VS.魚介系怪人のエース
「お初にお目にかかる。ヒーロー・スケーリーフット。私はこの大都会ディスイズニーランドを拠点に、旧人類への闘争と救済をこなす怪人ミズチだ。悪の秘密結社、エヴォルン・コールにおける三体のA級怪人の一体でもある」
「A級怪人! ようやく、エヴォルン・コールの幹部を見つけたぞ」
「えっ、ヒーローとして活動期間が俺より長いの、げふぉゲフォ、に、俺が先に見つけたA級怪人を発見、げふぉ、していなかったのか?」
「……第二ヒーロー。咳きこむぐらいに重傷なら何も言うな」
巨大ウツボの正体はA級怪人、名はミズチというらしい。
大都会に隣接していながら広大な敷地を有するテーマパークを拠点にしているのだ。エヴォルン・コールの幹部というのも頷ける話である。
見るからに強そうな怪人なので虚偽報告でもないはずだ。満身創痍でなくても第二ヒーローでは倒せない怪人であるのは明らか。
だが、恐れる心配はない。
そもそも、俺が戦うまでもない。ここには丁度、ヒーローがいるではないか。
「やれ、スケーリーフット!」
「……第二ヒーローに命じられるのは釈然としないが。怪人は倒す!」
戦闘力などという野蛮な力はすべて、中の人がマッチョで汗臭いスケーリーフットに外注してしまえばよい。ノコノコと地上へと現れて、暴力的なヒーローの前に現れたのが怪人ミズチの運の尽きだった。
背面の吸気口を全開にしてブースターをふかし、怪人ミズチへと突撃するスケーリーフット。あっという間にウツボの顎の直下へと急行した。
下方からのアッパーカットだ。壁をも粉砕するヒーローの鉄拳ならば一撃必殺もありえ――、
「WraaaaaaSuッ、Boooッ!!」
――フォレストエリアの名所の一つ、ツリーハウスの窓を割って跳び出したエイリアン型怪人がスケーリーフットを強襲した。顔を真横から捉えたストレートパンチにより、スケーリーフットは空中回転しながら墜落していく。地面に敷き詰められたレンガが空中に舞う。
「Wraaaaaaッ!」
現れた怪人は、地下で俺をボロボロにした怪人ラフ・エイリアである。
柔軟かつ強靭なバネのような動きで地面へと落ちたスケーリーフットへと追撃を仕掛け、着地を兼ねたかかと落としで首を狙っている。
ヒーロー危うしの状況だが、これはブースターを使った緊急回避でどうにか避けた。
決定打は避けられたものの、立ち上がったスケーリーフットは……フラつき、頭を振っている。
「くっ、怪人がまだ残っていたのか。奇襲とは卑怯な」
「Wra、Wraaaaっ」
「笑ったな、エイリアン似の怪人め! まともに戦えばお前など!」
スケーリーフットは、第一ターゲットを怪人ミズチから怪人ラフ・エイリアに変更した。最速で決着をつけるべく、ついでにお返しのためにストレートパンチを怪人の頬へと叩き込む。
「Wra、Wraaaっ」
「な、がっ?!」
怪人ラフ・エイリアはスケーリーフット渾身の一撃をかいくぐると、器用にも、カウンターの一撃をクリーンヒットさせた。
スケーリーフットが戦いにおいて初めて、膝をつく。
「怪人ラフ・エイリアは動画サイトで武術を学習している。戦闘力任せのヒーローが、まともに戦ったら勝てると思っていたのか?」
「小癪にも怪人が武術を使うか。だが、私ならばパワーで押し切れる」
怪人ラフ・エイリアにやられてばかりのスケーリーフットが意地を見せた。ガントレットを飛ばして怪人の腕を掴む。ウィンチで巻き寄せ、反撃の一撃を腹にお見舞いする。
高速道路を走るトラックの正面衝突。そのエネルギーが拳に集約したような打撃だった。振動が俺のところまで届く。
悶絶するだけでは収まらない攻撃を受けた怪人ラフ・エイリアは、噛み合わせの悪い口を大きく開き、粘液をこぼし、そして……笑う。
「Wra、Wra、Wra!」
「馬鹿なッ。私の一撃を受けて耐えただと?!」
「安心したまえ、スケーリーフット。お前の戦闘力はおよそ100とエヴォルン・コールは推定している。ゆえに、戦闘力100の怪人ラフ・エイリアならば互角の戦いとなるだろう」
地下で俺も怪人ラフ・エイリアと戦った――戦いとは言い難い一方的なものだった――が、実力の数パーセントも見せていなかったのだろう。怪人の中にも、ヒーローに比肩する戦闘力を有する者がいる。その初めての例示が、エイリアン似のこいつだ。
「怪人ラフ・エイリア。ヒーローを倒してみせよ!」
「WraaaaaaShuッ!」
空中へと跳び上がり、体の捻りを加えた足蹴でスケーリーフットを引き離す。
後方へと大きく飛ばされて、ファンシーな建物へと強制入室させられたスケーリーフット。
間を置かず、建物の中に怪人ラフ・エイリアも跳び込んでいって姿が見えなくなったが、どこで戦闘が行われているのかは分かり易い。連なる建物が次々と倒壊しているのだ。
スケーリーフットと戦いになる戦闘力を有する怪人が登場し、更に、別のA級怪人が残っている。劣勢は明白だった。
軋む体に鞭を打って立ち上がると、俺は……怪人ミズチから顔をそらす。
「…………あ、家のガスの元栓、閉め忘れていた。しまったなぁ」
帰宅呪文を唱えて、壊れた城壁からの撤退を開始した。
スケーリーフットも逃げろと言っていたので心は痛まない。そもそも、アイツは一般人ではなく、俺よりも強い。どうにか切り抜けるだろうさ。うん。
「第二ヒーロー君。まだ閉園時間には早い。ぜひ、最後まで楽しんでくれたまえ」
テーマパークの各所。壁や地面、そして、大量のミストシャワーから発生していると思しき霧の濃度が増した。崩れた城壁の向こう側にあるはずの大都会の光景が、完全に消失していく。
構わず突入して、外部への脱出を試みたのだが……霧を抜けた向こう側にあったのは巨城が中央に建つテーマパークだ。方向感覚を失う程の距離はないというのに、何故か外へと脱出できない。
「この霧は、まさか怪人技かっ」
「その通り、私の怪人技だ。幻影を作り上げ、人の脳を惑わせる。その程度のものだ」
幻覚作用のある霧を発生、操作する怪人技か。怪人ミズチを倒さなければ脱出できないらしい。
覚悟を決めて戦っても勝てる見込みはない。こうなればやはり、頼みの綱はスケーリーフットとなるのだが……倒壊音と共に通りに戻ってきた姿は所々壊れていた。
追って現れた怪人ラフ・エイリアも血を流しているので一方的にやられていた訳ではなさそうなものの、怪人は相変わらず笑っている。心理的には確実にヒーローの劣勢だ。
仕方がない。不本意ではあるがスケーリーフットを援護する。
「――先輩、特殊兵装の射出、お願いできますか?」
第二ヒーロー用に用意していた奥の手なのだが、俺が使うよりもスケーリーフットに使わせた方が効果的だろう。
『駐車場にあるから無線通信が通じるか微妙だけど……いや、繋がった』
「宅配場所はフォレストエリアの外縁。ツリーハウス群へ」
『射出成功した。到着まで三、二、一……今!』
眼鏡先輩は正確に送り届けてくれたらしい。
俺の前方、十メートル先へと投射物が落下して突き刺さる。
「第二ヒーロー。これはっ?!」
「スケーリーフット、使え。真・蜻蛉切だ」




