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31 コトリさんの移住事情

「ほほ~。ばあちゃんち、むしゃしゅぎょーのひとがすむのか」


 家に帰ってミミにさっきのことを話すと、昼食用と思われるスライムを叩く手を止めて、じっくり考え込んだ。


「……キムラン。むしゃしゅぎょーって、どんなたべものだ?」

「武者修行は食べ物じゃないぞ~ミミ。武人として強くなるために強いやつを探して戦うことだ」

「かりと、どうちがう。かりもたたかう。キムランたちも、みんなしゅぎょーしてる?」

「ハッハッハ……えーと、どう違うんだろうな」


 ミミとの会話はたまーにナナメ上に飛んでいくから、補正がきかない。オレもさして頭のいいほうじゃないから説明を諦めた。スマホがあったら叫びたい。OKグー〇ル。教えてグーグ〇先生っ!! 武者修行って何!? オレもわかんなくなってきたよ!


「まぁ修行のことは置いといて、ミミ。コトリさんはこれから村に住むんだから、挨拶に行こう」

「うむ。じゃあ、ステーキつくってもっていこう」


 スライムをわしづかみにしているミミに、頷くしかないオレである。




 場をドロシーばあちゃん宅に移し。

 ばあちゃんがお茶と手作りお菓子を出して、コトリさんをもてなしていた。


「あんたみたいに若いおなごが一人でこんな僻地まで旅をしてくるなんて、よっぽどのことだろう。事情を聞かせてはくれんかの」


 大事な話の最中に口を挟むのは良くない。オレは二人の話が終わるのを、玄関前に座って待つことにした。玄関周りには、ビリーから話を聞いたのか村人が何人か集まってきている。あれが旅の女の子かい、と囁きあっている。


 コトリさんは干しフルーツを食み、お茶をすすり、おかわりを飲みほしてから一気に語りだす。


「私の生家は、昔から魔法使いを多く輩出しているんです。なのに、私の生まれ持ったスキルは『必殺』『豪力』。スキル鑑定士に、魔法の才が微塵もないと言われたんだ! せめて世界最強の剣士とならねば祖先に顔向けできん! だから強力なモンスターが生息すると噂のここで修行に励みたいんだ!」


 ミシィッ!!

 感情的に力説するコトリさんの手の中で、木製のコップが粉々になった。

 明日は我が身……。自分と砕けたコップの未来が重なったのか、オレの後ろで様子を窺っていた男たちが忍び足で逃げ出した。

 ミミは素手でコップを砕くコトリを恐れず、山盛りのスライムステーキ&採れたてフルーツをテーブルに置いて言う。


「はなしはきかせてもらった、コトリ。つよくなりたいなら、とにかくたべろ。たくさんたべろ。たべるこはそだつ、キムランがいってた」


 それ多分、“寝る子は育つ”

 ひたすら食ったら育つのはぜい肉だ。


「キムラン殿というのは」

「あこにいる。わたしがひろってそだてている」

「どーも、キムランでーす」


 お笑い芸人がステージに上がるようなノリでお邪魔させてもらう。

 ミミの中ではどこまでもオレは“行き倒れていたのを拾って育てている”でミミが親なのである。ミミがいいなら、もうそれでいいんじゃないかと思うわー。


「拾って?? 育て……?」


 ミミの説明が雑すぎて、コトリさんが置いてけぼりを食らってしまった。目を白黒させてオレとミミを交互に見ている。


「オレはナガレビトってやつ。で、ミミはこの世界に流れ着いたオレを、居候させてくれてるんだ」

「ああ、そういうことか。キムラン殿もよそからここに移住したクチなのだな。私以外にも移住者がいるのは安心する」


 コトリさん、オレも移住組とわかってホッとしたようだ。


「大丈夫だよコトリさん。ここの人みんな親切だし、暮らしやすいよ」

「ほっほっ。キムランは馴染むのが異様に早かったねぇ。子どもたちに混じってよく遊んでいるし」

「キムラン、よくねてよくあそぶ」


 二人のフォローがトドメに聞こえる。泣いちゃうよ、オレ。コトリさんがオレたちを見てクスクス笑っている。


「コトリの事情はわかった。村長にはわしからも話を通しておくから、コトリはみんなに挨拶してきな。ここに住むからには、村の仕事も手伝ってもらうことになるだろうからね」

「承知した、ドロシー殿。その前に……これを食べてからでも構わないか。料理は温かいうちが一番美味しい」


 ミミが持ってきた料理(軽く見積もって3人前)をペロリと平らげ、コトリさんはさっそうと村人たちへの挨拶まわりに向かった。

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