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悪役令嬢はデバッグしたい ~転生したら作りかけの乙女ゲームの悪役令嬢だったので、前世の知識で世界をデバッグすることにしました~  作者: 神楽坂らせん
第七章:王立魔法学園編 ―煌めきの日々―

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学園への旅路——最初の夢

### 7-2 学園への旅路——最初の夢


 王都での買い物を終え、翌日の朝。

 

 ミユキたちは王都から学園への旅路に就いた。馬車での移動は半日ほど。エーデルハイムの街並みから離れ、緑の草原と森が広がる道を進む。


 護衛として同行するのは、兄のフリードリヒだった。騎士団見習いとしての務めでもある。


「ミユキ、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」


 馬車の向かいの席から、兄が心配そうに声をかけてきた。


「大丈夫です。ちょっと緊張してて……」


「そうか。まあ、学園には俺もいるからな」


 もはや心配性の域に達している気もするが、口癖のようになっている言葉で、兄は安心させるように笑った。


 ミユキが窓の外を見ると、草原の向こうに森が広がっている。空には大月と小月が並んで浮かんでいる。この世界独特の景色だ。


『この世界に来て三年……もうすっかり慣れたな』


 前世とは比べものにならないくらい、今の生活は充実している。


 家族がいる。友達がいる。研究できる環境がある。


 でも、危険もある。


『悪役令嬢フラグ。破滅エンド……』


 考えるだけで胃が痛くなる。ミユキの表情が少し曇る。


 馬車は草原を抜け、小さな村々を通り過ぎていく。農家の人々が手を振ってくれるのが見える。ミユキも手を振り返した。


「ミユキ、本当に大丈夫か?」


 兄が再び心配そうに声をかけてきた。


「はい、大丈夫です。ありがとう、お兄様」


 ミユキは笑顔を作った。この世界の兄も心配性なのか、家族は安心させたい。


 ◇


 昼過ぎ、王都と学園の中間地点にある宿屋「旅人の憩い」に到着した。


 宿屋は木造の二階建てで、外観は質素だが清潔そうだった。玄関には看板が掛かっていて、「旅人の憩い——安全と美味しい食事をお約束します」と書かれている。


「夕刻に付いてもあわただしいからな。ここで一晩休んで、明日学園に向かう」


 兄が馬車から降りながら言った。


「はい」


 ミユキも馬車から降りて、宿屋の中に入った。


 食堂は賑やかだった。冒険者たちが酒を飲みながら、大声で話している。革の鎧を着た男たち、魔法の杖を持った女性、弓を背負った若者……。皆、旅の疲れを癒しているようだった。


「おう、お嬢ちゃん、こんなとこに来るなんて珍しいな!」


 一人の冒険者が陽気に声をかけてきた。赤茶色の髪で、傷だらけの顔をしている。


「あ、はい……すみません、お邪魔でしたか?」


「お邪魔だなんてとんでもねえ! ようこそ、ようこそ!」


 冒険者は豪快に笑った。


「ミユキ、こっちだ」


 兄がミユキを手招きして、食堂の隅の席に案内してくれた。


 席に座ると、隣のテーブルで冒険者たちが魔物の話をしているのが聞こえてきた。


「森の魔狼、今年は特に凶暴でな……」


「俺の火炎魔法でも倒すのに苦労したぜ」


「魔狼か……厄介だな」


 冒険者たちの会話を聞きながら、ミユキはふとテーブルに目を落とした。


 そこには、焦げた跡があった。魔法陣の痕跡だ。


『これは……火炎魔法の発動魔法陣?』


 前世でいうカセットコンロのようなものだろうか。テーブルに設置されている加熱用のコンロだった。魔法陣を描いて魔力を供給し、発動する仕組み。

 

 ミユキは目を凝らして観察した。


『便利な魔方陣の利用法だ。この構造……シンプルだけど、実用的』


 魔力の供給ルート、発動のトリガー——それぞれが実用向けに設計されている。


『学園の授業で習う理論的な魔法陣とは違う。現場で磨かれた技術なんだ』


 冒険者たちの会話を聞きながら、ミユキは興味深く魔法陣を観察していた。


『学園では理論を学ぶけど、こういう実用的な知識も大事だな……』


 心の中で、そう思った。


 やがて食事が運ばれてきて、ミユキと兄は静かに食事を終えた。部屋に戻る頃には、外はすっかり暗くなっていた。


 ◇


 部屋に戻ると、ミユキは鞄からノートを取り出した。


 タイトルには『悪役令嬢フラグ回避マニュアル』と書かれている。


 ページを開くと、几帳面な字で書かれたイベントリストが並んでいる。


「第一回お茶会イベント(三週間後):中庭、午後三時。主人公リリアーナへの嫌がらせ——回避策:別の場所にいる」


「第二回舞踏会イベント(二ヶ月後):ぶどうジュース事件——回避策:絶対に飲み物を持たない」


「第三回実技試験イベント(三ヶ月後):リリアーナへの妨害工作——回避策:堂々と協力する側に回る」


「第四回婚約成立イベント(六ヶ月後):王子からの求婚——回避策:王子に好意を持たれないようにする」


「最終イベント・婚約破棄(学園卒業前):最大の破滅フラグ——回避策:婚約成立を阻止できれば発生しない」


 それぞれのイベントに、詳細な回避策が書き込まれている。


『悪役令嬢イザベラの行動パターンは全部把握してる。私がそれをやらなければ、イベントは発生しない……はず』


 ミユキの表情が曇る。不安は尽きない。


『もしゲームにないイベントが発生したら? もしイザベラ以外の誰かがフラグを立てたら?』


 コンコン、とドアをノックする音がした。


「ミユキ、入るぞ」


 兄の声だ。


「どうぞ」


 扉が開いて、兄が入ってきた。その後ろには——


「私も参加するわ」


 姉、ソフィアもいた。


「ええっ!? お姉様!? どうしてここに?」


「やっぱり追いかけて学園まで見送りに来たのよ。それに……」


 ソフィアは椅子に座って、ニヤリと笑った。


「リスト作り、手伝ってあげるわ」


「え……」


「妹が一人で悩んでるなんて、姉として見過ごせないもの」


 フリードリヒも隣の椅子に座った。


「俺も手伝う。どうせ明日から学園だしな」


「お兄様、お姉様……!」


 ミユキは嬉しくて涙が出そうになった。


 三人でテーブルを囲み、リストを検討し始めた。


「第三回実技試験の『妨害工作』だけど、協力するだけじゃ不十分かも」


 ソフィアが真剣な顔で言った。


「むしろ、リリアーナさんと事前に仲良くなっておくべきね。そうすれば、妨害なんてありえないって周りも納得する」


「なるほど……」


 ミユキはノートに書き込んだ。


「婚約成立イベント……か。入学してから半年で婚約っていくらなんでも早くないか?」


 フリードリヒが眉をひそめた。


「あら、王族としては遅いぐらいよ。貴族でももっと早くに家同志で決めることは多いでしょう。内々ではもう決まっているけれど、学園生活の時期は王子の印象や相性を見定める意味合いでもあるんでしょうね」


 ソフィアが説明した。


「お姉さま、それこそが『乙女ゲーム』の背景設定なんです」


「なるほど、しかし、理解はできても納得はできんな。たとえ王子が好意を持っても、俺が許さんからな」


 フリードリヒが真顔で言う。


「そんなこと言ったって……。とにかく、私も別に王妃候補なんて嫌だもの、なるべく好意をもたれないようにしないと……。」


「具体的にはどうするんだ?」


 フリードリヒの問いかけを姉が引き継ぎこたえる。


「ミユキは王妃候補は嫌、望んでないのよね」


「はい、もちろんです。荷が重いっていうか……」


「ちょっともったいない気もするけれど、ね」


「そんなことないです」


 ソフィアはちょっどではなく本気で惜しんでいるようだが、ミユキの気持ちを尊重してくれ、それ以上茶化すことはやめたようだ。


「話しを戻すわね。王子に学園で会わないわけにはいかないし、あからさまに無礼な態度も取れないでしょう? 適度な距離を保ちつつ、恋愛対象として意識されないようにする感じかしら……難しいわね」


「そうですね……難しくても、頑張らないと……」


 ミユキは姉の助言も参考にしながら、リストに細かく書き込んでいった。


「ありがとう……二人がいてくれて本当に心強い」


「当然よ。妹が悪役令嬢になるなんて、姉として許せないもの」


 ソフィアは冗談めかして笑った。


「俺も学園にいるから、何かあったら本当にすぐに呼べよ」


 フリードリヒは真面目な顔でお約束を言った。


「はい……」


 ミユキは頷いた。


『家族がいる。それだけで、どんな困難も乗り越えられる気がする』


 ◇


 夜も更けて、姉と兄は自分たちの部屋に戻った。


『宿屋でぐらい、一緒の部屋でもよかったのに……』


 ミユキは一人、ベッドに横になった。


 窓の外には、大月と小月が静かに輝いている。この世界の夜空は、前世とは全く違う。でも不思議と、心が落ち着く。


『明日から学園生活……大丈夫、きっと大丈夫』


 そう自分に言い聞かせながら、ミユキは目を閉じた。


 ◇ ◇


 ミユキは夢を見た。


 暗闇の中、遠くから誰かが呼んでいる。


『美幸……』


 懐かしい声。


 ぼんやりとしたシルエット——バイクに乗る誰か。顔は見えないが、その走り方に見覚えがある気がする。


 ミユキは夢の中で手を伸ばした。届かない。


『待って……!?』


 叫ぼうとしたが声が出ない。その人の姿がぼやけていく。


『……お兄ちゃん?』


 はっと目を覚ました。


「……夢?」


 部屋は真っ暗で、窓の外には大月と小月が静かに輝いている。


 ミユキは胸を押さえた。微かな痛みと温かさが残っている。


『誰が……私を呼んでたの?』


 思い出そうとするが、靄がかかったように記憶が曖昧だ。


『いったい誰だろう……』


 ミユキは目を閉じた。


 胸の奥の温かさと、何かを失ったような切なさが、ずっと残っていた。


 ◇


 翌朝、目が覚めると朝日が差し込んでいた。


「ミユキ、起きてるか?」


 兄がドアをノックした。


「はい、起きてます」


「朝食の準備ができてる。降りてこい」


「すぐ行きます」


 ミユキは急いで着替えて部屋を出た。


 昨夜の夢のことは、すっかり忘れてしまっていた。ただ、胸の奥に微かな温かさと、名残惜しいような感覚だけが残っていた。


 ◇


 朝食を済ませ、ミユキたちは再び馬車に乗った。


 学園まではあと数時間。いよいよだ。


「緊張してるか?」


 兄が声をかけてきた。


「はい……少し」


「大丈夫だ。お前なら大丈夫」


 兄は笑った。


「ありがとう、お兄様」


 ミユキは窓の外を見た。草原の向こうに、白い建物が見えてきた。


 王立魔法学園——ミユキの新しい生活が、そこで始まる。


 ドキドキする胸を押さえながら、ミユキは深呼吸をした。


『大丈夫。フラグは回避する。絶対に』


 そう心に誓って、ミユキは学園へと向かった。


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