の発言がさっきまでのバカにした雰囲気ではなく、本気で私を心配していることが伝わってくる。
「…あ」
『”母上”の言うとおりだ』
魔王時代の口調で会話してしまっていたことに今更気づく。
「え、ええと…」
私は言い訳を考えるために、魔王時代に人間たちとの戦いにおける作戦を考える時の何倍もを超える勢いで、脳をめぐらせる。
「し、審査ので、演技があったから、その時の、癖で、つい…」
言い訳として、百点満点の回答だろう!!
「今日は、面接だけって今朝言ってたじゃん」
現世の私!
余計なことを!
「そうだったんでけど、急遽演技もやらせたのよ!」
「ふーん。ま、姉貴が変なのはいつものことか」
納得してくれるのはありがたいが、この弟、いつか後悔させてやる。
仮にも私は元魔王!!
バカにされっぱなしは許せない!!
「それより母さん。夕御飯は?」
「今から作ろうと思っていたけど、お姉ちゃんが頑張ったことだし、寿司ので出前でもとろうかしら」
「やった! 俺、姉貴を信じてたぜ」
「…」
「美桜は手洗いうがいしてきなさいな」
「…了か。わかったわ」
家族と話すときくらい、きちんと”美桜”として会話しなければならないな。
気をつけよう…。
--ブブッ
そんなことを考えていると、スマホが鳴る。
また市川からかなと思い、スマホの画面を見ると、メッセージはユシャからだった。
『すみません。オーディションで疲れている思いますが、後でお話したいことがあるので、お電話できませんか?』
私は少し考えたが、断る理由もないし『了解。後で連絡する』とだけ返信する。
だが、寿司を堪能したことと、オーディションでの気疲れからか、ユシャに連絡することを忘れて、その日、私はすぐに眠りについた。
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