VS.怪人ミノム氏 2
片腕のないガルドムが女大学生入りのソファーを掲げながら、黄色いパワードスーツのヒーローと対峙している。
「きゃあぁ、高いっ。助けてェぇぇ」
『スケーリーフット。引き籠りは正義なのだミノ。個人がっ! 人類や社会の効率性や生産性など考える必要はない! 生きているだけで人とは素晴らしいと。この考えに賛同した最新鋭の同志こそ、この産声を上げるソファーである!』
「きゃあああ、いやあああァァ」
「モ――ッ。い、いや、やや強引な性格にやや迷惑していそうな友人がいる女学生が、ソファーから顔を出している! どう見ても嫌々だ。何が同志だ!」
言葉にするとカオス度の高さが窺える。もはや、大都会に正常性は欠片も残っていないな。チマチマと理解していると状況についていけなくなるので、あるがままを受け入れる他ない。
「いやぁァァ、きゃあああ」
『憐れなヒーロー。この女こそが、今回ソファーに収容した人間の中で最も高い引き籠りオーラを示した。このガルドムに備わっている引き籠りミュが反応した。怪人ソファー女となる資格は十分にある』
「ぎゃあああ、アアアアアっ?!」
「まったく同意を取れていない。それでは人質だ! 怪人恐怖症になるぐらいには怪人に捕まる事の多い不幸な女だからと言って、人質にしていいと思ったのか」
『人質とは人聞きの悪いミノ。さあ、怪人ソファー女。無改造とはいえ素質は十分。一緒に戦うのだ』
「助けてェッ。助けてェッ」
怪人ソファー女は無改造である。
ソファーを掲げている所為で、ガルドムは腕による攻撃手段を失った。確実に戦闘力は下がっているのだが、戦局は膠着してしまう。
スケーリーフットは攻撃を躊躇して動かない。ソファーの現在高度、十五メートルというとビル五階の高さに匹敵する。落ちれば百井の命が危ないので、怪人が操るガルドムを攻撃できないのだ。どうにも、陣営間で敵と味方のコンセンサスが取れていない。
ヒーローが動けない以上、第二ヒーローごときが手を出せる状況ではないと思う。
だが――、
「――――必ず、助けるぞ」
――俺は、この状況を見過ごせない。
正直に言うと百井個人についてはどうでもよい。が、超常識的な力を有する者同士の争いに巻き込まれる一般人が犠牲になる。その状況だけは絶対に許容できない。
決意は固い。が、救出手段は限られる。
実質、人質状態となっている百井を助けるには、怪人ミノム氏をコックピットから引き摺り出す必要があるだろう。アンバランスな二足歩行機動兵器が動くたび、ゆらゆらと揺れて心臓に悪い。操縦を止めさせるのが最優先だ。
『たった一人しかいないヒーローが、団結して戦う怪人に勝てると思ったか』
「いやぁぁあ、降ろしてぇぇぇ!」
「くっ、モモが邪魔で……いや、人質が心配で手を出せない」
ただ、胸部装甲の内側にいる怪人を外に出させるには、かなりの頓智が求められる。
俺の優位性といえば、まだ怪人に発見されていない事ぐらいなものだ。とはいえ、手持ちの装備では奇襲したところで成果は得られない。姿を隠している意味はない。
ならば、と俺は建物から外に出て、堂々と姿を現す。
「――怪人! ヒーローは一人ではない。大都会にヒーローは二人いる!」
ヒーローとガルドムの両方からバイザーを向けられた。第二ヒーローが突然現れたのならば当然の反応だ。
「お前はっ……誰だ?」
『戦闘服とゴテゴテした仮面。誰ミノ?』
「えーと、第二ヒーローです」
不審者としか思われていなかったらしい。
レッド・ドラゴンとは誰もいない場所で戦った。仮面を作ってから公然の場で戦うのは、今回が初めてだからね。仕方がない。
「第二ヒーローっ!? 今、お前に構っている暇はないというのに」
「そう邪険に扱うなよ、第一ヒーロー」
「第一をつけるな! 私はお前をヒーローと認めていない。大都会にヒーローは唯一、私しかいないのだ。それでいい」
「だが、俺ならばソファーの人質を助ける事ができる」
「なに??」
スケーリーフットとの会話も早々に、俺はガルドムの正面へ進み出る。
体の大きさは戦闘力と直結している。肝が冷えて仕方がないが、体の震えを無理やり抑えて巨人と向き合った。
「怪人! お前はソファーの中の女に仲間意識を抱いているようだが、知っているのか?」
『怪人ソファー女がどうしたミノ?』
「その女は合コンに出席した事があるのだぞ! 引き籠りだったお前に、それが許せるのか!!」
『ミッ、ノ!?』
働かない、教育を受けない人間は限りなく自由だ。
とはいえ、自由と全能はイコールの関係にない。社会との関係を断った人間には不可能な事柄がある。一人でもパーティーや鍋やカラオケは可能であるが、不可能な事がある。
それが、合コンだ。
『か、過去は気にしないミノ。エヴォルン・コールは前歴を気にしない組織。私も女の昔は気に、しない……』
「殊勝な怪人だな。褒めてもいい」
『何様のつもりミノ。第二ヒーロー!』
「……だが、ソファーの女を真の仲間と思っているのならば、過去を水に流すというのならば、お前はこう頼むべきだと思わないか? 人生初めての合コンに、連れていって欲しいと」
『ミッ、ノッ!?』
合コンはグループで行うものだ。たった一人の引き籠りでは開催できない。
三十年以上の間、引き籠り生活を続けた果てに怪人となった怪人ミノム氏には、経験がないと想像できた。ふ、俺でさえ経験しているというのに、可哀相な怪人である。
けれども、怪人には俺からの哀れみを回避する方法が残されている。
怪人となっても止められなかった引き籠り生活を終えて、コックピットから出て、ソファーの中にいる百井に合コン参加を頼むのである。
「ソファーの中の女を仲間と信じているのなら、合コンへの参加ぐらい軽く頼めるはずだ。それが出来ないというのならお前達は真の仲間ではない。地面に降ろせ」
『怪人ソファー女の引き籠りへの決意は本物だったミノ。仲間に違いない!』
「であるのならば、コックピットから出て合コンに参加できるはずだ。それができないのなら、お前の言葉はすべて嘘となる!」
『だ、だけども。ミノムシ怪人である私が外の世界に飛び出すなんて……』
「外界との接触を拒んだミノムシも、いつかは羽を広げて世界へと羽ばたく。今日がその日なんだと、気付くべきだ!」
『ッ!? そうだった。私はミノムシ。明日から本気出すの明日は、今日だったのか……』
コックピットの中で打ち震える怪人ミノム氏。彼の感情の揺れがガルドム全体に響いているのだろう。稼働音が聞こえてくる。
『そ、そこまで言われては仕方がない。第二ヒーローっ。私は、引き籠りを、止めるミノ!!』
原作同様、鳩尾付近の装甲板が開放した。
コックピットの出入口が出来上がり、中から姿を現したのはワーム系の体をした怪人だった。四半世紀を超える引き籠りが、今終わったのだ。
「さあ、人生初の合コンへと出かけるミ――」
「怪人が出てきたぞ。やれ、スケーリーフット!」
「ガジェット・パンチ!!」
「――ぐふぁぁあァッ!?」
外の空気に触れてコンマ五秒。
大量の空気を燃焼しながら飛んできたガントレットに頬を殴られて、コックピット席から落ちる怪人ミノム氏。頭から地面にぶつかって落下ダメージも加算されて致命傷を負ったのであった。
「外の世界は危険が一杯ミノ……。皆、手洗いうがいをしっかり。え、エヴォルン・コールに、栄光あれェェッ!!」
怪人ミノム氏は生体爆発を起こして消え去った。完全勝利である。
……だが、ここで一つ問題が発生する。爆発の余波がガルドムの足に伝わって、バランスを極度に失った。
振り子のごとく前後に揺れ動くガルドム。片腕を上げた状態で前のめりに倒れる程ではなかったものの、その手の中にいる人物にとっては失神ものの角度だったに違いない。
「ひぃぃあああぁぁぁァあああぁぁぁ――。はぅ……」
ソファーの中にいる百井は白目を剥いて、傾斜したソファーの中から落下していく。
「落ちるなッ」
「モモッ?!」
スケーリーフットはタイミングが悪い。飛ばしたガントレットのウィンチを巻き上げている最中で、動きが遅れていた。
よって、百井を助けるべく動けたのは、俺一人。
落下予測地点へと滑り込んで、落ちてきた百井をキャッチする。戦闘服が強化されていなければできなかった芸当だ。眼鏡先輩様々である。
お姫様抱っこした百井を軽く揺すって、意識を確かめる。
「大丈夫か?」
「……うぅ。――ハッ、はい」
「痛いところはないか? 怪我は?」
「どこも痛くはない、です。…………第二ヒーロー様」
駄目だ。百井の奴、頭を打って意識が朦朧としているのか受け答えが微妙だ。言葉尻もはっきりしていない。
ガルドムの傍は危険なので――実際、ソファーも遅れて落下して轟音を響かせた――百井を抱えたまま離れる。百井も協力的で、俺の肩をしっかりと握ってきてくれた。
程よい距離にあったベンチに百井を座らせて任務は完了である。怪人は討伐されて、人質は無事救出。
一つだけ残った問題はあるのだが。はたして、スケーリーフットの奴は俺の帰宅を許してくれるだろうか。
「第二ヒーローをヒーローとは認めない。今日の行動も詐欺師のものだった」
「だったら、どうする。ヒーロー?」
「………しかし、人を助けた事実は否定しない。今日のところは見逃そう。……モモを助けてくれてありがとうね」
背面バーニアをふかしてスケーリーフットは消えていく。
今日限定らしいが、本物のヒーローに俺の行動は認められたらしい。




