帰路
お読みいただきありがとうございます。
本作をより楽しむには「銀河機動戦記~紅蓮の飛鳥~」を読んでいただくことをオススメいたします。
本作の主人公である「星森緋音」は以下の章などで登場します。
ご参考下さい。
▼初登場
第二章:緊急事態
▼再登場
三章:決意。
無限に広がる宇宙……。
星が生まれ、朽ち果て死に逝く世界。
人間もまた生と死が繰り返され、世界が流転している。
それでも、人の意思や想いは受け継がれ、時を超えていく。
ある“運命”に導かれた『継承者』は宇宙を駆けていた。
――しかし、当の本人はまだその『真理』には到達していなかった。
自分の使命を知り試練を乗り越えていく真紅の緋音こと、
『星森緋音』の旅路が今、始まるのだった。
「……剣持は上手くやっただろうか」
赤い髪をなびかせて、海賊のような風貌で甲板に佇んでいる少女。
海賊船を操縦しながら、そう呟いていた。
「……計算上、五十%というところかな」
緋音の独り言に対して、冷静なトーンで返答があった。
「あぁ、もう! こういう時は大丈夫とか。
あの“二人”ならやれるとか言って私の気を紛らせるだろう。
ったく、ピースはこう言う時、マジで物事を考え過ぎッ!」
「……それはすまなかった、緋音。ただし、あの状況下では仕方あるまい。
それに本来ならば十%も……」
すかさずピースは弁明するも、つい本音を吐露していた。
勝気で男勝りな性格の緋音。
対してピースは古風な船体でありながらも内部はピースにより、フルオートメーション化され、
海賊船『グランドアース号』の全てを制御している生体AI「peace」。
正確無比。
ただし、『ヒト』の感情を読み取った思考が若干、苦手だったりする。
――二人は正反対だからこそ、時に意見が衝突しては衝突していた時もあった。
今となっては、互いの弱点を補う関係性でピースはそんな彼女のよき理解者でもある。
「まぁ、アイツ。あの親子なら大丈夫さ。あたしは一度、自分の星に戻り確認したいことがある」
ピースは緋音の指示に従い『故郷の星』へと進路を取った。
「これまでも困難を乗り越えてきた“紅蓮の飛鳥”ならば、確率を打ち破るだろう。
なにせ“メルディアスの防御システム”を一刀両断してのけたし」
銀河帝国メルディアスと蒼き星、地球との戦争。
緋音は地球から銀河帝国メルディアスへと向かっていた途中に、
飛鳥らが搭乗している機動戦艦ノアを強襲していた。
飛鳥と緋音の出会いはまさに最悪だった。
ただ、緋音は宇宙海賊として、銀河を駆け巡り父から伝えられていた
「超新星機関」を追い求めていた。
他を圧倒する神秘的な力を秘めている剣持飛鳥が搭乗する『鳳凰紅蓮丸』と接触した。
そこで一度、飛鳥から離れるも三度、二人は再会した。
そのまま、グランドアース号は地球とメルディアスとの最終決戦に参戦することとなった。
飛鳥は最終決戦の最中、超新星機関の限界を超え、【覚醒】し眩い光を放つ剣を機体から発現させて、メルディアスの防御システムを破壊した。
緋音は『鳳凰紅蓮丸』が発現させた『現象』を父へ確かめるべく、
メルディアスと地球との戦いが決着後、帰路に着いていた。
帰りの航海は順調に思えたが、ピースが何かを捕捉した。
「緋音! 重力波を感知。一分後に船の上にワープアウトしてくる物体がある。衝撃に備えて!」
先の戦いによって、船体の損傷が激しくレーダー捕捉距離が短くなっていた。
さらに距離を取ろうにも、グランドアース号はワープ航法を行うことができない状態。
一気に船内に緊張が走る――。
「宇宙海賊に喧嘩を売るとはいい度胸だね。それにしても手際がいい。こりゃ、帰り道は鋳薔薇の道かもね……。ものすご~く嫌な予感がする。そうは言ってもいられない。野郎共、戦闘準備ッ!」
『へい! 姉御!』
緋音の号令によって、士気が高まった船内。
彼女は早くも白兵戦を見据えていた。
腰から下げている『小宇宙銃剣』を右手で握り彼女もその瞬間を待った。
ワープアウト音が銀河に木霊し、一拍空いた後に船体へ衝撃が走った。
「……ふふ。真紅の緋音、探しましたよ」
「くっ。悪い予感が当たった。このタイミングで、おめーに強襲されるとはな」
緋音は声の主に対し、怒りや悲しみと言った感情ではなく、『嫌悪感』を露わにしている。
二人の会話からして面識はあるようだ。
「そんなに機嫌を悪くしないで下さいよ。我々は“旧知”の仲ではありませんか。此度は【宇宙機械皇帝様】から、直々に貴女を捕らえてくるように命を受けました。私、宇宙機械伯爵が優しく、我がお屋敷までエスコートして差し上げます」
「その口調は忘れもしない。またノコノコと出てきやがったな。ここで会ったが百年目。ケリを付けようか?」
緋音は鳳凰紅蓮丸に搭載されている『超新星機関』を探して、
銀河を駆けていたが、その航海中に『機械伯爵』と出会い戦闘していた。
「その威勢はよろしい。流石は滅・超新星機関の所有者ですね。
だけど、今回は私も失敗が許されません。弟のザードのように惨めな死に方はしたくありません。優雅に任務を遂行し、貴女を圧倒して魅せましょう!」
そう高らかに宣言すると、指をパッチンと弾いた。
その動作は銀河帝国メルディアスの黄金騎士【聖静寂のザード】と同じだった。
「それが優雅なのか、伯爵さんよ?」
「えぇ、そうです。前回、貴女を逃して学びました。私は傲慢で慢心しておりました。故に貴女から受けた屈辱を糧にしました。まずは、この船体を統制している邪魔者から捌けていただきます……!」
緋音は自然とピースの名を叫んでいた。
「ぴ、ピース!」
「あ、緋音……」
グランドアース号に異変が起こった。瞬く間に艦内の明かりが消え、船体が急停止した。
「この船の生命線である『AI』は今、私の手中にあります。前回、戦闘した際に違和感がありました。これだけの船を運用するには圧倒的に船員が少ない。
甲板に出ている貴女を除いて、生体反応は精々数十名。
それなのに、正確無比な砲撃や射撃。船体の操縦に関しても、
全く無駄がなく機械よりも忠実に移動や旋回を行った。
そのため、これを船内に忍び込ませておきました。
どうやら、半生命体であった宇宙機械昆虫はAIの防御システムをくぐり抜けたようです。
これを通じて、監視を行い疲弊した貴女方を強襲し一時的ではありますが、
船体をジャックして乗っ取ることに成功しました」
無機質な物体は数㎞の距離があってもレーダーで捕捉ができ、
艦内も防御システムは働いていたが、機械と生身の物体で構成された物に関しては、
防御システムが正常に作動しなかった。
「さぁ、いかがいたしましょうか? AIによるオートメーションがなければ船の運用は難しいでしょ。このまま、大人しく降伏さえすれば船員の命は保障することはお約束しましょう。なにせ、彼らも皇帝陛下と同じ時を過ごしていた者達ですし」
「ちっ。何からなにまで知ってるな。お前らの目的はあたしか?」
グランドアース号の船員達はある出来事を機に一万二千年前から、
時空を超越していた。
緋音もまた船員らと同じように時を跳躍している者。
当時はまだ赤子だった。
この世界に到着後、グランドアース号は現代の緋音が住む宙域を漂流していた。
その際、神に導かれるように緋音の“育て親”である父が彼らを発見しそのまま保護されて今に至る。
緋音の父、「星森勉」は学者として代々天体を観測していた。
数万年前に起きた“超時空の歪”を研究していた。
そんな折、勉は彼らとの出会いにより、
“超時空の歪”が発生した事を立証できる時代の『生き証人』と遭遇したのだった。
――本来ならば、緋音の父が彼らと一緒に星を巡り飛鳥が持つ超新星機関を見つける予定だった。
しかし、緋音の父は生まれつき体が病弱だったこともあり、
娘の緋音が意思を受け継ぎ『真紅の緋音』となった。
ちなみに、なぜ宇宙海賊なのかは、一万二千年前まで遡る。
グランドアース号の初代船長が髑髏を掲げた。
緋音が成長しグランドアース号初航海時、
倉庫に保管されていたマストを彼女が見つけて、再び宇宙海賊を名乗ったのだった。
「まぁ、そう言うことです。もうじき、約束の時――。天魔の儀式が始まろうとしております。奴らの脅威から、再び皇帝陛下は人類をお救いになられます」
「訳がわからない。所詮、あたしは宇宙海賊もどきの小娘に過ぎない。それが、あたしをつけ狙う理由なのか……」
銀河帝国メルディスと地球の戦いを【裏】で糸を引いていた宇宙機械皇帝。
彼女も『一万二千年前』から姿を変えて生きている。
どのようにして、不滅の肉体を有したかは謎に包まれている。
目的も未だ不明ではある。
「陛下はお優しい方なのです。ですが、宿願を果すには、ある程度の犠牲も致し方なかったのです。しかし、あの戦いにより思いがけない『福音』を授かりました。ご子息のシオン様は原初・超新星機関を継承している可能性が大いにある地球の機動機甲兵器の“赤ツノ”の搭乗者を拿捕するため、地球へ向われました」
「剣持も私と同じ継承者でジ・オリジン?!」
「っと、余計なことを……。私の悪い癖です。おしゃべりが過ぎました。
今、地球のことはいいのです。星森緋音、大人しく降伏して下さい」
――緋音の頭の中は情報が駆け回り珍しく狼狽している。
それでも、彼女は答えを出し静かに口を開いた。
「……わかった。おめぇの言うことを聞く。だから、船員の命を保障しろ!」
「取引はせ・い・り・つです! では早速、私の屋敷(基地)へとご案内いたしましょう」
そう言うと、余裕を滲ませている伯爵は緋音へ接近した。
「相変わらず、詰が甘いっ! この銀河は撃たれる前に撃つが道理ッ!」
安直に彼女の間へと踏み込んだ伯爵は緋音が握っていた小宇宙銃剣の威力を思い知る事になった。