VS.怪人ホールベアー 2
「怪人現れるところ、ヒーロー現れる。怪人ホールベアー、お前は何を企んでいる?」
「ベア? どこからか声がっ」
「とうっ!」
堂々と名乗り上げながら隠れていた穴から跳び出す。
どうしてわざと目立っているかというと、大学生が消え、代わりに第二ヒーローが現れる状況に理由が必要となるのだ。大学生イコール第二ヒーローと関連付けられて、身バレする事だけは避けなければならない。
ホールベアーに指摘される前に状況をでっち上げる。
「怪人、憐れな男子大学生は俺が救出した。もう悪さはできないぞ」
「な、何だと!? お前があの一般市民ではないというのか!?」
「ふ、戦闘服を常備し、穴の中で早着替えする一般人がいると思うか?」
「確かに! では、お前は何者だ!?」
完璧な偽装によってホールベアーは俺の言葉を鵜呑みにした。後は、あまり名乗りたくないが両腕を斜め上に構えながら堂々と名乗る。
「俺の正体は、第二ヒーロー!! 大都会に現れた二人目のヒーローだっ!」
内心、どうしてこうなったと思いつつ怪人と相対する。
「だ、第二ヒーロー、だと。ベアぁあ。目出し帽? 顔を隠すのなら前と同じ物にしろ。判断し辛いではないか!」
「顔については今後善処する。それはそうと、逃がした大学生に通報を頼んでおいた。怪人ホールベアー。警察の御用となれ!」
ホールベアーは驚いていた。いきなり現れた第二ヒーローに驚き、初っ端から警察頼りの第二ヒーローに呆れていたのかもしれない。
「ベアベア、ベアァ」
いや、違う。独特な笑い方で分かり辛いが、ホールベアーは笑っている。
「第二ヒーロー。まさか捜す前に現れるとは、オレ様は何てついているんだ」
ホールベアーは腹を抱えながら盛大に笑った。
「俺を捜していた。どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。悪の秘密結社、エヴォルン・コールは第二ヒーローを敵と見なした。俺様には第二ヒーローの捜索が命じられていたのだ」
「え、マジで? 俺なんかをマークしたの、え?」
「さあて、こうも簡単に発見できてしまうと肩透かしにも程がある。少し遊んでやろうか」
ホールベアーの爪は地面を掘るのに特化しているが、地面だけしか掘れない訳ではない。人体だって抉り取れる。
近づいてきた巨体から、一歩、二歩と下がってしまう。
「俺は弱いぞッ、そんな爪でひっかいたら、死ぬぞ?!」
「ベアァ。ヒーローの癖に情けない奴め」
「警察が到着したら、お前の犯行だと一発で分かるぞ。死体に残った爪痕の形状から!」
「ベアァ。警察が怖くて怪人ができるか!」
大都会では誰もがインストールしているアプリ、怪人通報アプリでの通報は戦闘服に着替えた時点で済ませていた。そろそろ、付近で怪人警報が鳴り響いてもおかしくない頃だと思うのだが……どうにも遅い。
ホールベアーから目を逸らさずに、背中側に隠したスマートフォンの上で指を滑らせる。怪人通報アプリをタップしたというのに反応らしきものがない。
一瞬、目をスマートフォンに向けて気付く。液晶が光を失っている。落とした直後は動いていたのに今頃になって壊れたのか。
「生きて捕らえるように言われていたが、まあ、虫の息でも問題ない。くらえッ」
「く、来てみろ。ジビエにするぞ!」
視線を外した隙を突かれて、ホールベアーが突進してくる。
いくら敵が速いとはいえ、所詮はトラックと同じ。うん、怖いけれども目にも止まらない速さではない。
俺の立ち位置はホールベアーが掘った穴の傍だ。穴を堀代わりにして突進を食い止める。
「自分の穴に落ちたらどうだ」
「はっ、罠にもなっていないではないか」
怪人とて、自身が掘った穴に落ちる程に間抜けではない。突進力をそのままに穴の前でジャンプする。読み易い行動だ。
「予想通りッ」
俺は穴の中で掴み取っていた新鮮な砂を跳躍中のホールベアーの顔面に投げつける。同時に、大きく横っ跳びだ。
目潰しが効いてホールベアーが脇を通り抜けた。この隙に、公園の中を走り抜ける。
「ちゃちな真似をッ。クソ、目が痛いベア」
「あっちに水飲み場がありますので、良かったらどうぞ」
「馬鹿が、そんな誘導に引っかかるか!」
ホールベアーが毛深い腕で顔を拭いている内に水飲み場を経由し、ジャングルジムに辿り着く。幼少の頃を懐かしく思う暇なく、必死に頂上まで登り切る。
ホールベアーがアナグマの能力を得ている怪人だとすれば、アナグマと同じ弱点を抱えている可能性があった。
アナグマの弱点とは、高所である。木登りをしない動物なので、畑を荒らす時には塀を登るのではなく地面を掘って侵入してくる。
公園の境目たるフェンスまで到達できるのであればもちろん目指したが、流石に遠い。目潰しからもう復帰したホールベアーが、ジャングルジムに向かって突進してきている。
「逃げ場のないジャングルジムに登ったのがキサマの失策だ。ジャングルジムと運命を共にしろ!」
怪人の巨体がぶつかって、格子状に組まれた鉄の棒が折れ曲がっていく。
元々足場の悪い頂上が大きく傾斜する。一か八か、戦闘服のアシスト機能を信じて三メートル以上先にある木の枝へとジャンプした。足の腿の外側にバネが備わったかのような感触が伝わって、俺の体は公園の夜空へと舞い上がる。
「と、届いたぞっ」
枝に胸からぶつかって肺を圧縮させてしまったが、木には無事到達できた。
痛む胸を労わる暇なく、枝を伝って次の木へと跳んでいく。公園の外れまでもう少しだ。
「第二ヒーロー! 逃げの一手とは情けないぞ」
「うるさいっ。人間を凌駕している怪人と真正面から戦っていられるか。俺ごときでお前の相手になると思うなよ!」
「このホールベアー様を見下すとは、このッ」
「い、いや、逆の意味に捉えるなよ」
怒れる怪人から必死に逃げて、へっぴり腰になりながらフェンスを掴む。上を跨いで公園を出られたら、次は民家の駐車スペースのルーフを目指そう。
もちろん、ホールベアーが逃走を許してくれたらであるが。
怪人はその人間離れした怪力で公園に埋められているタイヤを引き抜いた。何のためかというと、当然、タイヤをフェンスの上にいる俺へと投げつけるためだ。
直撃しなくてもフェンスに当たれば大きく揺れる。手を離してしまう危険は大きい。地上に落下した時が俺の最期だ。
「ベアベア、くら――ッ!」
ホールベアーがタイヤの投擲態勢に入った時だった。
夜空をバーニアで飛び越えた人物が、着地地点にいたホールベアーを足蹴にしたのである。
「――スケーリーフット参上っ!」
「ベァ、ぐフェ!? いきなり蹴られて、これで退場なんて。エヴォルン・コールに、栄光あれェェッ!!」
ホールベアーが生体爆発を起こした。
煙が漂う中、駆動音を響かせながら現れるパワードスーツ姿の黄色いヒーロー。
「警戒ドローンに反応があって巡回してみれば、どうやら出向いて正解だったらしい。まさか怪人が現れていたとはな」
スケーリーフットのバイザー顔が、公園のフェンスにぶら下がっている俺を視認してくる。
怪人から逃げ惑ったあげく、本物のヒーローに助けられるだなんて俺は何て恥ずかしい人間なのだろう。
「……AI、体格を報道映像と比較……比較完了、一致率99パーセント。怪人だけではなく、お前までいたとは……。第二ヒーロー、お前の身柄を拘束する」
……今なんて言いました、このパワードスーツ野郎。
ゾワゾワと血流が退いていく感覚に吐気を覚えつつ、公園の内側を見渡す。
ヒーローの矛先を変えられる絶好の相手であるホールベアーはもう爆発四散してしまっている。少し前まで会話をしていた怪人がいなくなる大都会。ここはノルマンディーだったのだろうか。
「覚悟しろ、第二ヒーローッ」
「ば、ば、そんな馬鹿な!?」




