VS.第二ヒーローの素顔
怪人ニボシが三体同時に第二ヒーローへと襲いかかった。
第二ヒーローはその場から動かず、最小限の動きで怪人ニボシの攻撃をかわす。
「……違う。第二ヒーローにはもう動けるだけの力がない」
五十鈴はすぐに看破する。第二ヒーローには、回避という余計な行動に回せるだけの体力が残されていない。
一体目の怪人ニボシの攻撃はよろけて偶然回避できただけ。二体目の怪人ニボシに肩を殴られて、三体目に頬を殴打されていた。
第二ヒーローは後ろに倒れないように踏ん張ると、頬を殴った怪人の腕を掴んで引き寄せる。そのまま、人体の急所である鳩尾へと容赦のない一撃を加える。
「まずは、一体」
苦悶しながら倒れ込む一体目の犠牲を無駄にしないと、二体目と三体目が第二ヒーローへと組みつき、動きを封じてきた。
ぎこちなく首を動かした第二ヒーローは二体目の怪人ニボシと視線を合わせる。すると、二体目は急に動きを止めて――怪人の顔にサメみたいなものが投影された気がする――しまう。動かない二体目をはね除けた後、三体目の額にプラスティックフォークを刺していた。
「二体、三体。……まだ戦えるぞ」
フォークを回収した第二ヒーローは、前方の怪人集団を指で挑発している。
三体を軽く倒したのだから十分に余裕を見せつけた、と言いたいが、第二ヒーローの体には確実にダメージが蓄積されていた。倒れる寸前である。
見かねた五十鈴は一人ゲスト達の集団から離れて、前線で戦う第二ヒーローへと駆け寄る。
「もう限界よ。戦える状態ではないから」
「だから、戦うなと? ……理不尽な事を、言うなよ」
「第二ヒーロー。貴方が人を助けようとしている事は分かる。正直、そんな体になってまで戦うなんて見直した。でも、もう無理だから」
「だから、諦めろと? ……できない事を、言うなよ」
「第二ヒーローが戦わなくても、ヒーローは現れるから」
「アイツの時には……現れなかったぞ」
自暴自棄な答えと共に五十鈴を振り払う第二ヒーロー。
新たに襲いかかってきた怪人ニボシから五十鈴をかばった、ようにも見える。怪人の攻撃で第二ヒーローはまた傷付いていく。
五十鈴は自分が邪魔にしかなっていない事に今更気付いたが、もう遅い。
一般人である五十鈴を助けるべく第二ヒーローは体を盾にしながら戦った。
「なかなかに粘るザリね。時間の問題ではあるけれど、いたずらにニボシを消費するのも頭が悪い。……怪人フラットマン。第二ヒーローの動きを止めなさい」
しかし、第二ヒーローの善戦は終わる。
第二ヒーローは突如、片足を動かせなくなった。足元を見ると、巨大な平べったい魚が足首までくわえ込んでいる。
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▼怪人フラットマン
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“戦闘力:20”
“怪人技:擬態(地面)”
“恐らくカレイ型怪人。
目が体の右側に寄っているのでカレイと言われているが、ヒラメも場合によっては右側に目が寄るので厳密な判定には使えない。
カレイもヒラメもカレイ目だし、カレイでいいだろうと安直に分類された怪人”
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「ほべべほほほへへへふへ(隠密行動に長けた俺様、怪人フラットマンの口に足を突っ込んでいた事に気付かなかったのがお前の敗因カレイ、第二ヒーロー!)」
何を言っているのかさっぱり分からないが、右側に目が寄っているのでカレイの怪人である可能性が高い。
動きを封じられた第二ヒーローへと、怪人集団を指揮していたザリガニ型怪人が迫る。
「怪人ミズチ様を邪魔する者は、許さないザリ!」
「くッ、あかァ!?」
振り上げた巨大なハサミは同質量のハンマーと変わらない。第二ヒーローの体へと横殴りに振られて、体の中心軸にジャストミートした。
二体の怪人のコンビプレーにより第二ヒーローは空を飛ぶ。危険な角度と飛距離だ。遠く離れたディスイズニーキャラクターの顔出しパネルへと頭から突っ込んで、動かなくなってしまう。
「第二ヒーローっ!!」
パネルから足だけを出している第二ヒーローの安否を心配して、五十鈴は急ぎ駆け寄る。
「第二ヒーロー、無事ですか。生きていま――」
破損した板の向こう側では、第二ヒーローが仰向けに倒れている。
……違う。素顔を晒した二郎が倒れている。脱げ落ちた仮面が、傍に転げ落ちていた。
ダメージが積み重なり、耐え切れなくなったのだろう。二郎は気絶してしまっている。
「――嘘。第二ヒーローが……二郎さんっ?!」
不意打ちで、第二ヒーローの正体を知ってしまった五十鈴は混乱した。
悪の秘密結社の言いなりとなり、戦闘員と一緒に五十鈴をソファーに収納した軽薄男、二郎。
悪の秘密結社と戦い、傷だらけとなった謎のアマチュアヒーロー、第二ヒーロー。
この二つの人物像のズレの修正が五十鈴の中で追いつかず、どういった反応が正しいのか判断できずにいる。
「とりあえず、えーと、仮面を」
胡散臭い者には蓋をする。脱げ落ちていた仮面を二郎の頭に被せて、見なかったことにする。それが五十鈴にとっての最善策だった。
「怪人フラットマン、固定が足りず飛んで行ったではないかザリ」
「怪人ホロカアムシペが加減しないからカレイ。生け捕りが目的ではないのか」
第二ヒーローを倒した怪人が近づいていた。第二ヒーローの正体で悩んでいられる時間はなくなった。
五十鈴は倒れた第二ヒーローの手を握る。
「第二ヒーロー、頑張ったね。後は私に任せて。――変身。スケーリーフット」
名残惜しくも手を離した五十鈴は、己の怪人技を発動させた。
鳥が翼を広げるがごとく、五十鈴の背中から広がる甲殻が彼女の全身を覆い隠す。
その外見は歪な卵である。あるいは繭である。
より端的に言うならば、それは貝の殻となる。二メートル以上の楕円な黄色い物体が、器用なバランスで直立している。
閉じられた貝殻の中では、五十鈴の皮膚にパワードスーツのような外殻が付着、積層しているのだろう。
「何だカレイ? いかにも怪しいものが第二ヒーローの傍にあるぞ」
「……これはッ。離れなさいザリ。怪人フラットマン!」
不用心に近づいた怪人フラットマンが、広い体を地面から浮かせている。
その無防備な腹へと……厳ついガントレットの拳が炸裂した。貝殻を破り、変身中にも関わらず攻撃を加えた結果だ。
「グふぇェェ?!」
怪人フラットマンはノックダウンとなり、ひっくり返って泡を吹いている。
その間に、スケーリーフットへと変身を終えた五十鈴が貝殻を破って登場する。
「スケーリーフット参上。第二ヒーローに代わり、エヴォルン・コールの怪人を成敗する!」




