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第ニ霊 超爆走☆時速100kmジェントルメン

東名高速・海老名付近。

午前三時十二分。


「いやいやいやいやいや待て待て待て待て!!!!」


灰野バクは絶叫しながらハンドルを握っていた。


ハイエースは爆走している。


しかも後輪が一個死んでいる。


火花が出ている。


「なんで走れてんのこの車ぁ!?」


後部座席で犬飼ネコが答える。


「孔雀さんがタイヤに護符貼った」


「護符で走るな!! 法律と物理を守れ!!」


DJ孔雀は護摩炉を抱えながらうなずいた。


「仏は道を選ばない」


「高速道路は選べ!!」


ナビが淡々と言う。


『車検満了マデ残リ十一日デス』


「知らねぇよ!!」


バクはアクセルを踏み込んだ。


第一話の除霊から二十分。


まだ全員アドレナリンが切れていない。


窓の外をトラックが流れていく。


東名の深夜特有の、妙に広い暗闇。


ネコがスマホを見ながら言った。


「で、時速百キロ爺だけど」


「ネーミングがもう嫌だ」


「追い抜くと老化するらしい」


「嫌すぎる」


「追い抜かれると若返るって」


「効果逆なの意味分かんねぇ」


孔雀が補足する。


「霊的には速度=時間だからな」


「なんで理解できんだよ毎回」


「つまり百キロを基準に時間流を奪ってるタイプだ」


「なんで理解できんだよ!!!!」


その瞬間。


ナビが警告音を鳴らした。


『前方三百メートル。霊速反応』


「霊速って何!?」


『時速百キロデ接近中』


バックミラー。


黒い軽トラ。


めちゃくちゃ古い。


荷台に大量の野菜。


運転席。


老爺。


白髪。


サングラス。


異様に真顔。


そして――


ピッタリ時速100km。


「うわ来た!!!!」


ネコがテンション上がる。


「えっめっちゃそれっぽい!!」


「喜ぶな!!」


軽トラは異様な安定感で並走してくる。


ブレない。


風の影響ゼロ。


完全に100km固定。


老爺がこちらを見る。


ニタァ……


「笑ったぁぁぁぁ!!!!」


すると突然。


バクの前髪が白くなった。


「え?」


「うわ」


ネコが指差す。


「老けてる老けてる」


「はぁ!?」


バックミラー。


目尻にシワ。


「ぎゃあああああ!!!!」


老爺がクラクションを鳴らす。


プァーーーーーーッ。


同時にハイエースの速度計が狂い始めた。


90。


110。


70。


140。


100。


100。


100。


「うわ速度固定される!!」


孔雀が立ち上がる。


「百キロ結界か」


「あるんだそんなの!?」


「初めて見た」


「知らねぇのかよ!!」


老爺の軽トラがスッと前へ出る。


追い抜かれた瞬間。


ネコが叫んだ。


「え、待って」


「何!?」


「肌めっちゃ調子いい」


「若返ってんじゃねぇか!!」


「やば。十代戻ったかも」


「戻るな!!」


すると孔雀まで驚く。


「……俺も腰痛消えた」


「効能みたいに言うな!!」


老爺、さらに加速。


だが100km。


なのに速い。


空間がおかしい。


周囲の車が次々老化していく。


トラック運転手の髪が白くなる。


バイク乗りの顔がシワだらけになる。


阿鼻叫喚。


「東名地獄絵図じゃねぇか!!」


ネコが笑い転げる。


「やば、あのベンツのおじさん急に定年間近みたいになった」


「笑うな!!」


ナビが言う。


『解析完了。時速百キロ爺ハ、かつて東名最速トラック運転手だった霊デス』


「最速なのに百キロ?」


『昭和当時ノ百キロハ超高速デシタ』


「スケールが古い!!」


孔雀が頷く。


「速度への執着だな」


「なるほど全然分からん」


「速さに取り残された霊だ」


老爺が再び笑う。


そして荷台から野菜を投げ始めた。


大根。


白菜。


かぼちゃ。


「攻撃方法が実家!!」


バゴォ!!


白菜直撃。


フロントガラスにヒビ。


「白菜ってこんな威力ある!?」


「霊野菜だからね〜」


「説明になってねぇ!!」


孔雀が数珠を構える。


「ネコ!! 呪具!!」


「はいよ〜」


ネコが後部座席から取り出したのは、


大量の芳香剤。


「なんで!?」


「ファブリーズ系は浄化属性強い」


「マジかよ!!」


孔雀、芳香剤を護摩炉へ投入。


車内がラベンダー地獄になる。


「くっさ!!!!」


「浄化だ」


「香害なんだよ!!」


老爺が怒る。


軽トラの速度上昇。


100kmなのに追いつけない。


意味不明。


ナビが警告。


『危険。周囲時間流崩壊』


周囲の景色が歪む。


看板が古くなったり新しくなったりする。


昭和の東名。


令和の東名。


高速道路の時間が混線していた。


「うわぁぁぁ景色バグってる!!」


すると突然。


バクの目の前に小学生時代の自分が見えた。


「え?」


ランドセル。


泣き顔。


『お前、将来なんも決まってないじゃん』


「やめろ!!!!」


老爺の能力。


速度に置いていかれた人生を見せる呪い。


ネコまで叫ぶ。


「うわ元カレ出た!! キッッッッツ!!」


孔雀も固まる。


「寺を継げって親父が……」


「みんな効いてんじゃねぇか!!」


老爺の軽トラ接近。


クラクション。


プァァァァァァッ!!


全員の髪が一瞬で白くなる。


「終わる終わる終わる!!」


その時。


バクが叫んだ。


「……あ?」


全員。


「?」


「待って」


バク、ニヤッと笑う。


「百キロしか出せないんだろコイツ」


孔雀が気づく。


「あー」


ネコも笑う。


「そういうこと?」


「じゃあ――」


バク、アクセル全開。


120。


130。


140。


「うおおおおおおおお!!!!」


老爺の顔が変わる。


初めて焦る。


軽トラ震動。


「速さに置いてかれんのはテメェだ!!!!」


追い抜き。


その瞬間。


老爺の軽トラが昭和の残像を撒き散らす。


演歌。


排ガス。


カセットテープ。


料金所のおっさん。


全部吹き飛ぶ。


老爺が絶叫。


『速すぎるぅぅぅぅぅ!!!!』


孔雀、読経。


「南無!!!!!!!!」


重低音炸裂。


ネコ、芳香剤乱射。


「浄化ラベンダーミストぉぉぉ!!!!」


「それ絶対別の攻撃だろ!!」


老爺、光になる。


そして消滅。


静寂。


ハイエースだけが東名を走る。


全員、沈黙。


バクがバックミラーを見る。


髪、元通り。


「……助かった?」


孔雀が座り込む。


「腰痛も戻った」


「戻るんかい」


ネコがスマホを見る。


「うわ。東名で急に若返ったって投稿バズってる」


「SNS時代の怪異ほんと嫌」


その時。


ナビが急に震えた。


『新着依頼デス』


「もう嫌だぁぁぁぁぁ!!!!」


『足柄サービスエリア』


「SA?」


『最後ノ食事ガ提供サレテイマス』


沈黙。


ネコ。


「……それ、絶対美味いやつじゃん」


「発想が終わってんだよ!!」


ナビ。


『食ベタ者ハ、生前ノ記憶ニ引キズリ込マレマス』


孔雀が護摩炉に火を入れる。


「メシ系怪異か。腹減ったな」


「食うな!!!!」


深夜の東名。


火花を散らすハイエースは、

そのまま足柄サービスエリアへ突っ込んでいった。

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