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最終章 〜神々の結論

ラサリオンの居室において、

帝国のラサリオン。

草原のエルサーナ。

思索者ユーム

の三人は一同に会した。

 

この世界の運命を決めるために。


 何の説明もいらない。

 そのことは、ユームには分かった。


「同意だな」


ユームはふたりに向かって、その問いを発した。

この瞬間、世界の運命が決まる。


エルサーナが答えた。


「不同意だ」


意外な答えだった。

この男は、まだ私のレベルまで達していなかったのか。


「何故だ」 


「私は、この世界を継続させたい」


「それは無理だ。お前にも分かっているだろう、エルサーナ。

人の中にひとたび、超越世界の認識に至ったものが出現した以上、この世界を続ける必要はない。この世界はその存在に対する不可知の根源的な疑問があってこそ、成立する世界だ。

人は、我ら三人によって、その回答を得たのだぞ」


「我ら三人のみが超越世界に行けばよい」


「そんなことができるわけがないだろう」


言った途端にユームは、思い至った。


「そうか、再構成か」


「そうだ」


「この世界に我ら三人は存在しなかった。人びとの間から我らの記憶を消す。そして世界を再構成する。確かに我ら三人がそう望めば、それは可能だ。しかしこの不完全な世界をこれ以上続けることに何の意味があるのだ」


エルサーナは、答えなかった。


「ラサリオン、お前はどうしたいのだ」


「この世界の継続」


「お前もか」


 ユームは、気付いた。

このふたりは、この世界を愛してしまったのだな、と。


 そうか。生を受けて以来、この世界には関わらず、ひたすら思索を続けた私と違って、このふたりは、この不完全な人間の世界に濃厚に関わったのだったな。たとえ、常ならぬ身であることを知った上であったとしても。


 この時、ラサリオンとエルサーナと、そしてユームも同じことを考えていた。

 言葉を発することはなくとも、三人にはそれが分かった。


 そのことを言葉にしたのは、ラサリオンだった。


「世界が再構成できるのなら、私も、超越世界の認識など持つことなく、ただの男としてこの世界を生きてみたかったぞ」


 ユームは思った。

私は、どう生きたのだろう。

お父さん、お母さん。


 ユームは、この世界では一度も親しく言葉を交わすことさえなかった両親のことを思った。

 あなたたちの息子として、親孝行をいっぱいして。

 そして、この世界の疑問を少しでも知ろうとして、学問に励んで。父と同じく村の教師として、自分が知ったことを、精一杯子供たちに教えたろう。


 エルサーナは思った。

 あんな形ではなく、父を助けて、知略の限りを尽くして、草原の統一を目指す。

 セレナとエルラシオンのよき兄として、その生涯を過ごす。


 そして、マンドハイ。

私は、そなたの記憶からも消えてしまうのだな。

 マンドハイ、愛していたぞ


 たとえ、その記憶を消したとしても、超越世界の認識に到達してしまった者が、同一の人格を持って再構成された世界でその生を受けることは許されない。

三人には、そのことは分かっていた。


エルサーナが言葉を発した


「我ら三人が存在を消し、人びとの記憶から消えたあと、世界は、どのように再構成されるのだろうな」


 三人ではない、アサカとアークとラルフアーサもだ。

 ラサリオンはそう思ったが、ふたりには何も言わなかった。どうせ、分かることだ。


 今日あることは、もう分かっていた。

 ラサリオンはその三人にも告げた。三人は直ぐに理解した。三人はこの世界にいた間、常に私とともにいた。主体的なことは何も行わなかった。

 だが、それが三人の運命だったのだろう。私もそのように接してきた。

 あの三人はこの世界に残るには美しすぎる。


 超越世界に飛翔すれば、むろん再構成された世界がどのように続いていくのか、そして継続されることになったこの世界が再び永き時を経て、どのように終わるのか、そして、そこに至るまでに、どのような歴史が紡ぎ出されるのか、全て分かる。

 が、その身をこの世界に置いている間は三人にも、そこまでは分からない。

 超越世界に飛翔しても、もしもそういう感情が残るなら、彼らは自らがこの世界に身をおいた、今の時代を最も懐かしく観るであろう。


 自らの上に仰ぐ存在がいないとなれば、人としてどれだけの才能と力量を示すだろう。

 そう思わせる人間は……


 何人もいた。


 さらに継続する世界で、後世まで永く伝説となる英雄たちが生まれるだろう。

 そう、英雄たちの物語が始まるのだ。


「では、そろそろ行くか」


「うむ」


「分かった」


 この時、ラサリオン、エルサーナ、そしてユームは、一様に思った。


 超越世界に至り、おのれも超越者となったならば、その属性により我らが超越認識を持たない人格として生を受けることになる世界を創造してみよう、超越者の行うゲームとして。 

 だが、果たして、それが可能なレベルまで飛翔することになるのかどうか、それはまだ分からないが。



ラサリオンは、十九年。

エルサーナは、十七年。

ユームも、十七年。


彼らは、ラサリオンの居室から思念を飛ばし、彼らがそれだけの時間を過ごした、この世界の全容を最後に見た。


彼らは世界に対して、超越世界に飛翔してのちは、意味を持たなくなるであろう言葉を。


平凡だが、この世界のあらゆるものが願っている言葉を遺した。


 この世界に、かつて存在した、全ての生きとし生けるものに

 この世界に、今、存在する、全ての生きとし生けるものに

 この世界に、やがて存在することになる全ての生きとし生けるものに


幸いあれ


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