VS.謎の宅配便
変哲のない一辺、二十センチ前後のダンボール箱がベルトコンベアで運ばれていく。空港にありそうな荷物の検査装置の内部へと取り込まれていった。
「何でもありますね、先輩の研究室」
「あまり出番のなかった装置だけど、役立ってよかったよ」
「爆発物の影はありますか?」
「……いちおう、大丈夫みたいだね」
差出人不明の荷物が研究室に届いたというのに、不用心に開く真似はしない。第二ヒーローはチームなので、眼鏡先輩へと連絡を取って研究室に戻ってもらったのだ。
先輩のために用意された研究室には、X線やらミリ波やらで箱の中身を調べる機器も備わっていたため使用した。結果、ダンボールの中に爆弾はなさそうである。
検査には合格したが、まだ安心はできない。
用心を怠らず、劇薬を扱う換気扇付きのスペースにてダンボールの中身を確認する。更に、上蓋を開くのではなく、箱の横に一センチ程度の穴を開いて内視鏡を挿入する徹底ぶりだ。
「……何かが折りたたまれている? 布? これ以上は、開けてみないと分からないかな」
三人とも、ガスマスクと防御スーツを着込んで毒ガス対策までしていたのだが、危険物は確認できなかった。
「開けてみましょう。ここの住所が割れている時点で、箱の中身だけに注意を払っても仕方がないので」
「分かった。年長者の僕が開けよう」
「いえ、先輩は第二ヒーローチームの生命線です。代わりがいませんので、俺か春都のどちらかが開けるべきです。理想を言うと春都ですが、現状、最も戦力にならない俺が開けます。戦闘服を着ていればどうにか動けますから」
「……二郎にしては謙虚な発言だ」
という訳で、俺が危険な役目を買った。
穴開き戦闘服――出力、三割程度――に着替えると、痛む体を押してダンボールのガムテープを引きちぎる。
蓋を開け、空気の入った緩衝材を取り除くと、見えてきたのは――、
「箱の中身は……えっ、戦闘服だ!」
――透明な袋の中で畳まれている黒い服。俺が今着ている服と同じなので、すぐに正体が分かった。
綺麗に畳まれた戦闘服はどこもほつれておらず、毛玉もない。新品なのは間違いない。
欲しかった服が手元にある、というのに素直に喜べそうになかった。眼鏡先輩でも解析ができていない謎の素材で出来た戦闘服の新品を送り付けられる相手となると、たった一組織のみである。
分かり切った答えであるが、エヴォルン・コールだけだ。
「二郎、本当に戦闘服が?!」
「僕にも見せて欲しい。……意匠は確かに、エヴォルン・コールの戦闘員が着ている戦闘服。いや、デザインが洗練されている? まさか……、新型!?」
研究室のドア付近に待機していた春都と眼鏡先輩も、戦闘服を手に取って材質を確かめている。
第二ヒーローチームが今一番欲しかった戦闘服が、宅配された理由については同梱されている手紙に書かれているだろう。
“拝啓 盛夏の候、汗ばむこの頃ですが、第二ヒーロー様はいかがお過ごしでしょうか。
誠に勝手ながら、第二ヒーロー様の戦力低下を憂い、私の派閥で開発、製造している最新の戦闘服をお送りいたします。
戦闘服は最新の戊A型となります。旧人類であってもC級怪人並みの戦闘力を発揮可能なスペックを有する自信作です。
進化計画発動までの束の間ではございますが、双方、悔いの残らぬ生存競争のためにご活用ください。私の前に現れるまで、ご壮健であられますよう。
かしこ。
XXXX年 八月十日
第二ヒーロー様
虫系怪人派閥代表 A級怪人 マヨ”
人生で最も丁寧な手紙を貰ってしまった。筆による直筆であるが、実に綺麗な文字である。怪人が書いたものでなければ額縁に入れて飾っておきたいぐらいだ。
「ここの住所と俺の正体、思いっきり敵にバレちゃったな」
「いや、二郎だけの可能性も微小なレベルで存在する。盆が近いし、俺は実家に帰るとするか」
「春都の実家は大都会だろうに」
第二ヒーローチームは敵の本拠地や正体が分かっていない。一方的な展開となってしまった。というか、もう終わっていないだろうか。
“追伸
第二ヒーロー様の個人情報は、本部に一切伝えておりません”
折りたたまれている手紙を最後まで読むと、安心するべきか悩む一文が書かれてあった。
敵と認定した第二ヒーローにワザワザ戦闘服を送り付ける行動。この手紙を書いたマヨなる怪人は、上杉謙信が武田信玄に塩を送る気持ちで俺に戦闘服を送ったのだろうか。
しょっぱいというよりも苦い表情となった俺は、眼鏡先輩に相談する。
「この研究室を引き払って逃げるべきですかね?」
「エヴォルン・コールの諜報能力はこの宅配で証明された。どこに逃げても無駄だと思うよ。逆に、このマヨなる人物は第二ヒーローが逃げ出す事を望んでいるようには思えない」
エヴォルン・コールも一枚岩ではない。第二ヒーローとして今後も戦う限りは、すぐに研究室が襲撃される事はないだろう、というのが眼鏡先輩の予想だ。
「もちろん、敵を信頼するのはありえないから。避難先を確保しながらだけどね」
せっかく届いた戦闘服なので、古着屋に売らず、使う事にはなるのだろう。心情的には、憎むべき敵に手加減されているみたいで嫌だが。
『――大都会ディスイズニーランドの崩壊に怪人が関与している事が、正式に公表されました。犯行動機や方法、被害規模について警察が全力で調査すると言っていますが、どうせ分からないと思います――』
カーテンを閉め切った暗い部屋で、巨体が寝返りをうつ。
世間を騒がす一大ニュースがテレビで報道されているのに、完全に無視である。
『――本事件では多数の行方不明者も出ています。約一年、怪人共の迷惑活動で行方不明者が発生する被害はありませんでしたが、その定説が覆ったのでしょうか。悪の秘密結社の凶暴化を専門家は指摘――』
地響きのようないびきをかいているため、テレビの音が聞こえていないだけかもしれなかったが。
『――なお、SNS上では、新たに白いスケーリーフットが登場したのではという噂が拡散されています。都心上空を飛行し、万葉県へと向かう姿が各所で目撃、撮影されています。……ちなみに、白いスケーリーフットの所為で、第二ヒーローが活躍したかもしれないという噂が一気に静まり返ってランク外に――』
寝ている巨体は、元々、ニュース番組を見るつもりがなかったのだ。テレビをつけたまま眠ってしまい、時間が流れてニュースが始まっただけというのが真相だ。特別、珍しい出来事ではない。
『――真面目な報道ばかりだと視聴者が疲れるので、次のニュースです。今一番注目されているアイドル、石田ミカの握手会が大都会で開催されます。石田ミカの新曲発売を記念して行われる、ぶっちゃけ宣伝活動なのですが、いやぁ、石田ミカ、可愛いですね! 私も生放送がありますが、無視して参戦する所存です――』
ふと、巨体が呼吸を止めて、首と胴体の境目のない体がむくりと起こされた。
横に振り向けばよいものを、何故か重量感ある上半身をズボラに逸らし、ゆえに維持の難しい姿勢へと変えていく。一切注目していなかったニュース番組を、天地逆転した視界で注視しているらしい。
壁掛けの巨大モニターの中では、黒目の大きな女性アイドルが歌っていた。
男ならば誰もが憧れを持つ、恋焦がれる人気上位のアイドル、石田ミカだ。
憧れながらも、種族が違うのではなかろうかと錯覚する程に美麗にひれ伏し、画面内だけの偶像と諦観する。そんなアイドルでもある。
「――ぐふぇぇ、待っていたウヂぃ。僕の石田ミカァぁ」
決して珍しい事ではない。いつの時代においても、アイドルとは手の届かない所にいる輝かしい人種である。
しかし、残念ながら……そうは思わない人間も一定数生じる。
「種族が違うぐらいに綺麗だガらぁ。僕は人間止めて、君に相応しい怪人になったウヂぃ」
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▼怪人ブレイン・モンスター
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“戦闘力:53”
“怪人技:???”
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旧人類のアイドルと結婚する。そんな一般的にも怪人的にも誉められない理由で怪人となった真の怪人、怪人ブレイン・モンスターが、活動を開始する。




