第23話 別れ
「なにヲしようとしている。いますぐ、止まれ。さもなくば……」
「……」
何かに憑りつかれたかのように四肢がもげている監視ロボットは、
静止を目にもくれずコントロールセンターの中央部を突き進んだ。
終始無言だが鬼気迫るものがあった。
静止する監視ロボットらは姿形が一緒にも関わらず、得体の知れないモノと接触し困惑している。
それでも、彼らは役目を全うするため、四肢がもげている監視ロボットの体をさらに痛めつけた。
一切悲鳴や断末魔は聞こえない。
機械的に蹂躙され、両足はなくなり左腕部も欠損し動かなくなった。
「これで終わった。あとは捨てるだけ……」
「あ……かね。ま、まだ……」
監視ロボットは地面にもたれ躯と化したが再始動した。
懸命に片腕を動かして奥へと進んだ。
人知は超えた現象を目の当たりにし、彼を痛めつけたロボット達は思考が停止した。
ただただ、呆然と立ち尽くしている。
――そして、ボロボロの監視ロボットは中央コントロールセンターへと到着した。
最後の役目を実行した。
「これガ俺からの最後の手向けだアカネ。後は頼んだゾ……」
地下で光り輝くセクターへ彼は身を捧げた。機械でできた体は砕けて塵となった。
やがて、コントロールセンターがスパークした。
すると、機械兵団が一斉に機能停止した。
伯爵を除く機械兵団を統一しているコントロールセンターは一時、その機能を停止した。
監視ロボットの犠牲によってできた時間。
レジスタンスや緋音にとってのラストチャンス。
もちろん、彼らはこの千載一遇のチャンスを逃さなかった。
「な、何じゃこれは!?」
「機械共の動きが止まった。三銃士までもが機能停止してやがる。
リーダーに参謀! 俺は行くぜ。もし罠であってもきっと、どうにかなる」
レジスタンも初めて目の当たりにする異常事態。否が応でも警戒せざれない。
それでも、バミューダは肌で何かを感じていた。
彼は基地へと走り出していた。
「あぁ、バミューダ。行って来い! しばらくして問題なければ我々も動く」
「こら、バミューダ。ワシも行くぞっ! 待っておれアン様!」
参謀もバミューダに遅れつつも彼の後を追った。
同時期にグランドアース号の機関室にいる真紅の母娘も異変に気付いていた。
船体が大きく揺れた。
「何だこの衝撃波は!?」
「アン。どうやら、終局が近づいてきました。――最後に」
レフィーナは基地内部の事情を知り得ないが、
自身の生体ホログラムの終わりを悟っていた。
「きっと、あなたを救うべく“どなた”かが生んだ縁かも知りません。
私もあなたへどうか、思いだけでも託させて下さい」
「ま、まさかロボッットが……。あたしはあの子の想いに応えなくては」
緋音はロボットとの会話が頭を過った。
これは尊い犠牲の元、生まれたチャンス何だと認識した。
彼女の体は震えた。
「あたしのためにロボットは犠牲になった。あたしは」
「アン。恐れる必要はありません。みな、生まれながらにして己の役目が与えられます。
あなたもまた役目を果たすため行くのです。その方への報いです。だから、自分を信じて。
あなたならできます」
レフィーナは再び、娘を抱きしめた。緋音の体の震えが止まった。
「うん。お母ちゃん、ありがとう。あたしは行くよ! また、会える日は来るかな?」
「残念ながらグランドアース号は、もう間もなく再起動に入ります。
その頃には、私の自我を宿した生成ホログラムは消滅しているでしょう。
ただ、アンとの絆は不滅です。この先の戦いにおいて、いずれ再会する刻はあるかも知れません。
どうか、世界に安寧を……。サーシャが紡いだ意思と共にミカギルの野望を打ち砕いて……」
涙を流しつつもレフィーナは最後まで笑みを絶やさなかった。
生体ホログラムは消失した。
機関室は暗闇に包まれ、静寂に包まれた。
「……お母ちゃんありがとう。もう大丈夫。あなたからの愛情も受け継いだ。
あたしは生きて剣持に再会しなくてはいけない。
今こそ、自分の使命を全うして見せる」
緋音は手で顔を拭い機関室を後にした。
最終決戦の地へと向かった。
「こ、これは一体!?」
基地内部は異様な光景だった。監視ロボット達は床に転がっていた。
無機質な鉄屑同然だった。
「あの子が作ってくれたチャンスなんだ。無駄にしてはいけない」
色んな人から紡がれ緋音へと託された『意思』。
今の彼女なら無下にせず、やり遂げることができる。
その思いを胸についに因縁の相手と対峙する。
「終わらせよう……伯爵。覚悟はいいな?」
「数々の犠牲を経て辿り着いたってお顔ですね。こうなっては私も宿命と向き合いましょう。
陛下には申し訳ありませんが、躯同然の貴女を献上いたしましょうかね」
中央コントロールセンターで彼らは再会していた。
その手には抜刀した武器を携えている。
独特な緊張が漂っている。
両者とも静止している。
「思いのほか、冷静ですね。真紅の緋音?」
「思ってもいないことを口にするんじゃないよ?
まぁ、以前よりかは年相応のレディーになったかしら☆」
母との再会――そして、別れを経て彼女の中で何かが目覚めつつある。
伯爵はそんな微妙な変化に気付いているかもしれない。
「ククっ……。面白い。実にいいです、緋音。それらしくなってきました。
かつて陛下の野望を阻止した赤毛の傲慢なお姫様に似てきました。
痛ぶりがいがあります」
「て、てめぇッ! お母ちゃんを悪く言うなッ!」
冷静だったはずの緋音のテンションは、急速に怒りのボルテージが跳ね上がった。
小宇宙銃剣を両手持ちにしながら大きく踏み込んだ。
「おやおや。早くも前言撤回といたしますか。これだから、ニンゲンは単純で愚かな生命体です。
なぜこの世に存在しない者を侮辱されたぐらいで、怒りを剥き出しにされる。
理解できない感情です」
怒りに身を任せて自分に突っ込んでくる緋音を嘲笑いながら、
伯爵は鋭いカウンター突きを放った。
「これでジ・エンドです。……!」
伯爵が放った鋭い突き攻撃による剣先が緋音の眉間に触れる寸前で、
彼女はバックステップを踏み、さらに右へと回り込み勢いそのまま、
渾身の一撃を伯爵へとお見舞いした。
「超波動斬りッ!」
被弾恐れず、勇ましい『心』で放った緋音の最上の一撃だった。
見事、伯爵の右手首を斬り裂いた。波動エネルギーによって伯爵は痛覚に襲われた。
「グハっ。剣にもそのやっかいなエネルギーを纏わせているんですね。
私も悪い癖が治りません。致し方ありません。全力でいきます」
凄まじい悪意のエネルギーが放出された。
たちまち床に寝そべっている監視ロボットらは引力や磁気により
宇宙機械伯爵の元へと吸い寄せられた。
「な、何が起こりやがる!?」
「もう出し惜しみはしません。俗に言う奥の手です。私自身、大っ嫌いな姿です。
後悔させてあげますよ、真紅の緋音?」
伯爵は監視ロボットのエネルギーを吸収し、残骸までも喰らい尽くした。
理性がない獣のような姿だった。
みるみる体は巨大化し、三メートルを優に超える巨体へと変化した。
さながら宇宙機械獣を彷彿とさせた。
「お高く留まった姿は微塵もないわね。これが真の姿ってところか?」
「貴女よりも自分の体を大事にするんですよ。お陰で少しだけ醜い姿をさらしましたがね。
さぁて、第二ラウンドといきましょうか?」
姿は変化しても言葉使いはこれまで通りの伯爵だった。ただし、攻撃は荒らしい。
大ざっぱに右腕を振り回し壁や柱などをお構いなしに振り払った。
「ったく! まるで猛牛だ。攻撃は単調だが、一発でも貰えば致命傷だな。
冷静に対処するのみ。必ず突破口はあるはずだ……」
その巨体に圧倒されず緋音は冷静さを保っていた。
小宇宙銃剣を剣モードから、銃モードへと切り替えて応戦した。
「修復したようだが、右腕はウィークポイントに違いない。まずはそこから攻めるのが正当法。
やってみるッ!」
緋音は巨体化した伯爵と一定距離をおいて、
先ほど彼の腕を斬り裂いた箇所へ波動弾を命中させた。




