ココロの鎖
「まぁ、そうなるわね……。それじゃ、あたしと引き換えにその人達を解放しろ!
さらにこの星から完全に撤退することを約束しな?」
「な、何を仰いますか! アン様!?」
考えあってのことだろうが、緋音の発言に参謀は驚愕している。
彼同様にバミューダやドジャーは驚きが隠せない。
マルコも動揺が隠せない。
「あ、姉御。それじゃ、元もこうもない。
姉御を犠牲に生き延びても、みんな浮かばれません!」
困惑する状況を見て、伯爵は笑みを浮かべていた。
特の心理戦へ持ち込み緋音からの破格の条件申し出に勝利を確信した。
「ぐふふ……。貴女は勘が鋭い人ですね。ただし、もう少し交渉術を学ぶべきです。
まぁ、いいでしょう。ちょうど、皇帝陛下より召集命が下りました。
こんな、辺鄙な星で家畜どものお世話も疲れました。交渉成立としましょう」
「へっ。最終的にはこうなるように仕向けただろうに。まずは人質を解放してもらう。
その後、中間地点であたしが落ち合う。それでいいな?」
――ここに交渉成立。
伯爵はジェスチャーで応じた。
それを見た緋音は非戦闘員達に動くよう指示した。
「お、お姉ちゃん……。ありがとう……」
「無事でよかった。それじゃ、みんな達者でね……」
緋音はしゃがみ込み子供の感謝の言葉に軽く笑みを見せて送り出した。
別れ際、女の子に耳打ちをした。
「さぁ、どうする伯爵? 煮るなり焼くなりお好きに?」
「元より貴女は大事なお客様ですよ。
ただ、陛下にお連れする前にまた逃げられては私の命が危ない」
緋音が伯爵の元に辿り着いたと同時に非戦闘員達もバミューダ達と合流した。
このまま、伯爵と緋音が立ち去る背中を見て、参謀は飛び出した。
「アン様、なりませぬ。レフィーナ様、この命に代えてもお守りしますぞ」
彼らを呼び止め、彼はおもむろに上半身の服を捲った。
一同、参謀に視線が集まる。
「たとえ、貴様と相打ちになろうとも構わん。アン様。どうか、お逃げ下さいッ!」
『だ、ダイナマイト!?』
伯爵だけを除き参謀の体に巻きつかれたダイナマイトに釘点けとなった。
「あ、あのたぬきジジイ。無茶しやがって……。いつの間に」
「参謀殿。それほどの覚悟を持って……」
彼は参謀として万が一に備えていた。
レジスタンスのアジトから出撃前、体にダイナマイトを括り付けていた。
そのため、想定よりも運動能力が低下していた。
塔部から降下する際、体が思うように動かず内に秘めるしかなく苦慮していた。
しかし、結果的に最悪の事態が起こってしまった。
それでも、今は亡き主の一人娘である緋音を守るため、参謀は命を懸けている。
「クフっ……。これだから、ニンゲンは面白い。
さぁ、真紅の緋音。いかがしましょうか?」
緋音は静かに参謀の元へと歩んだ。
彼の前に到着すると、両手を取った。
「ありがとう参謀……。でも、アナタを犠牲にあたしは生きていけない。
それはきっと、お母ちゃんも望んでいないよ。
だから、みんなと一緒に今は基地から撤退して欲しい……」
「あ、アン様……。うぅ……」
緋音は参謀の勇敢な行為に敬意を示しつつ、犠牲を払っての幕引きを望んでいない。
そんな、慈悲ある眼差しを見た参謀はかつての主と彼女の姿を重ねた。
「参謀、この場は撤退しよう。緋音の行動が無下になっちまう」
バミューダは無言で緋音へとアイコンタクトを交わし、緋音の意思を尊重した。
彼はこの場を指揮し速やかに基地を後にしたのだった。
そんな一同は連合がいる場所へと移動した。
「リーダー、すまない。伯爵を討てなかった。それに……」
「人質は解放できたが、代わりにアン様が……」
道中、特に戦うことなくバミューダ一行は連合が戦っている戦地へと辿り着いた。
崖上で全体を指揮するレジスタンスのリーダーに経緯を話した。
「なるほど、理解はできた……。やっかいなことになったな」
「すまないリーダー。ワシが付いておりながら」
伯爵の真意を理解できないいま、レジスタンスの頭脳たちは困惑が隠せない。
このまま、すぐに全軍を撤退させて戦力を温存するのも一手。
ただし、せっかく伯爵から隔離し包囲した状態で、三銃士を見す見す討たないのもリスクがある。
各々、作戦や展望を頭の中で巡らせて大人がダンマリしている中、一人の少女が口を開いた。
「バミューダ分隊長、その……」
「うん? どうしたんだ?」
重苦しい空気が漂う場で少女はバミューダに近付いた。
バミューダはすぐさましゃがみ込み少女と目線を合せた。
「さっき、すれ違いざまにあの人――緋音から伝言を受けた」
「そ、それは本当か!? どんな内容だった?」
少女からこのことを耳にして、バミューダは緋音との別れ際、
アイコンタクトを交わしたことがふと、頭を過った。
「うん……。それは『待ってる』だよ」
「そうか、ありがとう。俺にはまだやらなければならないことがある。
なぁ、リーダーや参謀?」
バミューダの頭の中で靄が晴れた。
そうと決まれば行動あるのみ。
「やはりアン様は諦めておられなかった。じゃが、バミューダよ。
流石に直ぐに行動しようにも彼らがおる。今は連合軍と協力し三銃士を討伐する。
その後、部隊を再編成しアン様を救出する作戦へと移る。
それ故に伯爵の動向を見張る者を配置しておく。よいな?」
「おうよ。お姫様を救って、ついでに伯爵の野郎にも止めを刺すさ。
それじゃ、俺は戦場行ってくるぜッ! 後はみんな頼んだぜ」
意気消沈していたバミューダだったが生気が戻った。
一刻も早く戦いを終わらせるべく、三銃士の討伐へと向かった。
――一方、真紅の緋音は伯爵の船へと移送されていた。
彼女にとっては見慣れた光景だった。
「振り出しに戻ってしまった……。ケッ。何が大事な客人だ。
グ、この体制は体に堪える」
宇宙機械皇帝へと献上されるため緋音は無事だった。
しかし、両の手は鎖に繋がれ、天から吊るされ身動きが取れない状態。
前回より目に見えて扱いが乱雑になっている。
緋音の独り言のみ虚しく木霊する空間だったが、ドゴっと物音がした。
「ありゃ、もうお迎えかな?」
「マタ、戻って来たNA。真紅の緋音。世話がヤケル……」
緋音とは腐れ縁の警備ロボットが姿を現した。
思わぬ珍客に緋音は笑みが零れた。
「返す言葉がないわね。こんなとこ、うろついて大丈夫なのか?」
「あぁ、問題ない。すでに役目を終えた身だ。ただ、一目お前を見ておきたかった……」
意味深な言葉を口にしつつも警備ロボットは物影から姿を出した。
緋音はその姿に言葉を失ってしまった。
「そ、そんな……。な、何が!?」
「驚かせてしまったナ。これハ自業自得だ。この身体はもはやガラクタだ」
緋音への協力行為は伯爵が察知していた。
その報いとして監視ロボットは腕がもがれ、体全体傷ついている。
顔半分も損傷していた。
見ているだけで痛々しい。
「あたしのせいだね。ごめんなさい……」
「そう気に止めるな。らしくない。そんなしょげている時間はない。
お前はお前にしかできないことをやレ!」
監視ロボットは多くを語らない。
ただ、損傷している体が物語っている。
ロボットは緋音に対してお詫びの言葉を貰いに来たわけではない。
むしろ、感謝の言葉を口にしている。
「お前と出会い。――遠い過去、ニンゲンだった頃を思い出させてくれた。
だから、お前は”ミライ”を生きて欲しい。いいな、真紅の緋音?」
ロボットは右腕にありったけの力を注ぎ鎖で繋がれている緋音を解放した。
しかし、その代償にロボットの腕は完全に捥げてしまった。
「大丈夫か? ありがとう……」
「これで自由だ……。俺は最後に伯爵を出しぬいてやる。
それがお前にしてやれることのサイゴだ。さようなら、緋音」
いそいそと監視ロボットは歩き出し緋音の制止を振り払った。
体はフラフラで今にも床へ崩れ落ちてしまうほどだった。




