真夏の日の夕べ~学院生達の食事会(後編)
「天災や飢餓や流行病といった、人の力では
どうしようもない未知なる脅威が来る前に、
普段から、備えるという習慣を国中の皆が
身につけていれば、取り乱すことなく、心に
余裕を持って冷静に、その危機に皆で
立ち向かうことが出来るはずです。
悪政や内乱、戦争といった国がらみの脅威に
対しても結局は・・・、人と人との繋がりを
強固にすれば、神の物語から、身を守れるはずです。
物理的、または精神的に、人は自分が不安定な
状況でいるとき、それが満たされている他者の
存在を知ると、無意識的に妬んだり、僻んだり、
羨んだりしてしまう傾向が多く見られますが、
それは、きっと・・・、英雄が活躍する物語を
好む神が、自分の見たい物語の悪役に相応しい
人間にするために、心が弱っている人を狙って、
悪意を吹き込んでいるからに違いありません。
ですから、普段から人との話し合いを小まめにし、
お互いが誤解を持たぬように、心を開いて話し合い、
相手を尊重し、労り合えば・・・悪意は生まれない
はずだと、3つの国の首脳陣達は考え、この
8年間、協力し合ってきたのです。
幸い、三カ国は10年前位から、段々と仲が
良くなり、8年前には友好国と声明をあげて、
公言している関係ですから、もしも今後、
神が物語を望んでも、この三カ国では物語は
起きようがありませんし、
仮にも物語が始まったとしても、三カ国が協力関係であれば、
次に誰かが英雄に選ばれたとしても、恐れる必要はない。
神の情報の共有化が進んだ今、たった一人の人間が
神の見たい物語を見せる、孤独な闘いを強いられる
運命は回避が出来るようになったということです。
だから、もしも、ここにいる誰かが英雄になっても、
国中の皆が一緒に運命に立ち向かってくれるのだから、
何も心配なことはないのですよ」
エルゴールの説明で、やっと本当に安心出来た
一年生達は、先輩達に礼を言った後に、この後の
予定について、話を始めた。
彼等もエルゴール達も、今日の午後から、
林間学校の後半課程・・・山ごもり訓練のために
学院を出て行く予定となっていたので、イヴと
ピュア達に、先ほど暫しの別れの挨拶は済ませていた。
「僕らがイヴ達に次に会えるのは二学期だね」
「楽しみだね、林間学校のお土産は、何にしようかな?」
「・・・あのさ、ミグシスさんとジェレミーさん達、
なんだけどさ。・・・やっと今日、お互いが、待てから
解放されるねって、ボソッと言い合ってるのを俺、
聞いちゃったんだよね・・・」
「「「っ!?え?まさか、あれだけくっついてたのに、
・・・・・・まだだったの!」」」
学院生達は今日一番の驚愕に陥り、皆は顔を見合わせた。
ミグシスの重すぎる溺愛っぷりを見せつけられていた
彼等は、引きつった表情で、友であるイヴの身を・・・
心から案じた。
「俺達二学期にイヴに会えるのかな?あの黒狼
・・・自分の巣から番を出さないんじゃないか?」
「イヴ・・・二学期には、妊娠してたりして」
「「「・・・ハハハ、・・・ハハハ・・・」」」
彼等は乾いた笑い声を立てながら、
(((お土産、赤ん坊の産着やおしめの方がいいかも)))
と、考えてしまった。
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二組の新婚夫婦が、全てのことが終わり、安全になったので、
バーケックから出るように、との手紙を受け取り、ルナティーヌや
マクサルト達に別れを告げ、また6頭立ての馬車に乗り、
半月と少しかけて、学院に着いたのは、9月半ばを過ぎた頃だった。
9月の二週目に学院に着いていた彼等は、久しぶりの
友との再会を大いに喜び・・・イヴとピュアの美しさが
さらに磨かれていることに息を飲んだし、それぞれの夫達の
美しさにも・・・(不本意ながら)息を飲んだ。
ピュアは学院にいる理由が無くなったので、夏休みの間に
ジェレミーと相談し、学院を退学したことを学院生達に告げ、
イヴも夏休みの間に学院を退学したと後に続いて告げると、
学院生達は一斉に驚き、悲しげな表情を浮かべた。
「「・・・でもね、退学したけれど、実は・・・」」
そう言ってイヴとピュアは、「いたずらが過ぎてごめんね」と、
学院生達に謝った後、自分達は、これからも学院にいることを
打ち明けた。
ピュアは、ジェレミーと料理の店を持つという夢があったので、
その店の資金が貯めるまで、ジェレミーは学院の厨房で、
ピュアは授業助手と、ダンスと刺繍の先生として、学院で
働くことになったと告げた。
そしてイヴも、あれ以来、片頭痛にならなくなったので、
治験を外れたために、学院にいる理由が無くなってしまったが、
3月までは、平民クラスの友人達と一緒にいようと決めていたので、
一旦、学院を退学し、3月までの臨時の保健室の先生として、
同じく臨時の剣術指南の先生として働くことになったミグシスと
一緒に、3月までは学院に残ることになったと報告すると、
学院生達は、
「「「もう、驚かせすぎだよ、二人とも!」」」
と文句を言いつつも、これからもピュアやイヴ達と一緒に
いられることを、大泣きしながら喜んだ。
二組の夫婦が到着した週の休日に、皆は学院の食堂で
お茶会をすることにした。
そこでイヴやピュア達は、バーケックから、ここまでの
旅行の話をし、学院生達は林間学校の話や、イヴの弟達との
冒険ごっこの話、林間学校が終わって、学院に着くまでの
旅の間に聞いた、神の御業についての話・・・などを話した。
イヴ達は、神の御業を目にしていなかった者達と同じように、
神の御業を見たかったねと学院の友人達と羨む声を上げた。
神様が歌っていたという話に、イヴ達も学院生達も、
自分の耳で、それを聴いてみたかったと言い合い、
イヴは、その興奮のまま、ミグシスに言った。
「ちょうど私達が歌っている間に、外でも
神様が歌ってたのですね!それって、すごいです!
ね、ミグシスも、そう思うでしょう?」
ミグシスは蕩ける表情で、自分の腕の中にいる
・・・ミグシスはイヴを自分の膝の上に乗せていた
・・・最愛の妻の頬にキスを贈りながら、微笑んだ。
「きっと、イヴがあの時、とても可愛い演技をしていたから、
神様も喜んで、一緒に歌い出したんだよ」
ミグシスの言葉に、初々しい新妻のイヴは、ポッと
頬を染め、真っ赤な表情で、反論した。
「えっ!?そ、そんなことはないですよ!きっとミグシスが、
あんまりにも素敵すぎる演技をしてたからですよ!
ミグシスのミグ先生・・・本当にカッコよすぎでした・・・」
「イヴが、俺のことをカッコよいと思ってくれて、
俺、すごく嬉しいよ。イヴ、ありがとう、愛してるよ」
「ミグシスこそ、私をいつも可愛いと褒めてくれて、
私の方が嬉しいです。私も・・・ミグシスが大好きです」
見つめ合いだしたイヴとミグシスは、二人だけの世界に
突入してしまったので、学院生達はジト目になった。
学院生達は仕方なくピュア達と会話を続けようとしたが、
こちらも、
「ジェレミーが大好きよ」
「ピュア、僕も愛していますよ」
と、新婚夫婦特有の甘い雰囲気になっていたので、
学院生達はハァ~とため息をつき、二組の夫婦の
関心を引き戻そうと、とっておきの話をしようとして、
イヴ達に視線を戻すと、そこにはもう、
イヴとミグシスの姿はどこにもなかった。
「あれ・・・?二人は?」
「ああ、何だか、イヴが胸が気持ち悪いって・・・」
「「「ええっ!?それは大変だ!」」」
学院生達がざわめき、二人の行方を目で追うと、
すでにミグシスがイヴを横抱きにし、セロトーニが
いる保健室に向かっている所だった。
「どうしたんだろう?」
「また、頭痛による吐き気かな?心配だね・・・」
学院生達は心配しつつも、待っている間に、先ほど
話しかけた話をピュア達に先に話そうとし、ピュア達に
視線をやると、ピュアも口元を抑えて、顔色を悪くしていた
ので、ジェレミーがピュアを抱きかかえている所だった。
「え?ピュアちゃんも?どうしたんだろう?」
イヴに続いてピュアも体調が悪いと知り、今度は
皆で保健室に付き添った彼等が、二人の友人がそろって、
妊娠していると知り、雄叫びのような歓声を上げるのは、
その20分後で、スクイレルの大人達が大号泣して、
喜ぶのは、その2分15秒後のことだった。
一度、ここで完結の形を取りますが、また頭がモヤモヤしたら、投稿するかもしれません。




