第25話 不屈
「お前らごときにこんな醜い姿になるとは……」
「ここに来てイメチェンか。お似合いだぜ、伯爵さんよ?」
周辺をエネルギーで包みバミューダを吹き飛ばしたと同時に、
監視ロボット全てを吸収し取り込んだ。
さながら、宇宙機械獣の風貌。
伯爵はギリギリ自我を保ちつつも、見てくれは野蛮で恐ろしい姿だった。
「こ、これが伯爵なのか……。お高くとまった影もない」
「ラチガ明かない。陛下申し訳ありません。星森緋音ハ無傷で献上できそうにありません。
どうか、ご了承ヲ……」
焦点定まらず、伯爵はブツブツと独り言のように言葉を発している。
「パワーやタフネスさは桁違いかも知れねぇ。ただ、あの様子だと動きは遅いと思われる。
俺達は脚を使って責め込むぞ?」
「そうだね、バミューダ。やろうッ!」
持ち前の高速移動によって、伯爵を翻弄し波動弾を連射した。
的中するも致命傷に至らない。
バミューダの狙撃すらも若干、装甲を剥がすのがやっとだった。
「グッ。射撃じゃどうにもならん。接近してえぐるべきか……」
「戦いに迷いは禁物です。グぅうィ!!」
戦いにおいて、一瞬の迷いや判断ミスは戦況を大きく左右する。
バミューダの迷いに転じて、伯爵の理性が崩壊した。
その瞬間、無数にできた金属状の鋭利な攻撃が放たれた。
『こ、これは!?』
二人は考える間もなく剣形態へと切り替えて伯爵の攻撃を切り払った。
防御しつつも彼らは分散した。
しかし、金属状の鋭利な刃は彼らを容赦なく追従した。
「お前の性格の悪さを体現したような攻撃だぜ」
「反撃する余地がない。ど、どうするか――……」
そ、その時だった。
緋音は無意識の内に捻挫している足を庇い軽やかなステップを踏む際、
体重を乗せることに若干の誤差が生じた。
その僅かなズレにより、踏む出した足から着するまでに衝撃を逃がしきれず、
再度足が駄目になってしまった。
「チェックメイトです。星森アカネッ!!」
ホーミングしていた鋭利な刃の矛先はすべて緋音へと及んだ。
「あ、緋音!」
「あ、アン様――!」
身動きが取れない緋音へと間一髪、バミューダが彼女の盾となった。
しかし、それはあまりにも大きな代償を払うこととなった。
彼の体は金属に貫かれ、鮮血が飛び散った。
緋音は盾となったバミューダが崩れゆくのをみることしかできなかった。
「ば、バミューダ。ど、どうして……」
「どう……もこうもねぇだろ。まだ、戦いは終わっちゃいない。集中しろッ!」
満身創痍のバミューダは緋音の肩を借りて、どうにか立てる状態。
「デフュ。お二人とも満身創痍ですね。もはや、命乞いもありません。
死んで下さい。ジ・エンドです」
伯爵は金属によって砲を生成した。
逃げることができない二人への死の宣告。
一気にエネルギーが砲身へ装填された。
絶望するには十分なほどの戦力差。
この状況下では緋音も諦めているかに思えた。
「バミューダはここで……」
「な、何を馬鹿なことを。まだ、お前だけなら逃げ切るはずだ」
そっと、彼女はバミューダを床に座らせた。緋音の眼は死んでいなかった。
バミューダさえも、諦めかけていたが緋音は戦う覚悟を持っている。
「あたしのお母ちゃんも逃げ出したい時もあったはず。ただ、こうしてあたしは生きている。
繋いでもらった命。あたしはやるさ、バミューダ!」
そう言い残し、小宇宙銃剣を両手で握り締め、緋音は迎撃態勢に入る。
その姿を見て、バミューダはいつしか亡き母の姿を緋音と重ねてしまっている。
「はは。もう笑うしなねぇ! 不甲斐ないが女のお前に託す。頼んだぜ、緋音……」
緋音の様子を見て伯爵は嘲笑った。
そんな彼女との因縁を終わらすべく砲撃を放った。
エネルギーと威力は凄まじく、砲身が溶けてしまう。邪
悪な極太レーザー砲が緋音を襲った。
――対して彼女は目を閉じて、大きく深呼吸をし渾身の一撃を放った。
「あたしは負けるわけにはいかないんだ! フルバースト弾ッ!」
ギリギリまで引き付けて、緋音は持てるすべてを波動弾に込めた。
その衝撃は想像を超えていた。
衝撃波によって、フロアの壁は吹き飛び辺りは無と化している。
伯爵の思惑は外れて、緋音の最後の抵抗により拮抗している。
「つくづくしぶとい。まるでガイチュウのようです。大人しく死んで下さい」
「ヘッ。その言い草だとお前も限界が近いのかな? 人間、舐めるなよ!」
波動弾とレーザー砲が衝突した後、消滅せず拮抗した状態を保った。
双方渾身の一撃だったが、機械人間の伯爵はともかく、
生身の人間である緋音の生命力の高さには
伯爵と言えど驚愕せずに入られない。
「ここまでとは正直、予想外です。私は腹を括ります。肉を切らせて骨を断つ」
「気合いで乗り切っているが、ジリ貧なのも否定できない……」
伯爵は大きな賭けに打って出た。
自身の肉体をギリギリ保持できるレベルまで低下させエネルギーを捻出した。
再度、レーザー砲のエネルギー出力を上げた。
たちまち均衡は崩れ、緋音の波動弾を見る見る押しやった。
ただ、その代償により伯爵の体は劣化し、徐々に朽ちている。
「オワリです……!」
「まだだ……。諦めるな、緋音!」
伯爵の捨て身のレーザー砲が緋音の波動弾を押し返した。
レーザー砲が彼女へ触れてしまいそうな瞬間、
不死身のバミューダが立ち上がり彼も波動弾を全弾解放し援護した。
「ば、バミューダ! 助かったありが……とう」
「よそ見するな。いらぬ心配も無用だ。全てを出し尽くせ」
満身創痍というよりか、あの傷を受けて立っていることでさえ、
不思議なぐらいバミューダは瀕死だった。
緋音は彼を直視できなかった。
そんな、彼女の純粋な気持ちを彼は汲み取っていた。
だから、あえて緋音へと強い言葉で鼓舞している。
「カッコ付けてみてみたが……。ぐふッ。ふ、二人がかりでも厳しいな」
「だ、大丈夫か。バミューダ?」
一時レーザー砲を押し返したがまた、ジリジリと押し返された。
二人にも限界と焦りの色が出ている。
そんな危機的状況下で伯爵側で爆発音がした。
「アン様、バミューダ! 頑張れ。老いぼれはこれしかできません。
それでも、二人の勝利を信じております!」
『さ、参謀――!』
思わぬ増援。
なんと、参謀は体に巻いていたダイナマイトを全て点火し伯爵へと投下した。
爆発は凄まじく一歩間違えれば、参謀までも死んでしまいかねない威力だった。
しかし彼の勇気ある行動によって、千載一遇のチャンスが生れる。
「緋音。行くぞッ!」
「うん! はぁぁああ!」
参謀の決死の想いに応えるべく、彼らは一切合切突き進んだ。
全身全霊の波動弾を放出した。
蒼く澄んだ波動と深い朱色の波動が織り交ざった。
そんな折り、バミューダが全身全霊を込めた際、彼の中で生命の糸が切れてしまった。
バミューダは静かに地面へと倒れ込んだ。
「ば、バミューダ!」
「し、しっかりせいバミューダ! このままでは……」
二人による最後の攻撃は虚しく勢いは徐々に弱まってしまった。
参謀や決死のバミューダの想いは無下になってしまう。
人類を超越した存在である機械人間が勝利したかに思えたが、
緋音は諦めが悪かった。
「何をするかと思えば、早くも遺品整理ですかね? 彼はアナタのせいで死んだのです。
最後まで無様に生きましたね。母親そっくりで無駄死にを……」
「あたしはお前を倒しバミューダをレジスタンスの仲間の元へと生還させる。
だから、今は休んでいるだけだ。少しだけ力を借りるだけだッ!」
緋音は無我夢中でバミューダの愛銃を手にして、左手で打ち込んでいた。
「俺を勝手に殺すんじゃねぇ。お前も勝手に人の物、使いやがって。
三途の川でお袋に追い返された。お陰で思い出したぜ。
そのまま、俺の愛銃はお前が使え」
「よ、よかった。バミューダ。あ、あたしがバミューダの小宇宙銃剣を!?」
奇跡の復活を遂げたバミューダだった。
そして、何やら秘策があるらしい。
「今の俺ではコイツを支えるのは難しい。コイツはお前と似て、相当なじゃじゃ馬だ。
だが、第一関門は突破したようだな。あとは運に任せる。緋音、両目を瞑れ」
――激闘の最中、バミューダは緋音へ両目を瞑る謎の指令を出した。
これまでの緋音なら、この疑問に対してすぐさま反論していただろう。
今の緋音は違っていた。
静かに両目を閉じて騒音をシャットアウトし、
彼の言葉一つ一つを自然に聞けるほど集中できている。
「死に体が増えただけ。戦況は何も変わっていない。負けを認めて念仏でも唱え始めましたか。
あぁ、嘆かわしい」
「あの二人に限ってそんな事はないはずじゃ。な、何か打開策がある。信じておりますぞ」
伯爵は懐疑的だった。はたから見ていては戦意喪失の男女。
しかし、レジスタンスの参謀は彼らに期待せずにはいられない。
「へへ、その調子だ緋音。その昔、お袋に聞いたことがある。
俺達が持つ小宇宙銃剣は全宇宙で数本しかないと言われている。
こうして、俺とお前が巡り合えたように、こいつ等も仲間を欲していたかもしれねぇ。
そんで以て、コイツは真の姿を秘めていると聞いていた。
それが何なのかはお袋に聞きそびれちまった。
だが、お前と一緒に過ごす内にぼんやり理解できた気がする。
だから、緋音へと託すと決めたんだ……」
「し、真の姿? そ、それに何を言ってバミューダ?」
確証こそないが、小宇宙銃剣の前任者の母からバミューダは愛銃のさらなる可能性を聞かされていた。彼は極限状態で愛銃の真理へと辿り着き緋音に紡ぐことを決意するのだった。




