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VS.敵アジト



「…………見損ないました」



 怪人ミノム氏を撃破した後の事。

 救出された人々と警察関係者で混雑するエントランスホールにて、偶発的に再会した五十鈴いすず響子は、一言だけ言い放って俺から離れていった。平手かバックブリーカーの一つは覚悟していたのに、随分とい対応だ。絶縁宣言そのものと言ってよい。


「モモ、帰りましょう」

「でも、近くに第二ヒーロー様が残っているかも」

「帰るからっ」

「せめてサインだけでも。キョーコのいけずぅ」


 百井が無事だったのは、五十鈴の視点から見れば結果論に過ぎない。百井を助けたのは第二ヒーローであり、五十鈴の邪魔をしたのは大学生の二郎である。しかも、俺と第二ヒーローが同一人物であると話したところでマッチポンプにしかならない。

 まあ、妙な縁で遭遇していただけの女性である。ふとした出来事で、縁が切れてしまう事もあるだろう。

 怪人に勝った晴れやかな気持ちが、深い溜息によって体外へと排出されてしまった。

 疲れが一気に精神を襲う。電車やバスで帰るのが面倒になったので、スマートフォンで眼鏡先輩に迎えを頼む。



「すみません、眼鏡先輩。迎えをお願いできますか? 荷台に余裕がある車でお願いします。それと、帰りは大学への直行ではなく、電磁波を遮断できるシールドルームがいいのですが」




 眼鏡先輩の伝手を使い、やってきたのは電波を通さない特殊な施工が行われた部屋、シールドルームである。電波を遮断するという事は、携帯電話やタブレットの無線通信が外とできなくなる部屋だ。

 医療分野や機密情報管理が主な利用用途だが、ソファーを持ち込んで調査するのはイレギュラーな利用法だろう。


「タブレットの中に、悪の秘密結社に繋がりそうな手掛かりはなさそうだね」

「期待は薄かったですが、やはりありませんか」

「機材はすべて既製品かな。ソファーの数が百を超えていたとなると、大量に入手していた事になる。警察なら入手ルートから調査できるかもしれないけど、僕達にはこれが限界さ」


 眼鏡先輩と一緒に調査しているのは、怪人ミノム氏が用意したソファーである。

 警察に証拠品として回収されるよりも先に、俺が入っていた白い大型ソファーを持ち出したのだ。他のソファーよりも高級な分、悪の秘密結社に繋がる証拠が隠されていないかと期待した結果、無駄骨だったと分かる。

 三時間ほど続けて調査していたので疲れた。

 ソファーの上……ではなく、中に入って疲れを取る。露天風呂に入っているように癒されるなぁ。


「先輩もどうです。ソファーの中から出たくない症候群にかかりますが、五分で五時間分の睡眠が得られますよ」

「僕は遠慮しておくかな」

「大学に持って帰りたい居心地ですよ。ふう、外の世界に出たくない」

「残念だけど。電子機器にウィルスやバックドアが仕込まれている危険が高い。諦めるしかないかな」

「ソファーの革は戦闘服と同じ素材らしいですが」

「……サンプルとして革だけ切って持って帰ろう」


 蜻蛉切ドラゴン・スレイヤーをいつのまにか装備して、眼鏡先輩はソファーの解体を開始した。眼鏡の透過度を低下させてザクザク切っている。止めてくれ、ソファーの中に入れば、女と離れ離れになる事も、女に見損なわれる事もないのだから。止めてくれ。

 眼鏡先輩は容赦なく革を切っていき、ふと、手を止める。



「――これは、宅配便の送り状?」



 怪人ミノム氏はソファーを出荷しようとしていたから、その送り先を書いた紙が張りついていたのかな。


「先輩、送り先はどこのホテルですか?」

「この住所は……踊浜。えっ、ディスイズニーホテル?」


 注意。〇ィズニーではありません。ディスイズニーです。

 眼鏡先輩が口にしたホテルは、日本で最も有名なテーマパークに隣接するホテルだ。




 大学の研究室へと帰還して、春都を含めた第二ヒーローチームのフルメンバーでソファーの送り先について議論する。


「踊浜にある大都会ディスイズニーランドは、言わずと知れた大型テーマパークです。年間来場者数は三千万人を超える。一日あたりの売り上げは平均十億以上。経営会社のオリエントランドルの株価は一万五千円に達します」


 春都が基本的な情報について説明を開始する。ネットで調べただけの情報でしかないが、これはネットの情報量が豊富なだけであり、春都が楽をしている訳ではない。

 俺は記憶の中にあるディスイズニーランドを思い出しながら話を聞いていた。


『幼馴染:懐かしい思い出ねぇ』


 かつて、小学生だった頃に家族旅行で行った事がある。幼馴染の家族と合同旅行だったので幼馴染の奴もいた。広い園内を歩き回り、足が痛くなった癖にアトラクションを回りたいと言う幼馴染に肩を貸していた覚えがある。

 ぼうーと過去の思い出に浸っていると――、



「――大都会ディズイズニーランドは、大都会にないので怪人被害はありません」



 ――衝撃的な事実が聞こえてきた。


「えっ、春都。大都会ディスイズニーランドって名前なのに、大都会にないの?」

「あるのは万葉県だ。大都会にはない」

「え、嘘。えっ? 大都会駅から在来線で行けるよ?」

「二郎の田舎からでも、時間を無視すれば在来線を乗り継いで到着するだろうに。立地に驚くぐらいなら、怪人被害がない事にも驚けよ」


 混乱している俺を更に混乱させたのは、大都会の隣県では怪人事件が発生していない事実だ。


「県境を律儀に守る理由は分からないけど。前例がないのは確かだ」

「春都の言う通りなら、大都会ディスイズニーランドは白か。ソファーの送り先だから悪の秘密結社と関係があると思っていたのに」

「送り状は、手がかりとしては十分だと思う。他に手がかりがないのなら、調査に向かうべきだと僕は思う」


 眼鏡先輩は前例に惑わされず、今ある情報を信じて調査するべきだと主張した。

 現状、怪人を闇雲に探しても――偶然、接触できたとしても――進展がないのだ。ならば、悪の秘密結社に対して先制できるかもしれない好機を、見逃す事はない。

 チームは全会一致で、ディスイズニーランドを悪の秘密結社のアジトと仮定し、調査を決定した。

 掴んだ尻尾がすっぽ抜ける前に行動したいところだ。兵は拙速を尊ぶ。時間をかければソファーを大量押収した警察も同じ考えにいたって行動し、それを察知したエヴォルン・コールが夜逃げしてしまうかもしれない。

 だが、眼鏡先輩は用心すべきだと俺に警告する。


「問題は場所だね。バックヤードがすべて秘密結社に接収されて拠点化していた場合には、敷地面積は広大になる」

「アトラクションを巡るだけでも三日、四日で不足しますからね」

「それだけ広ければ、戦闘員の数も相応になる。……いや、戦闘員だけではないかもしれない」


 眼鏡先輩の懸念は敵の戦力だ。

 アジトとなれば、これまでと異なり複数体の怪人が同時に出現する可能性が高い。かつてない危険度だ。一体でも対抗困難な怪人が数体現れれば、今の第二ヒーローの敗北は必定である。


「……第二ヒーローの強化を急ぐよ。二週間、いや、一週間だけ待って欲しい」


 徹夜を覚悟した最速の期間を指定してくれたのだと思う。それでも遅い、と思うのは俺の我儘わがままでしかない。眼鏡先輩は最速で俺に戦う力を与えてくれようとしている。おとなしく待機する他ない。


「二郎。待機なんて言っていられる立場だと思うのか?」


 ふと、春都が俺を非難してきた。もちろん、俺も眼鏡先輩の手伝いはするつもりだぞ。研究室の縁側でのんびりとお茶を飲んで待っているつもりはない。



「違う、違う。二郎には、一週間以内にディスイズニーランドのチケットを用意する使命がある。夏休みが始まっているから、想像以上に大変だぞ」



 ……ちょっと、確認させてくれ。遊園地のチケットって、当日に買えるものじゃないのか。





 ――某所――


 雨が激しい夜だった。

 突然、勢力を増した低気圧により、星空は分厚い雲に覆い隠された。夏場の夕立がかなりの時間違いで発生したのだろう。

 湿度は高まったものの気温は下がる。夏本番の八月直前にしては妙に肌寒い夜となっていく。うすら寒いぐらいだ。

 こんなあやしげな夜は早々に眠ってしまうに限るのだが……広い畳部屋の中央で、正座を続ける女がいる。



「――――やっと、来てくれましたか」



 大人びた声質、というのは誤りだろう。今年の春に高校を卒業した女は十八歳。未成年ではあるものの、選挙権を有するぐらいには子供を脱している。

 平均に達しない背の低さが、彼女を実年齢よりも若く見せてしまうのかもしれない。


「大都会政府は既に陥落していますから、家系的にうちを頼るのは時間の問題でしたが。それにしても待たせ過ぎです。現人類が追い込まれるまでヒーローを選定しないなんて、公平性に欠けるのではないでしょうか?」


 畳部屋に響くのは雨音と女の声のみ。

 当然である。室内には女以外に人がいないのだから、聞こえてくるのは独り言となってしまう。

 まあ、女が誰かが背中側に立っていると思い違いをしてしまうのは仕方がない。部屋の電灯は消されたままで暗過ぎる。何か気配がしたと思って喋り出すのは、こっ恥ずかしくとも、勘違いは誰もが経験するもの。

 あるいは、女は瞼を閉じたまま喋っているので、寝言の可能性も残されている。



「――オ前を、現人類のヒーローに任命すル」

「――つつしんでお引き受けいたします。タイプOR」



 この畳部屋の状況自体が夢なのかもしれない。

 目を閉じた女以外に誰もいないはずの部屋に、いつの間にか、黒い何者かが立っていたのだ。


「……タだし、条件があル」

「お聞きいたしましょう」

「大都会へ向かえ。踊浜にあるテーマパークに行け。近く、大規模な事件が起きる。介入せヨ」

「現人類は劣勢と言いました。混沌極まる大都会に手を出すつもりは、うちにないのですが」

「テーマパークに現れるヒーローを援護せヨ」

「謹んで拒否します。そもそも、現人類のヒーローとなったうちが、スケーリーフットを助けなければならない理由が――」


 黒い何者かは、姿形さえも分からない。部屋が暗い所為もあってシルエットもぼんやりとしてしまっている。

 しかし、どうかすんで見えても、それは人間ではない。動物とも言い難い。

 では何なのかというと……不明としか言いようがない。地球生命から逸脱いつだつした何かというのが正しい感想となるだろう。



「――違う。第二ヒーローを援護し、守れ。それが絶対条件ダ」

「……はぁ、第二ヒーローを?? それはどういう――」



 この場で聞くとは思っていなかった第二ヒーローという単語に、思わず女は振り返り、真意を問いただそうとしたのだが……黒い何者かはもういない。現れた時のように突然消え去っている。

 頬に手を当てながら女は、軽く息を吐く。


「勝手な存在でした。言い伝えからの印象とは異なり、妙に俗世的でした。何故、超越的な存在が第二ヒーローに関心を? 分かりません」


 女は不満げではあるが、しぶしぶと立ち上がる。深夜だというのに遠慮なく手を叩いて――激しい雨がぱったりとんでいたので遠くまで響く――ひかえている女中を呼び寄せる。


「条件とあれば仕方がありません。大都会に向かいましょう」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。 [気になる点] 幼馴染み、一体何者なのか [一言] this is knee?これは膝
[良い点] このサクサク感 [気になる点] 幼馴染ほんとに存在してるのか…? [一言] 秘密結社って大体戦力の逐次投入してくるよね
[良い点] 二郎にがっつりダメージが入っているところ。 爆笑しました。二郎ゴメン。 この空虚感や脱力感を埋めるべく次の怪人をイケニエに捧げよう!
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