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VS.失敗確定の脱出

 前に倒れ込むようにしてエレベーターへと搭乗する。

 中で待っていたゲストによりボタンが即座に押されて、扉が閉まった。怪人の追撃はなく、無事に地上への上昇が開始する。


「はぁ、はぁ、けふぉっ」

「大丈夫ですか、第二ヒーローさん」

「戦闘服には、けふぉ、衝撃吸収機能も、ある。大丈夫じゃない、はぁ、かな?」

「外から見る限り即時入院なのですが、さあ、立ち上がってください。まだ、パークから脱出できた訳ではありませんよ」


 そうだ。介抱してくれている女の言う通り、まだ終わった訳ではない。むしろ、これからが本番である。

 現在位置はノー・トラスト・キャッスルの地下だ。テーマパークの中心地点にあるため、外から一番遠い。この容体でゲストの護衛をしながら外へと脱出する。厳しいミッションとなるだろう。

 壁にもたれかかって体力消費を抑える。


「仕方のない人ですね。護符をつけてあげますから」


 女に肩をさすられると急速に呼吸が楽になっていく。

 医療効果はあるはずもない。気持ちの問題だと思うが、その優しさがありがたい。ただし、体に触れたくないからなのか、紙を一枚(はさ)んでいるのはいただけない。


「精神以外は楽になった。ありがとう」

「……おかしいですね。治癒効果もありますが、精神麻薬的な作用が一番強いはずなのですが」


 名前も知らない女であるが、地下からお世話になりっきりである。


「京極撫子(なでしこ)ですよ」

「ん?」

「私の名前は撫子です。ここを乗り切れなければ名前の教え損なので、がんばってくださいね」


 よく分からないが京極に激励されたらしい。応援されたからにはがんばってみるが。

 地上での戦いに備えて、半壊した仮面の視界を確保する。

 壁にぶつけられた右側部分の損傷が激しく、バイザー部分が粉々でほぼ見えない。どうにかならないものかといじっていると、フレームごと取れてしまった。右目の部分が丸見えだ。

 室内に光が差し込んでくる。地上の光である。

 地上とは連絡がつかず、どういう状態になっているのかは分からない。怪人共も万単位の人間を混乱させる程に事を大きくしているとは思えないので、何も知らないゲスト達が暢気のんきに行き交っているのだろう、と予想していた――。




「――怪人が、怪人がニボシを無理やり口に!? やめろォォ」


「――私の娘を知りませんか! 娘を知りませんか! あっ、娘が怪人に肩車されて迷子センターに連れていかれているわッ。飴までもらってしまって」


「――何時間並んだと思っているんだ。俺はこの列からどかないぞ! 捕まるにしろ、最後にこのアトラクションを楽しんでから、う、うわァ、離せェ!」


「――どうして、スケーリーフットは来ないんだッ。怪人アプリにも繋がらないのはおかしいだろ!?」


「――ヒーローっ! ヒーローはどこッ!!」




 ――酷い有様だ。

 たった数十分、地下にいただけだというのに、地上は地獄絵図である。

 アトラクションからは次々と怪人ニボシが現れている。もはや、悪の秘密結社と大都会ディスイズニーランドの関わりを隠すつもりがないらしい。逃げるゲストを確保して、メリーゴーランドやコーヒーカップやロデオマシンに乗せると連続的な乗車を強要している。


『――第二ヒーローっ! よかった、ようやく繋がった』


 骨伝導で眼鏡先輩からの通話が入る。地上に出て電波が通じたのか。

 先輩は無事だったらしいが、そうなると春都はきっと……良い親友だったのに。


『俺を勝手に亡き者にするな!』

『隠れている僕達はまだ無事だけど、この分だと時間の問題だね。各所から怪人が現れてゲストの捕縛を開始している。出口は閉鎖されていて、逃げ場がない状況だ』

「外への救助要請は?」

『何らかの手段により妨害されてしまっている。少なくとも携帯は繋がらない』


 周りに怪人がウヨウヨしているからだろう。地下から先に逃げていたはずのゲスト達はエレベーターの付近でたたずんだままだった。

 俺と一緒に地下から脱出を果たした人達も、外の状況を目撃した後、地面に膝をついてなげき始める。

 そんな力なき一般人のおびえた視線が、第二ヒーローである俺へと集中する。

 わらすがるような目付きで、藁に縋るしかない状況に絶望しながら、仕方なく俺に期待を寄せる。


「……スケーリーフットは到着していないのですか?」

『スケーリーフットは到着していない。彼が出現するまでの平均時間から考えると、期待はできないかもしれない』


 本物のヒーローがいないから、代用品の第二ヒーローへと救いを求めている。

 見て分かる傷を負った俺に、でもヒーローだからまだ戦えるよね、と無責任な責任を負わせて助かろうとするゲスト達。それが悪いとは言わない。彼等にはそれしか手段がないのだ。

 一方で、期待される側の第二ヒーローにも選べる手段はない。

 外へと彼等を誘導している最中で怪人に包囲されて、身動きが取れなくなり、そこで倒される。そんな未来しか第二ヒーローは選べないのだ。外からの救援がないので籠城は不可。二十人全員でどこかに潜伏するのも現実的ではない。

 失敗すると分かっていても、脱出するしかない。

 やはり、怪人スキンヘッドの怪人技はまだ効いているらしい。俺に幸運は訪れてくれない。


「エレベーターの扉が閉まらないように、誰か荷物を!」


 結末が予想できていても最善はくす。地下から怪人が上がってこないようにエレベーターを封じた。


「二人とも。俺はこれから助けたゲストを連れて強行脱出を試みます」

『無茶だ、第二ヒーローッ』

『……出口のあるタウンエリアは怪人が多く配置されていると思う。シーエリアは海に隣接しているから脱出には不向きだ。フォレストエリアに向かうのが最善だよ』

『先輩っ?!』

『低い確率でも、諦めちゃ駄目だ。荷物になる僕達は放置してくれて構わない。皆を救ってくれ、第二ヒーロー!』


 先輩の許しも得た。

 俺はゲスト達を先導するために、フォレストエリアに続く道へと顔を出す。

 近場に家族連れを追う怪人ニボシがいたので、足を引っ掛けて転倒させる。ぽい捨てはマナー違反のため、倒れた怪人の足を掴んで頭からゴミ箱に突っ込んでおいた。



「第二ヒーローが道を作る! こっちだ!!」



 地下で助けた二十人にプラスして、今助けた家族連れも後方に連れる。多少増えたところで結果が変わらないのだから関係ない。

 俺は邪魔な怪人を倒すついでに人々を救出しながら、フォレストエリアを目指す。





 五十鈴いすず響子は苦悩していた。


「キョーコ!? 怪人が、怪人がァっ」

「モモ。腕を離してって。ちょっとっ!」


 突然、園内各所にき出てきた怪人共を倒すべくスケーリーフットに変身しなければならないというのに、親友の百井ももい直美に邪魔されてしまっている。

 五十鈴の怪力をもってすれば百井の手を離すのは容易だ。が、それはつまり、百井を見捨てる行為となってしまう。それは親友としてはありえない。

 しかし、百井を優先して変身を行わない事は、周囲の人々を見捨てる事に繋がってしまう。実際、百井を連れて逃げている中、怪人に襲われている他人から目をらした場面が数度あった。それはヒーローとしてはありえない。

 どう動いてもありえないのだから、五十鈴は苦悩を続ける。


「モモ。お願いだから、少しの間、離して。逃げ道を探してくるだけだから」

「いやっ! 去年はそうやってキョーコだけ一人、どこかに連れていかれたのよ! もう絶対に離さない!!」


 どちらにせよ、意固地な百井は絶対に五十鈴を離してくれないだろう。

 とならば、五十鈴が可能な方法は一つ。このまま百井の目前で変身して、スケーリーフットとなる事だ。

 親友に自分が怪人であると見せつければ変身でき、怪人嫌いの親友の手も自然に離れていく。一石二鳥の手段である。

 五十鈴が真のヒーローならば採用しないはずがない方法だ。

 ……だというのに、五十鈴は長く迷い続けて決断できていない。


「後ろに怪人がッ。キョーコを連れて行かないで」

「迷っていられない! モモ、ごめん――」


 迷っている時間が長過ぎたために、怪人ニボシに発見されて襲われる二人。

 外的脅威によって覚悟を決めるしかなかった五十鈴であるが、彼女が体から殻を生やす寸前に状況が更に変化する。


「ボシぃっ?!」


 二人に襲いかかろうとしていた怪人ニボシの体が、横から殴り飛ばされていく。直線上にあった街路樹へとぶつかって動かなくなった。

 驚く五十鈴の視線の先に立っていたのは、痛々しい姿の誰か。

 五十鈴はその人物の名前を、姿と状況から連想できずに声を詰まらす。知っているのに分からず困っていると、隣の百井が先に名前を言う。



「第二ヒーロー、様?」

「えっ?」



 五十鈴が分からなかったのも無理がなかった。

 第二ヒーローの特徴を示す戦闘服は強化により意匠が変化した後、度重なる戦闘で損傷している。仮面についてはボコボコで原型を留めておらず、血に濡れた右目が見えていた。そんな状態の第二ヒーローを直観的に言い当てた百井の方が異常である。

 第二ヒーローと判明した後でも、五十鈴はに落ちていない様子だが。第二ヒーローの右目を見て、誰かの目に似ている気がしているのに分からない。


「第二ヒーロー様。大丈夫なのですか!?」

「第二ヒーローが戦っていた? 私よりも先に怪人を発見して??」


 ボロ切れ同然の第二ヒーローは、五十鈴の前に現れるまでの間に多くの戦闘をこなしたのだろう。彼の後ろにいる助けたゲスト四十名がそれを証明している。

 五十鈴の顔を見た第二ヒーローの右目は、興味なさげに前を向いた。五十鈴を知らないはずの第二ヒーローであるのならば当然の反応だろう。


「待って、第二ヒーロー。そんな体では無茶よ」

「…………知って、いる」


 あるいは、人と話している余裕がもう残されていないのか。

 第二ヒーローと救出されたゲスト達はフォレストエリアの端を目指しているようだ。五十鈴と百井も列に合流する。

 五十鈴は第二ヒーローに、その傷で、しかも多人数を連れての脱出は無謀だと伝えたかった。が、肩で息をしている背中は声をかけただけでも倒れてしまいそうで躊躇ためらわれる。そもそも、彼の代わりに人々を救える力を有するのに、力を隠したままの卑怯者に何が言えただろう。

 第二ヒーローに付き添うゲスト達にしても、今更、否定的な意見は聞きたくはないはずだ。

 たとえ、道の向こう側で怪人が待ち構えていたとしても、今知りたいとは思わないはずだ。



「――ここまでザリ。第二ヒーロー」



 ザリガニ型怪人、怪人ホロカアムシペは多数の怪人ニボシを率いて、第二ヒーローを待っていた。

 怪人の後ろには夢の国と現実との境界線たる城壁が高く連なっている。外まで残りわずかだと思われるが、実際の距離に反して外は果てしなく遠い。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃんと迷子の娘を迷子センターに連れていくあたり、憎めない怪人は憎めないんだよなあ。
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