表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢はデバッグしたい ~転生したら作りかけの乙女ゲームの悪役令嬢だったので、前世の知識で世界をデバッグすることにしました~  作者: 神楽坂らせん
第九章:学園の罠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/81

渡り廊下の告白

### 9-7 渡り廊下の告白


 翌朝、授業が始まる前の廊下でユリウスがミユキに声をかけてきた。


「ミユキ・フォン・ヴェルナー、少し時間をもらえるか。二人きりで話がしたい」


 ミユキは足を止める。


 朝の廊下には人の流れがある。授業の準備をしながら移動する生徒たち、友人同士の声、鞄の音。そんな中で?


「……べつにいいけれど。何の話?」


「昨日のことについて、だ」


 昨日、歪みが閉じた直後に一瞬だけ目が合ったときのことを思い出す。あの目の奥に何かがあった——という感触がまだ残っている。


「……人気のないところへ」


 ◇


 渡り廊下の端、朝の光が窓から差し込む場所。


 周囲を確認した。人影はない。廊下の両端も見えていて、誰かが来ればわかる。


 ミユキとユリウスが向かい合った。


 ユリウスは一呼吸の間、目を伏せた。


 それから顔を上げ、ミユキを正面から見る。目は逸らさない。


「俺は——オメガ=ℕ・ロジスティクスのスパイとして、この学園に送り込まれた」


 沈黙が、一瞬落ちる。


「——っ」


 ミユキが息を飲んだ。


「君を監視し、世界を不安定化するのが任務だった」ユリウスは続けた。「昨日の授業中の歪み——俺が設置した装置が起動したものだ。前日に設置を試みた際の、残留物が原因だ」


「あなたが……!」


 声が出かけた。ミユキは廊下の向こうを一度確認してから、声を低くした。


「……全部、あなたが?」


「そうだ」


「だが——聞いてほしい。俺は組織の命令にはもう従わないことにした。知っていることを全部話す」


 急な申し出に、ミユキは戸惑いを隠せなかった。だが、ユリウスの表情は真剣だった。嘘をついているようには見えない。


『昨日、クララをこの人が助けてくれた。でも、そもそもこの人が原因を作っていた? と?』


 息を一度、ゆっくり吐き出した。


「いったい、何が目的なの?」


「信じられないのはわかる。だが、あの子を、クララを害するように命令されたのだ。それは、俺にはできない……」


 苦悶するような表情を浮かべたユリウスを見て、ミユキは感情を飲み下すように、小さく顎を引いた。今はまず、彼の話を聞かなければならない。


 ◇


 ユリウスは、知る限りの情報を話した。


「オメガ=ℕ・ロジスティクスは、複数の異世界を意図的に不安定化し、最終的には崩壊させることを計画している」


「目的は転生市場の独占だそうだ。転生によって移動する魂の流通を支配するために——世界そのものを取引材料にしようとしている。崩壊した世界の「素材」を使って新しい世界を作り、転生者を送り込む市場を独占する。そういう計画と俺は聞いている」


 ミユキがセラフィエルから聞かされていた話と合致する。こんな情報を一般人が持っているはずはない。ユリウスは確かに組織の人間なのだろう。しかし、なぜ急に話すことにしたのか。なぜ、組織を裏切ることにしたのか。そこはまだわからない。


「具体的な全体図は、末端の工作員には知らされない。俺が知っているのは自分の担当範囲だけだ」


「それで、いったいなぜ急に話をする気になったんですか?」


 ユリウスは続ける。


「君は『実験体01』と分類されている。前世でのプログラマーとしての能力が、おそらく世界の構造を変革できると判断され、破壊者として機能させることを期待して、転生させたのだろう」


「私が……実験体」


 ミユキの声は平静だったが、握られた手が微かに白くなっていた。


「当初の計画では、君は転生によって世界を破壊するはずだった」ユリウスは続けた。「ところが君は歪みをデバッグして安定化させている。計画が狂っている——組織は、なぜそうなるのか理解できていない」


「それと、もう一つ情報がある」


 ユリウスが続ける。


「君の兄——志藤隼人についての話だ」


 ミユキが、小さく息を止めた。


「……兄さん?」


「オメガの諜報報告書に記録があった。彼は地球側で組織の情報を収集しながら単独行動している——クロノス神の支援を受けているという情報も、諜報部が追っている」


「近いうちに、この世界に干渉してくる可能性が高いと分類されていた」


 ミユキは、ゆっくりと息を吐いた。


 夢の中で見えた背中。銀色の装甲。「もう少しだ、待っていろ」という声。


「兄さんは……やっぱり私を探してくれているんだ」


 声が、わずかに震えた。


 泣かなかった。ただ、目の奥に静かな光が宿った。


 ◇


 しばらく沈黙が続いた。


 廊下の外で、遠くから生徒の声が響いた。笑い声。それが遠くなって、静かになった。


「ユリウス」


 ミユキが口を開いた。


「あなたを信じていい?」


「……信じてくれとは、言いづらい立場だ」


 ユリウスは認めた。


「俺は本当につい昨日まで組織の工作員だった。君に嘘をついていた。装置の件では——君の友人を危険にさらした」


「でも、俺には嘘をつく理由がもうない。組織に戻るつもりがない以上、情報を隠す意味もない」


「昨日、クララを助けてくれたこと」ミユキが言った。「あれは、こちらを信用させるための演技ではないと?」


 間があった。


「……昔、守れなかった子がいた」


 ユリウスは、そう言った。


「妹みたいに思っていた。その子に危険が及んだとき——俺は間に合わなかった」


「昨日、クララが倒れたとき。気づいたら体が動いていた。頭より先に足が動いていた。自分でも——驚いている」


「……そうだったんですね」


 ミユキはそれ以上聞かなかった。


 短い沈黙の後、ユリウスが「……そうだ」と静かに言った。


 ◇


「私の作った世界を、彼らに壊させるわけにはいかないわ」


 ユリウスはその言葉に、反射的に口を開いていた。


「……この世界を、作った?」


 ミユキは説明する。


「前世ではゲームという、この世界のシステムを作る仕事をしていた。私はその開発者だった。この世界は——そのゲームの設定をもとに構築されている。私は開発者として、自分が作ったものを認識できる」


 ミユキは端的に言った。


「だから君はデバッグができるのか。世界のバグを、修正できるのか」


 ユリウスは別人のような話し方をした。機械のようだった転入してきたばかりの頃とは違う。自信をもち、落ち着いている。ユリウスは、彼女の話を聞きながら、何度も頷いた。


「前世でプログラマーだった人間の記憶がある」——それだけが組織の掴んでいた情報だった。だが今ユリウスは本当の意味で理解できた気がした。ただのプログラマーではない。この世界そのものを作った開発者だったのだ。オメガの計算が狂った理由も。この少女が歪みをデバッグできる理由も。


 しばらく沈黙が続いた。廊下の遠くから、生徒の声が聞こえては消えた。


「……一晩、考えさせて」


 ミユキが静かに言った。


「あなたの話は信じるわ。でも——信じた上でどう動くかは、私が決める」


「……わかった」


 ユリウスは短く答えた。返す言葉は見つからなかったし、無理に探す必要もなかった。


『まだ、信じきったわけじゃない。でも——あの瞬間、嘘はなかったと思う』


 ◇


 授業の始まりを告げる鐘が、遠くで鳴り始めた。


「行こう」


 ミユキが歩き出した。


 その瞬間——ユリウスの上着の内側で、通信装置が低く震えた。


 着信だ。ガンマからだ。


 しかし、ユリウスは応答しない。装置をポケットの奥に押し込んで、ミユキの後ろに続くのだった。


**あとがき**


第9章はここまで、またちょっと間をあけさせていただいて、次回から第10章の予定です。おたのしみにー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ