89話 最後の夢は永遠にサメズ
夢から生還することができ、残すは脱出だけとなった。帰り道は道中で残してきた目印を頼りに禁足地の出口を抜ける。
魂喰いは夢から覚めて以来、一度も出会わなかった。あれだけ痛めつけたから諦めたのかと思っていたけど、司教さん曰く、「自分のテリトリーに入った獲物をみすみす逃すとは思えない。逆に不気味だ」と言っていた。
日が沈みかけてきた頃、やっと村に辿り着くことができた。僕とリキくんはまともに歩けなかった為、ガンジくんに担いでもらったが、その揺れでリキくんはますます具合悪くなって吐いていた。
「うわあああん!!!司教様ぁぁ〜!!!リキ君〜〜!!無事で良かった〜〜!!!」
ボロボロの僕らが帰って来たことは瞬く間に村全体に広まり、修道女のお姉さんが泣きながら飛び出してきた。それもそのはず、禁足地に足を踏み入れた者が無事に帰ってきたのは一人だけ……ずっと気が気でなかったはずだ。こうして全員が帰って来れたのは奇跡に近い。
「スンッ、スンッ…ありがとぉ…ガンジ君、ロク君……でも………!!」
あれ?なんか空気が…?ガンジくんもそれを察してか額に冷や汗を浮かべていた。
「勝手に禁足地に行くなんてどういうつもり!?こっちは王都から帰ってきたら居なくなってて気が気でなかったんだから!!」
「「ご、ごめんなさい…」」
「謝って済む問題じゃないの!君達だって命を落としてたかもしれないのよ!!」
「「はい…すみません…」」
この後、みっちりと説教され、危険なことはもうしないと約束した。ガンジくんと僕が解放されると、今度はリキくんが司教さんとお姉さんによるスペシャル説教コースを受けることになった。ただでさえ謎の酔いで意気消沈していたのに説教が終わった時には枯れた草のように萎れていた。
「はあ……禁足地なんて行かなきゃ良かったぜ…」
「そもそも禁足地に行った理由はなんだったのだ?」
お説教の後、夕食、お風呂等を済ませると、布団を引いて3人で丸くなって今回の事について話し合う。
「修行だよ」
「修行?なんで?」
「だって森の主だぜ?倒せば強くなれると思うだろ!」
「それはまた、無謀な…。だがその気持ちは分からんでもない」
リキくんらしいな。
「それにしても、アイツら攻撃当たらなくてビビったぜ。司教のおっさんが来てくれなかったら死んでたかもな~。なははははー!!」
「いや死んでたが……」
「笑えないよ…その冗談……」
「それでいったらロク…お主もかなり危険な状態だったんだぞ?ほんの少しの間だが呼吸も止まっていたのだからな」
「起きたときも聞いたけどそんな状態だったんだね…。あの時魂抜かれたんだけど…その後全く覚えてないんだよね。気付いたら目が覚めて……リキくんはあの後覚えてる?」
「あの後?う~ん……。いや、分かんねえ。アイツがロクの魂取ったと思ったら風が吹いて、気付いたら現実に戻ってたな」
「風?」
「おう。周りのもん全部ズバズバ切ってて…森が無くなって…あのバケモン達も切られて…俺も切られた。そしたら突然目の前が真っ暗になって目が覚めたんだ。てっきりお前が何かしたんだと思ってたわ」
「う〜ん…」
その話、どこかで聞いた気がするな…。何だったっけな…?
頭を悩ませていると、2人がこっちを見てじっと待っていた。完全に僕の回答待ちだ。今考えても出てくる気がしなかったので首を横に振って分からないことを示した。
「そっか…まあ、魂取られてたんだし分かる訳ねぇか」
「無意識に魔法を放ったのかもな。文字通り、魂の一撃というわけだ」
「あはは…そうかも。何で効いたのかよく分かんないけど」
夢を支配した魂喰いには、風魔法や普通の攻撃が通じなかった。それこそ、あの時リキくんがいなければ…
「あ…そういえばリキくん。魂喰いに攻撃出来てたよね?あれって霊魔法?」
「何!?初耳だぞ!?リキ殿も扱えるのか?」
「ああ〜あれな。なんか出来なくなってた」
「あ、そうなの?」
「夢の中の感覚と今の感覚、ズレがあってさー…思うように出せねぇ」
「霊魔法はイメージしづらいからな。夢の中で出せたのは霊的エネルギーが表に出やすい精神体だったからだろう」
なるほど…ということは、やっぱりリキくんは霊魔法を使えるのか。良いなぁー…。
「しかし…残念だ。リキ殿が霊魔法を使えていたら良い修行相手になっていただろうに…」
「お?なんだ?俺は魔法なしでも強ぇぞ?」
指の骨をパキパキ鳴らし挑戦的な笑みを浮かべる。今のはガンジくんが悪い。あの発言は煽っているとしか思えない。
「ん?リキ殿が強いのは確かだが、流石に勝てんぞ?」
「霊魔法使いに勝てる者は霊魔法使いだけ。世間でもそんな風に言われるほど強いのだ。——そのはずなのだが…」
「?」
今こっちを見たような…?
「だったら試してみようぜ?寝る前の軽い運動といこうや」
「面白い…!正直森での戦いは消化不良だったのでな。発散させてもらおうか」
「おーし、じゃあ行こうか。ロク審判な」
「えっ!?ホントに今からやるの!?明日にしようよ…」
どんな体力してるんだこの2人…。
リキくんが外に出ようと勢い良く扉を開けると、目の前には司教さんが立っていた。笑顔で。
「「「あ……」」」
「寝なさい」
「「「はい…」」」
司教さんの圧に負け、対決は明日に持ち越して今日は大人しく寝る事になった。確かに、霊魔法使いは強いみたい。司教さんの圧勝だった。
布団の中に入り、枕に頭を下ろすと違和感を感じた。間に何か固いものがある?異物を取るべく、間に手を突っ込んでまさぐると、その異物が指に触れた。丸くて穴が空いている。穴に指を入れると魔力が吸われた。これ…あの呪物だ。
ずっと首にかけていると思っていたのにいつの間にか外れてたみたいだ。今思えば今日の朝からかけてなかった気がする。
……まあ、いっか。無くしても困るし、また首にかけておこう。
改めて頭を下ろすとすぐに睡魔がやってきた。今日は…疲れたな……早く……寝よう……。
月明かりが差し込む部屋の中。子供達が仲良く眠っている。誰に言うまでもなく独り言を呟く。
『良い夜ね』
部屋の外には外部からの侵入を防ぐため、男が結界を張っている。無駄だけど。
『また会おうって「約束」…したものね』
悪魔との契約は絶対。例えそれが相手の記憶に無いものでも約束した事実は変わらない。だからこうして今目の前に現れることが出来る。私が禁足地を出られる唯一の方法。だから私は夜まで手を出さなかったの。夜に会おうって約束したから。
『見逃すと思った…?そんな訳ないじゃない。今度はじっくり喰い尽くしてあげる…!』
前みたいに魂を取り上げるとまた謎の存在に抵抗される可能性がある。…ならほんの少しづつなら?抵抗する力だって羽虫の羽ばたきくらいの風力になるのじゃない?
『…そうだ!せっかくだし、好きな子に化けてイイコトしてあげる♡それが最後の夢だなんて幸せでしょ?』
そっと手を伸ばし、細い首に手をかけた。その瞬間、中に吸い込まれ侵入する。さて…あの風の子はどこにいるか…な……?
あ……れ……?何………………………………?さむ…………………………………っ…………………………………。
「冷たっ!」
突然首元から夏ではありえない程の冷たさを感じて飛び起きる。見ると指輪がほのかに白銀色に光っていた。まさか、指輪の暴走!?反射的に首にかけてた紐を外して部屋の隅に放り投げる。しかし、僕の懸念とは裏腹に、光は次第に小さくなっていき、何事も無かったかのように消えた。
「大丈夫ですか!?」
部屋の扉が勢いよく引かれ、ランタンを持った司教さんと目が合う。その様子から外で僕らを守っていたのだと分かった。
「あ…すみません。ちょっと指輪が冷たくなってビックリしちゃいました……」
「は、はぁ…?指輪…ですか?」
「んん〜……騒々しい…何だ?」
起きてしまったガンジくんに謝って何でも無い事を伝えるとすぐに寝てしまった。司教さんも無事なことに安堵し、「何かあったらすぐに呼んでください」と優しく微笑んでから引き戸を閉めた。
あ〜恥かいた…。放り投げた指輪を拾い上げ、再び布団に入る。それにしても…急に指輪が冷たくなるなんて初めてだ。今までそんなこと無かったのに。
僕を呪い殺すつもりなのかもしれない…。そんな一抹の不安を抱えながらゆっくりと目を閉じた。
これにて本当に森の禁足地、魂喰い編を終わります。
ここまで見てくれてありがとうございました。




