第1話 ソロでの限界
長い一日が終わった。今日の狩りはなかなか歯ごたえがあったな。万年ソロの俺はパーティーを組むというのが苦手で、孤独を愛するという訳ではないんだが……どうにも俺が動いたほうが早いという場面ばかり。
たまに「こんな時魔導士がいたら」と考えることもあるが、いなければいないでどうにでもなる。まあいい加減人を頼ることを覚えなきゃいけない歳にも差し掛かってきてはいる、ソロでの限界が見えてきたという訳だ。
今日の二角熊3匹は味も良いし皮も高値で売れる、なによりあいつらは繁殖力も高く群れやすいのでまとめて討伐ができる上にそこそこ強い。だからこそ、そろそろソロでの肉体限界が近いと気づいた訳だ。
ただ今更B-クラスの俺がどこぞのパーティーに拾われるかと言えばなかなか厳しいところだ。中堅以上のパーティで両手剣、前衛職は余るほどいるし、前衛だからこそ真っ先に死んでいく。パーティーとしても捨て駒扱いが関の山だろう。臨時パーティーでは俺の独断専行はあまりよく思われないので俺の印象も良くないというのがある。
だったら、自分でパーティーを作っちまえばいいんじゃないか?クラスを相当落とすことになるけれど、最低クラスからパーティーを育てていけばいい具合に成長もするし、俺が楽になるかもしれない。
宿の1階に降り兎肉のステーキと野菜を注文しついでに珍しい冷えたエールをグイっと煽る。初めてきた町と宿だが正解だった。周りを見てみると細い冒険者やら太い冒険者やらが楽しそうに笑いあってる。ああ、いいな。俺もそう笑いたい時があるさ、ただ万年ソロなんで声のかけ方がわからない。
注文したステーキと野菜を食いながら思う、俺は今まで独りが長かったなと。自分が一番大事なのはそうだが、少し他人を頼ることを覚えておくべきだった。一人で充分強いというのが仇になるとは思わなかった。おかげで人へ声をかける方法が思い浮かばない。明日起きたらギルドで相談してみるか?臨時じゃなくて固定パーティーを見つけたいと。
この宿が提供する全ての口に入れるものが美味い。兎肉も血抜きがしっかりしてる、野菜もおそらく今日採れたものだろう、新鮮味がある。数年前に食った魚もまた食いたいな、ソロだとあちこち気楽に行けるのがいいんだけどな、海がここから少し遠くてつい山に行っちまう。しかしこの冷えたエールによく合う料理を出す宿だな、うまい料理と酒、そして笑顔溢れる冒険者たち。いい町なんだなここは。……ん?気配隠してカウンターにいるあれは、斥候か?だとしたら相当な手練れじゃないか……?周りはあの存在を見ても気にならないくらいの上手い気配の消し方だな。俺くらい独りが長くないとこの消えてる気配を察知できないぞ?試しに声をかけてみるか。
カウンターで一人俯きながらエールを煽ってるそいつに声をかけてみる、最初手が肝心だ、気を引き締めろ。
「よう、一人か?」
……見ればわかるだろといわんばかりの視線だ、失敗したなこりゃ。
「……ほっといてくれません?独りがお似合いなんですよ私は……」
少し酒に呑まれた感じだな、ヤケ酒か?
「奇遇だな、俺も独りなんだ。独り者同士、寂しく呑もうじゃねえか」
「あんたも物好きですね、こんな使えない斥候に声かけるだなんて」
「あんたの腕は確かじゃねえか、その証拠にここにいる冒険者誰にもあんたの存在を気付かれてない。いい仕事するじゃねえか」
「はっ、斥候おだてても奢りませんよ」
「むしろ奢らせてくれ、あんたのその気配の消し方は見事だ。その腕に乾杯だ、おーい、このお姉さんにエールを一杯出してくれ」
「本気ですか……?」
本気も本気だ、こいつおそらく放っておくと無銭飲食するだろう。カウンターにいながら従業員にすら気づかれないくらいの気配の消し方なんてそうそうできるもんじゃない。パーティーにいるならこういうのがいい。
「俺はケイン。両手剣のB-クラスだ、あんたは?」
「……さっきパーティークビになったしがない斥候ですよ」
「丁度いいな、俺は独りでいるのに飽きちまってパーティー組む奴を探し始めたところだ。クビってことはソロなんだろう?俺と組もうぜ。不遇職だとかそんなのは知ったこっちゃない、あんたの腕を見込んでの提案だ」
とっさに出てきたとは思えない口ぶりだ。表情は変えてないよな?
「……迷惑じゃ」
「迷惑とは思わない。むしろ斥候としてあんたは一流だ」
「……それでも」
「いや俺はあんたと組みたい。報酬は折半、どうだ?」
お互い目は笑ってない、逸らしてない。こちらは本気だし、相手も揺れているようだ。
「……いざってときに逃げるかもしれませんよ?」
「いざってときはむしろ逃げてくれ、あんた一人なら余裕で逃げ切れるだろう。その間に片付けるから問題ない、あんたは斥候として仕事をしてくれたら充分だ」
「……ニャーム。見ての通りほっそい役立たずな斥候ですよ」
「いいやニャームは一流の斥候だ。『無銭飲食しようとしてただろ?』」
小声で耳打ち、肩がビクッと跳ねたからやはりそうだったか。
「……敵わないなあ」
「今日の宿はあるか?」
「ありませんよ、そこらで寝るつもりでした。そういうことなんでしょう?」
「そういうことじゃねえ、部屋借りるから呑んで待っててくれ」
女だから声をかけたんじゃない、斥候として凄いと思ったから声をかけただけだという事を強調させなきゃな。




