表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/2

序霊 深夜料金、未練込み

挿絵(By みてみん)

渋谷・宇田川町。

雑居ビル四階。


看板の電球が半分切れた事務所に、


『首都高祓魔急便』

――呪い、即日配送。


という文字が雑に貼られていた。


「……いや待って待って待って、それ絶対ヤバいやつじゃん」


灰野バクは机の上のETC車載器を指差した。


ETCは沈黙している。


だが五秒前。


確かにそいつは喋った。


『リヨウリョウキン……800エン……』


「ヤバくない? ETCって喋る!?」


「喋るだろ」


ソファで寝転がっていたDJ孔雀が言った。


「最近のは音声案内ついてるし」


「そういう意味じゃねぇよ!! 呪い方面の話!!」


孔雀は巨大ヘッドホンをずらしながらポテチを食う。


袈裟の上にパーカー。

首には異様にデカい数珠。

耳にはピアス。


僧侶というより違法DJ。


「つーかお前、除霊屋なのに毎回ビビりすぎなんだよ」


「俺は運転担当!! 霊担当じゃない!!」


「でも霊に好かれるじゃん」


「最悪なんだよその体質!!」


すると奥からギャハハという笑い声。


「ねぇ見て見て見てー」


犬飼ネコがスマホを掲げながら出てくる。


金髪メッシュ。ジャラジャラのネイル。異様に短いスカート。


「#800円チャレンジってもうトレンド入ってる〜」


「は?」


「ETCに800円って出た人、次のカーブで何か轢くって噂。動画めっちゃ上がってる」


「いや笑い事じゃねぇだろ」


「でも死体ないらしいよ?」


「それが怖ぇんだろ!!」


事務所の固定電話が鳴った。


全員止まる。


三人で見つめる。


電話が鳴る。


鳴る。


孔雀が言う。


「……出ろよ社長代理」


「なんで俺!?」


「ジャンケン最弱だから」


「そのルールやめろ!!」


バクは恐る恐る受話器を取った。


「……はい、首都高祓魔急便……」


『た、助けてください……!!』


男の悲鳴。


背後でクラクション。


エンジン音。


『湾岸線で……! また出たんです!!』


「800円?」


『見た瞬間、バックミラーに女が!!』


「うわ出た」


『今も後ろに乗って――』


ブツッ。


通話終了。


沈黙。


ネコが言う。


「行く?」


孔雀が立ち上がる。


「湾岸か。テンション上がってきたな」


「俺は下がってんだよ」


その瞬間。


机のETCが再び点灯した。


『リヨウリョウキン……800エン……』


「ぎゃああああああああ!!!!」


バク、椅子ごと転倒。


ネコ爆笑。


孔雀はETCを持ち上げる。


「ほー。かなり強いな。未練が電子決済化してる」


「なんで理解できんだよ!!」


するとETCがノイズ混じりに唸った。


『ハラエ……』


部屋の蛍光灯がバチバチ瞬く。


窓ガラスに女の顔。


「うわ来た来た来た来た!!」


ネコがスマホを向ける。


「待って盛れる角度どこ?」


「霊をインスタ感覚で撮るな!!」


女の顔が窓いっぱいに広がった瞬間。


孔雀が柏手。


パンッ!!


低音みたいな衝撃。


窓の顔が吹き飛ぶ。


「バク!! 車出せ!!」


「はいぃぃぃぃ!!!!」


地下駐車場。


改造ハイエース。


車体に雑な護符。


スピーカー大量搭載。


なぜか後輪だけ赤い。


バクが運転席へ飛び込む。


エンジン始動。


ブォンッ!!


ナビ画面が点灯した。


『オハヨウゴザイマス』


「うわ出た」


『本日ノ死亡予測ハ中ノ上デス』


「縁起悪ぃな!!」


このカーナビには地縛霊が憑いている。


数年前、事故車から回収された。


以来ずっと喋る。


ネコが後部座席へ滑り込む。


「呪具よーし、結界札よーし、非常用清め塩よーし、レッドブルよーし」


孔雀も乗り込む。


「護摩炉セット」


「車内で焚くなって言ったよな!?」


「走りながらじゃないと除霊できねぇだろ」


「煙出るんだよ!!」


アクセル全開。


ハイエースは渋谷の夜へ飛び出した。


首都高三号線。


深夜二時四十分。


「右入れ右!!」


「無理無理無理!!」


「霊が右車線行きたがってる!!」


「その情報信用したくねぇ!!」


バクはハンドルを切る。


ギリギリでトラックを抜く。


後部座席で孔雀がターンテーブルを回し始める。


ズゥン……!!


重低音。


「いや始めるの早ぇって!!」


「霊寄ってきた」


窓の外。


並走する黒い軽自動車。


運転席に誰もいない。


「うわぁぁぁぁ!!!!」


『並走霊デス』


「説明が軽い!!」


軽自動車の窓から白い手。


バクのハイエースへ伸びる。


ネコが後部座席から呪符を投げた。


「はい除菌シート感覚結界〜」


バシィ!!


霊の手、発火。


軽自動車が消える。


「お前そのノリで除霊すんなよ!?」


「ウケれば勝ちっしょ」


「この会社終わってんだよ!!」


すると前方。


ETCゲート。


赤い表示。


『800円』


全車線に表示されている。


「うわ最悪!!!!」


孔雀が笑った。


「デカいなァ!!」


ゲートの上に女が立っていた。


髪が長い。


全身びしょ濡れ。


そして大量のレシートを握っている。


『……払って……』


「うわなんか生々しい!!」


『返して……私の……800円……』


ナビが震える。


『危険。危険。未練残高過多』


ネコがスマホを見ながら叫ぶ。


「待って、この霊、旧料金改定の時に暴れてる!!」


「何?」


「昔、高速料金値上げでブチギレた人たちの怨念がネットミーム化して集合霊になったっぽい!」


「意味分かんねぇ!!」


孔雀が立ち上がった。


走行中。


シートベルトなし。


「バク。もっと踏め」


「え?」


「速度上げろ。ノイズで霊体ブレさせる」


「その理論マジ!?」


「知らん」


「知らんでやんな!!」


だがアクセルは踏む。


120。


130。


140。


窓の外で女が増殖する。


ガードレール。


標識。


非常電話。


全部に女。


『払って』


『800円』


『払って』


『払って』


『払って』


「うわぁぁぁ増えたぁぁぁ!!!!」


孔雀、読経開始。


「南無阿弥陀仏ゥゥゥゥゥ!!!!」


EDMリミックス。


ベース音圧。


護摩の炎。


車内がクラブみたいになる。


「前見えねぇ!!!!」


「浄化だ!!」


「火事なんだよ!!!!」


ネコが爆笑しながら後部座席で札を撒く。


ナビ絶叫。


『左前方ニ怨念集中!! アト三秒デ接触!!』


「なんでカウントダウンすんだよ!!」


すると女の巨大な顔がフロントガラスに張り付いた。


『払えぇぇぇぇぇぇ!!!!』


「いくらだよ!!」


『800円』


「安ぃぃぃぃ!!!!」


その瞬間。


ネコが叫んだ。


「待って!! 逆に払えばよくない!?」


沈黙。


全員、


「「「あ」」」


孔雀が言う。


「供養ってそういうことか」


「最初から言えよ!!」


ネコが電子マネー端末を取り出す。


「いけるいける!! 霊、キャッシュレス対応してる!!」


「現代怪異イヤすぎる!!」


ETCゲート接近。


女たち絶叫。


孔雀が重低音読経。


バクがアクセル全開。


ネコが端末を叩きつけた。


「全国民の払いたくなかった気持ち、まとめて決済ぃぃぃ!!!!」


ピッ。


静寂。


次の瞬間。


光。


無数のレシートが雪みたいに舞った。


女たちの顔が崩れる。


泣きながら笑う。


『……ありがとうございました……』


成仏。


ETC表示。


『精算済』


バクが叫ぶ。


「やったぁぁぁぁぁ!!!!」


だが直後。


ハイエース後輪爆発。


「うわぁぁぁぁぁ!!!!」


車体スピン。


全員絶叫。


ガードレール激突寸前。


ナビが言った。


『次ノ依頼ガ届イテイマス』


「今ぁぁぁぁぁ!?」


『東名高速。時速百キロ爺出現』


全員沈黙。


そして。


ネコ。


「行くっしょ」


孔雀。


「行くかァ」


バク。


「俺に拒否権ねぇの!?」


ハイエースは火花を散らしながら、

再び夜の高速道路へ消えていった。

Q「赤羽ミコ登場しなくね?」

A「はい。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ