エルサーナ叙事詩4 〜草原統一
草原の部族、セイルーンの若者に嫁いだマンドハイ。
夫となった若者は、快活な働き者だった。
夫婦となった翌年、娘トロルトが、その二年後に息子バルスが産まれた。
マンドハイが娘時代から嫁ぐまで身近で仕えたエルサーナとセレナ兄妹のことを忘れることはない。
しかし、日々の営みは新たな家族を、マンドハイにとってかけがえのない存在にさせていった。
夫を愛し、ふたりの子供を愛し、マンドハイは幸せに暮らしていた。
が、その幸福な日々は突然終わった。
嫁してより五年。夫が亡くなったのである。
病いのためであったが、急死だった。
マンドハイは、茫然自失した。
葬送の日々が過ぎた。
マンドハイは、再びアルーサに戻りたいと思った。
また、エルサーナとセレナの兄妹のもとに戻りたいと思った。
だが、我が子はこのセイルーンで産まれ、育った。セイルーンのことしか知らない。夫の両親も健在である。それは許されることではなかった。
エルサーナが、父であるアルーサの汗、エルラスが日常を送るゲルを訪れた。
稀なことである。
エルサーナは父に告げた。
「父上」
「何かな」
「草原を統一します」
エルラスは、エルサーナを暫し見つめた。
「草原の統一か。
それは俺がやろうと思っていた。」
エルラスは続けた。
「セルが病に臥したとき、最後まで看取ろう。そしてそのあと、草原の統一に向けて事を起こそう。そう考えていた」
エルラスはやや瞑目したあと、再び言葉を継いだ。
「セルが亡くなった直後、お前は変貌した。何があったのか俺には分からぬ。俺に分かることではない、ということだけは分かるような気がする」
この言葉を聴いても、エルサーナは何も言わなかった。ただ、黙って、父の顔を見続けた。
「変貌したお前を見ていると、草原の統一などということを考えること自体、馬鹿馬鹿しくなった。そんなことはどうでもいい。お前という人間を見ているほうが余程大切なことだ。そう思うようになった」
ここまで話して、エルラスはあらためて、エルサーナを凝視した。
「草原の統一か。お前がそのようなことを言い出すとはな。何があった」
「私には会わねばならない人がいます」
「ん」
「その人に会うには、草原を横断しなければなりません」
エルラスは、暫く、エルサーナを見つめた。
「どうせ草原を横断するならついでに統一しておこうということか。分かった」
エルラスは、アルーサにとどまった。
エルサーナは移動を開始した。草原にやって来て四年になるルーレアート。そしてその教え子、嫡子エルラシオンはエルサーナに同行した。
エルサーナが、アークトゥルスの背に跨がり、聖剣エターナルをその身に佩いて、草原を駆けた。
草原の部族の首長にエルサーナは告げた。
「草原をひとつにする。以後はアルーサの命に服せ」
「承りました」
会話はこれだけだった。
エルサーナに異を唱えて応じる首長はいなかった。
それは許されることではない。
首長たちは、それが分かった。
エルサーナの草原横断。それは草原の全部族に、燎原の火のように、直ちに広がった。
マンドハイもそれを聞いた。
「エルサーナ様が、いずれこのセイルーンにも来られる」
マンドハイは、待ち望んだ。
エルサーナがセイルーンを訪れた。
セイルーンの首長に告げた。
首長は、エルサーナに従った。
が、エルサーナは常とは異なり、そこにとどまった。
マンドハイのもとにエルサーナがやって来た。
マンドハイはゲルに我が子を残し、見渡す限りの草原の中、ひとり立つエルサーナの元に歩を進めた。
「エルサーナ様」
マンドハイは、涙にくれた。
「マンドハイ、私のもとへ来てくれ」
瞬間、マンドハイはセイルーンで暮らした日々を忘れた。
「はい、はい。またエルサーナ様をお世話させていただきます」
「ああ、世話になるぞ」
マンドハイは、泣きながら頷き続けた。
「マンドハイ」
「はい」
「そなたは、エルサーナの妻になるのだ」




