プロローグ
親に連れられてきただけのアイドルのライブ、そこで運命の出会いを果たした。
決して有名でもなく、観客も全員で三十人くらい。
歌もダンスもお世辞にも上手いともいえない。
けど、当時の私にとって彼女は、どんなアイドルよりも輝いて見えた。
やりたい事も好きなものも特になくて、一生懸命に何かをしたこともなく平凡な生活を送っていた私。
そんな私は、驚くくらいに一生懸命で、”私をみて”と訴えかけてきた彼女の輝く瞳に私は魅了された。
『アイドルってこんなに凄いんだ』
その時私は、素直な気持ちでそう思った。
そして、気づいたときにはアイドルを目指していた。
そう、気づいたときには…。
「では、次の方自己紹介をお願いします」
「は、はい!」
一人の男性に声をかけられた私は、緊張したまま返事をし、座っていた椅子から立ち上がる。
正直、自分自身、こんなに緊張していることに驚いている。
昔は、どんな大勢の前にいても緊張するどころか、余裕な顔立ちで人々を見下ろしていたのに。
「エ、エントリーナンバー11番。美澤 真桜です!!」
だが緊張してもしょうがないと思う。
こんな事は初めてであり、望んだことではあるのだが、望んで今ここにいるわけではないのだから。
私が何を言っているのかわからない人がたくさんいるとは思う。
だが、安心してほしい。
--私自身よくわかっていないのだから。
でも、今ここで起こっていることは現実なのだ。
目の前では、私のことを見極めるために真剣な眼差しでみてくる大人たち。
両隣には、今後のライバルになりうるかどうかを見極めようとしているのか、顔こそこちらに向けてはいないが、気配がだだ漏れている少女たち。
「どうしました? 他にアピールポイントとかはありませんか?」
私の頭は人生で一番のパニックを迎えている。
何をしたらこの場を穏便に済ませることが出来る?
確かに、アイドルになりたいから、このオーディションを受けに来た。
けど、今の私は決してアイドルになりたいなんてこれっぽっちも思っていない。
なぜなら--。
「はぁ…。何もないなら、次の--」
「ま!」
「ま?」
このオーディションを受ける途中、私は前世の記憶を取り戻したからだ。
「ま、魔法を使います!」
”アイドルになりたい一人の少女”という現世での記憶。
”世界を支配していた魔王(男)”という前世の記憶。
二つの記憶が混ざって、何がなんだかわからない私は、わけも分からずそんなことを口走っていた。
魔法なんて空想上だけのものでしかないはずの世界、そんな世界のはずなのに、私の人差し指からは、ライターくらいの小さな火が灯った。
「「「「「…え?」」」」」
私自身含め、その場にいた全員の驚きの声が漏れた。
この物語は、前世で魔王をやっていた私が、生まれ変わった現世において、なぜかトップアイドルを目指すことになってしまった、一人の少女(?)の物語である。
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