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STIGMA  作者: キタガワ
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1/11

アルベルトとニコル1

ライト文芸寄りのミステリ作品です。

舞台は、近代化の進んだ魔術のある世界。ファンタジーの要素は控えめで、どちらかといえばバディもののお仕事探偵小説です。


実務に長けた青年と、観察と推理を得意とする少女が、失踪や殺人といった事件を追います。

二人の捜査と、登場人物たちの活躍を楽しんでいただければ幸いです。


第一部は10万字前後を予定しています。

評価や感想をいただけると励みになります。よろしくお願いします!

「で、念のため確認するが、これまで魔術を使えたことはないと」

「そういうことになりますね」


 アルベルト・フォスターは、修道院からの紹介状と検査の結果を並べていた。就業希望者の確認を任されたが、通常ならアルベルトまでは回ってこない人材だった。


「名前はニコル・ハート」

「はい」


 アルベルトは黒い短髪をかき上げて、もう一度書面に目を落とした。本人の魔力反応無し。現場に出ることも多いというのに、いくらなんでも魔力のない者が担う仕事ではない。


 アルベルトが務めるのは、王立聖痕監察局のこの街の支局である。聖痕の登録や検査、就業の監督に加え、聖痕に関わる失踪や犯罪も調べる。アルベルトは、主に外へ出て調査をする監察官だった。


 デスクの反対側に座る女は、年齢およそ十七、十八歳といったところ。艶のある黒髪が肩にかかり、細い鼻筋から形のよい顎まで、顔立ちはすっきりしていた。書面に目を落とすと、まつ毛が頬の上に影を落とす。しかし顔を上げても表情は乏しく、何を考えているのか分かりにくかった。


「どうして皆さんそんな困った顔をするのでしょう」

「間違いが無いか確認しているからな」

「間違い、とは」

「育ったのは、この修道院で間違いないな」

「はい。孤児院も兼ねていました」

「身元を確かめられる親族は」

「両親は、幼い頃に亡くなりました。修道院に聞いていただければ」

「そこへ戻るつもりは」

「今のところはありませんし、なにより居場所がありません」


 居場所がない。それが実情なのだろう。魔力がないからといって、教会が追い出したりはしないはずだ。つまりこれは、この女自身の意志なのだ。


 アルベルトは溜息をついた。実のところ、これは茶番である。先輩局員からの情報で、彼女を採用する方針であることは知っていた。


 なぜなら、彼女には聖痕がある。


「まあとりあえず魔力が無いことについてはいったん置くとしてだ。監察局を選んだのは、修道院か」

「私です。聖痕の反応を確かめる方が足りないと伺いましたので」

「治安局でも募集はあるだろう。なぜうちに」

「見ての通り力には自信がないので。こちらなら、ほかにできる仕事があるかと思いました」

「ここも危険な現場へは行くが」

「はい。ですから、何を任せていただけるのか伺いたいです」


 アルベルトは紹介状へ目を戻した。仕事を探すよう勧められ、行先まで決めてもらったのだと思っていたが、本人が伝手を頼んだらしい。


「聖痕があるのに、本人の魔力が全く検出されない例は聞いたことがない」


 聖痕には独自の魔力がある。それを自分の魔術へ取り込めれば、扱える魔力が増し、以前より強い魔術を使えることが多い。

 しかしニコルは、取り込むための自身の魔力がない。聖痕由来の気配は分かるのに、通常の魔力は感知できず、魔術も使えなかった。


 アルベルトが書類に簡単に書き込む。これで調査は終わりである。とはいえ前例のない報告を上げれば、最悪ますます仕事が増える。それは勘弁願いたい。


「よし」と自分を励ますように呟き、アルベルトがペンを握る。


 現行検査では確認できず。


「なるほど。上手いですね。私も今後はそういった説明にします」

「我ながら適切な表現だと思っている」


 修道院から届いた登録の控えには、聖痕が現れたのは十一歳頃とある。紋様の位置と形も記されていた。それとは別に、紹介状には監察局で働きたいという本人の希望が書かれている。


「一応、聖痕者としては住所と担当支局の変更も行う。担当は俺になるそうだ」

「担当というのは」

「今後お前が何かやらかせば、俺のところに連絡が来る」


 そこでドアがノックされた。


「入るぞ」


 長身で筋骨隆々とした三十代後半の男が、部屋へ入ってきた。茶髪を短く刈り、太い眉と無精ひげのある顎が目立つ、精悍な強面だった。この街の支局長、オリヴァー・クラークである。

 オリヴァー自身も聖痕発現者だが、今では送り出される側より、送り出す側の方がよほど長い。


「面談は済んだか」

「結果は変わりません。本人の魔力は確認できませんが、聖痕反応の識別はできているようです」

「なら、同じ検査はここまでだ。ニコル・ハートだな。仕事の希望は紹介状にある通りでいいな」

「はい」


 オリヴァーは持ってきた書面をアルベルトへ渡した。


「まずは現場に同行してもらう。反応の確認から始めて、ほかに何ができるかも見たい。採用は前向きに考えている。それでよければ」


 そう、魔術の素養が全くないニコルを雇う理由は、ひとえに彼女が聖痕由来の魔力を検知できるからなのである。聖痕の無いアルベルトにはどうしても出来ないことが、彼女には出来る。若干の不公平さを感じないこともないが、必要な人材ではあるのだ。


「お願いします」

「住まいは」

「まだ決めていません」

「当面は局の部屋を使ってくれ。勤務の扱いが決まるまでの費用も、こちらで確認する」


 アルベルトは書面を読んだ。調査協力者としての同行。その担当欄には、自分の名があった。


「俺が担当ですか」

「お前のところには、聖痕反応を確かめる者が要る。いつまでも他所から借りてはいられん」

「魔術を使えない人間を、現場へ連れていくことになりますが」

「聖痕の方が重要だろうが。危ないと思えば引く判断をお前がしろ」

「毎回、面倒を見ろと」

「人を連れて出るなら、そこまでが仕事だ。人員が足りない時は言え。送り出す責任はこちらで持つ」


 オリヴァーがニコルを見たので、つられてアルベルトも見る。相変わらず表情に乏しい。実質採用が決まったようなもので、自分から申請したなら多少は喜んでも良さそうなものだが。


「現場ではアルベルトの指示に従ってくれ。できないことは、その場で伝えていい」

「はい」

「お前も、最初から彼女がなんでもできると思うなよ」

「わかってますって」


 返事が少し強くなったが、オリヴァーは笑った。


「では任せる。部屋まで案内してやってくれ」


 アルベルトは鍵を受け取った。局内の一時滞在用の部屋だった。聖痕の検査や手続きのために、短期間泊まる者もいる。

 オリヴァーはほかに確認することがないか二人を見てから、部屋を出ていった。


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