第2話 ひゃっはーステータスだ!
チュンチュン
ジーザが、小鳥の鳴き声で目覚めるのもこれで10回目
魔法という存在に気付いてから1週間が経過していた。
豊穣の魔力が込められた札の劇的な効果に度肝を抜かれたジーザは、これをどうにか上手く利用出来ないか模索し始めたのである。
それからというもの命の危険に晒されて以外では、珍しく必死に現地の言葉を学んでいた。
元来、悪知恵は働く方であったのと野性的な勘で、瞬く間に語学は上達していき、今では日常会話程度であれば問題なくこなせる。
もちろん、ルチアの全面的な協力があっての事であるが……。
そしてルチアとの話の中で、流石にジーザでもいい加減、ここが前の世界とは全く違う異世界であることに気付かされていた。
魔法や魔物の存在を始め、
この村が大陸の東端に位置するルベール王国の更に東端にあるという事や
ナディアが神官をしているシス教というのが国教である事、ここ最近の戦乱の事まで
多岐に渡る違いを聞けば当然と言えば当然である。
さて、こんな小難しい話を真面目に聞くのもガキの頃以来という事で、
お勉強で溜まったフラストレーションは、森の動物達に向けられた。
樹木の伐採は、すぐに当分先の分まで終わってしまったため、
猪や鹿、時には熊まで血に飢えたジーザに狙われたのである。
狩りの方法は、至ってシンプル
獣道を見付けて、樹の上で待つというもの。
ガルムから、通る時間帯を図る方法として、
糞の状態から推し測るものと
果実を経路近くの草むらに置いて、その食べ滓の状態から、鼻の良い大型動物の通りそうな時間を推し測るやり方を教わっていたため、
獲物が通りそうな時間帯に臭い消しの土と既に狩った獣の毛を身体中にまぶして樹上で待機するのである。
獲物を発見してからは、ガルムから借りた小さな斧を投げて、脚等を封じた後、自慢のマイ手斧で止めを刺す。
鹿や猪程度であれば、頭を一撃のもとかち割れば終わり。
昨日狩った体長2m半近い熊、ブラウンベアでも不意を付いた投擲から、跳び降り様の振り下ろしに、横からの凪ぎ払いを何発か喰らわして弱らせた後、
「ヒャッハー!っ」と頭部を手斧の一番分厚い部分で力任せにぶっ叩いて終わりだった。
樹木を一振りで倒す元々持っていた怪力が遺憾無く発揮されたのは、もちろんのこと、
獲物を倒す度に力が漲ってくるため、いつも以上に絶好調であったのだ。
フラストレーションを発散したら、あとは獲物を引きずり家路に。
頭が吹っ飛ばされた状態なので家に着く頃には、血抜きも自然と出来た状態でガルムに渡すと、流石に驚かれたが、大物狩りを素直に喜んでくれた。
ここまで簡単に狩れてしまう……そもそも簡単に獲物を見付けられる環境だとジーザとしても、そこまで自分で確保しておく必要性を感じくなっていたので、獲物の処置は、ガルム任せにしていたのである。
一部は、自分達の食卓用に、残りの食べきれない分は、村中にお裾分けしているようで、代わりに菜園にない種類の木の実や果物に加え木の食器類といったものが増えていく。
ルチア曰く
「半年前にナディア様が村に来て下さって、村の食料事情は劇的に良くなったんです。……ただ、10年前の戦乱で男手が減ってしまったせいで狩りの担い手が少なくなって…………。
幸いうちは、お父さんが狩人も出来たから、大丈夫だったんですけど、他のうちはそうじゃないから、お肉のお裾分けは、凄く喜ばれるんですよ。」
とのことである。
ジーザにとってはどうでも良い事であったが、食事のバリエーションが増えるのは大歓迎であった。
本日の朝食もおかげで、彩り豊かである。
燻製肉の炙りをかじりながら、今日の予定を考えるジーザ
正直、あまり浮かばない。
フラストレーションは、昨日発散してしまったからだ。
「ガルム爺さん、今日はどうするんだ?」
「儂は、菜園の草むしりだな。雑草が少しでもあると祈祷札が使えなくなるからね。」
「……草むしり…………それは勘弁だな。」
「その方が良い。お前さんのお陰で、色々助かってるのは、有り難い事だか、今日くらいは、のんびり休んだらどうだね?昨日の大物狩りで疲れも溜まってるだろうし……。」
「休みか……。」
荒野に居た頃は、水や食料、それにガソリンを探して日々、部下を率いて駆けずり回っていたため、丸一日休みという感覚がいまいちピンと来ない。
「う~ん……いや、待てよ。少し足を延ばして、この辺り一帯を散策してみる良い機会か……。」
この1週間、目標にしていた言葉の習熟とそのフラストレーション発散のための狩りしかしていない。
当然、行動範囲も家と狩り場、たまに水場になっている小川くらいのものである。
「いずれ俺のもんになる村だ。少しは地理ってやつを知っとかないとな。」
腕組みをしながら、うんうんと頷くジーザ
「何か良い事でもあったんですかジーザさん。ニコニコされて。」
「んっ?、大した事じゃ……いや、今日もルチアが可愛いからなっ。」
1週間の個人レッスンでルチアともかなり打ち解けいたジーザは、軽口を叩く。
「あうっ…………。」
ルチアは、途端に言葉を詰まらせて真っ赤になる。
何度やってもこの反応は変わらない。
「はは、そうルチアをからかわんでくれよ。」
「ガルム爺さんこそ、機嫌良さそうじゃねぇか。何か良い事でもあったのか?」
「いやいや、お前さんのお陰でルチアが毎日楽しそうだからね。」
「もう、お義父さんっ!!」
その一言で耳まで真っ赤にしながら、台所の方に逃げてしまうルチア
1週間前までは、特段気にしていなかったのであるが、ガルムはルチアと血の繋がりのある父親ではないとの事であった。
詳しい事は聞けていないが、戦乱で両親が亡くなったルチアをガルムが引き取ったらしい。
物心付いた頃から、親はもちろんろくに世話してくれる人なんていなかったジーザにとっては羨ましい話でしかないが、
逆に何の得にもならないのにガキ一人を育てたガルムに若干の畏敬の念を覚えるのだった。
「……あれ、そういえばルチア、飯は?」
……何とかルチアを取りなして、美味しい朝食にありつくのに結局、小一時間もかかった。
燻製猪肉の炙りに鹿肉のスープ、木の実と果物の盛り合わせで腹が膨れたら、
部屋の枕元に置いてある手斧を背負って
いざ散策の開始である。
朝食前の一件で太陽は完全に顔を出している。
村人達も農作業や牧畜の準備を終えて家々を出る所であった。
ジーザとしては、面識がないのだが、お裾分けの際にルチアが居候の手柄である旨伝えてるようで、向こうから笑顔で挨拶してくる。
悪い気はしないので軽く手を上げて応えるジーザ
「……確かにガキと爺さん婆さんばっかりだな。」
ルチアによると14歳ぐらいが村のこどもで最年長グループとの事である。
思いの外、10年前まで続いていた戦乱とやらの爪痕は、深い。
「ふん、世の中が荒れりゃあ何処も同じようなもんか……。」
これについても特に可哀想だとか負の感情はない。
荒野に生きた者にとって奪うか奪われるか、弱肉強食、そうなるのが当たり前という感覚なのである。
そうこうしている内に、村を半周して西端まで着いてしまう。
周囲1kmに満たない村であるから、ゆっくり歩いても10分そこそこしかかからない。
西端側は、ナディアの評判を聞いて移住してきた家族が多い。
比較的若い夫婦が多いのだか、割と街の方から来たらしく狩りはもちろん、農耕、牧畜といった分野でも不得手らしい。
それでも問題なく暮らしていけるのは、ナディアの豊穣の祈祷札様様であった。
そのため、西側の村人には、熱狂的なナディアの信者が多いようである。
「う~ん、村の立地は、分かったが、大して得るもんはないな……。」
村の西端から更に西方は、草原になっており、辛うじて人が踏み固めたと分かる粗末な街道が続いている。
10km程先に町が一体になったような砦があるらしいのだが、なだらかながらも存在する起伏に隠れて、視力が如何に良かろうが確認する事は出来ない。
ジーザは、あまりの収穫のなさにつまらなそうに小石を蹴って、踵を返す。
「お次は、ナディアの所だな。村の集会場なんか教会なんか今一はっきりしね~とこだけど。」
2度目となる2階建ての建物
中に入ると前回と同じようにカウンターの奥に男が座っている。
「オルロフ……だっけ。一番用心しなくちゃならねぇ~相手じゃあるが、一番良い情報を持ってそうなのもアイツな気がするからな…………っちわ~!」
ジーザの言葉に軽く手を上げて返すオルロフ
相変わらず涼しげな笑みを湛えている。
「そろそろ、来る頃かなと思ってたよ。」
「……へぇ~、どうしてまた?一介の旅人の動きを」
「ジーザさん、だったよな?あんたがその一介の旅人だなんて考えられるのは、気の良い村人くらいのもんだよ。
その立派な体格の事じゃない、その目、その顔付き、醸し出す雰囲気からするとね……。」
ジーザは、ニヤリとすると手近な椅子にドカッと座り、ふんぞり返るような姿勢を取る。
「まあ、そりゃそうだわな。俺も正直ちょっしたお裾分けくらいで、良い人みたいに俺を扱うこの村の脳天気さには、逆に何とも言えねぇ~気分になったしよ。」
「正直なことだな……ハッ!!」
次の瞬間、一足跳びにカウンターを乗り越えジーザの元へ駆けるオルロフ
ジーザも反応して背中の手斧を抜こうとするが、不自然な程の加速を見せたオルロフが得物を突き付けそれを許さない。
「うっ……。」
一言も発することが出来ないまま、両手にそれぞれ握られた2本の短剣を交差した状態で喉元につき付けられたのである。
「……正直ついでに、お前さんの素性やら色々聞かせて貰おうか。」
しばしの沈黙の後、大きく溜め息をつくジーザ
両手を軽く掲げる。
「分かった分かった、俺の負けだ。何でも話すから、その物騒なもんを下げてくれ。
小心者な俺が話をするにはちと辛い状況だからよっ。」
「フッ、よく言う……豪胆なもんだ。」
オルロフは、ゆっくりと下がりながら、短剣を腰の左右の鞘に納める。
ジーザはというと先程まで刃を宛がわれていた首筋に手をやりピューッと口笛を吹く。
「今の急な加速も魔法ってやつか?……手斧を構える事すらできなかったぜ。」
「いや、あれは俺のアビリティだよ。
まあ、魔法も神官や魔術士辺りのアビリティの一つだけどな。」
「……アビリティね……。」
どうやら魔法以外にもまだまだこの世界には、異なる力があるらしい。
それをよく知らない限り村の支配には、程遠い事を肌で感じたジーザであった。
「さて、先ずはステータスの開示をして貰おうか?」
「……?」
んっと小首を傾げるジープに先程とはまた違った微妙な間が空く。
「ステータスの開示だよ、開示っ!」
少し大きな声で何かしらを促すオルロフであるが、ジーザは、怪訝そうな顔をして固まるしかない。
「……もしかして、ステータスの存在を知らないのか?…いや、アビリティも知らない様だし……そうなのか?」
「ああ、さっきから何の事かさっぱりだ。」
腕組みをして何事か考え込むオルロフ。
「おいおい、黙るなよ。こっちは訳が分かってないんだからよ~。」
オルロフは、長い沈黙の後、ジーザに言葉をかける。
「…………本当は、心の中で思うだけで良いんだが、『ステータス』って言ってみな。」
「?……ステータス、おっ!?何か変な箱が出てきたぞっ。」
ジーザの反応を確認すると続けて
「じゃあ、次は『フルオープン』と言ってみてくれ。」
「……フルオープン。」
「……よし、見えた。これがステータスの開示要領だ。」
ジーザは、オルロフも見えているであろうステータスとやらをマジマジと眺める。
――――――
名前:ジーザ
種族:人
性別:オス
年齢:23歳
身長:231cm
体重:220kg
出身地:カントー
所属:なし
業:➖98 極悪
徳:➖99 非道
Lv:12
状態:正常
体力:37/37
魔力:5/5
筋力:40
反応:13
耐久:27
持久:27
職業:なし
能力:なし
技能:拳闘術Ⅰ、斧術Ⅱ、投擲術Ⅱ、索敵術Ⅱ、隠密術Ⅰ、馬術Ⅰ
加護:なし
装備:アイアンアックス、レジン(樹脂)の肩当て、鋲打ち腕当て、レジンの脛当て、隷属の腕輪
――――――
何もない空間に現れたジーザのステータスウィンドウ
ジーザ、オルロフ、共に暫くの間、黙々と内容に目を通す。
もちろん、ジーザは、この異世界の文字など分かるわけがないのだが、どういうわけかステータスの内容の意味が伝わってくるのであった。
「読めねぇのに意味が分かるっつ~のは、不思議な感覚だな。
まあ、尺度がねぇから、どう判断すりゃいいのか分からんが……。」
一通り読んだジーザが、ぼやくがさして深刻な表情はしていない。
逆に、険しい表情をしているのは、オルロフである。
一つ一つ確認しながら、ブツブツと内容を精査しているようだ。
「……このステータスは……基本の数値が高過ぎる……いや、しかしレベルが低い…っとなると初期値が高いのか。
(中略)
ふむ、ジョブがないのは、単純に洗礼を受けてないからだろう……が、その割には、スキルが充実しているな。
(中略)
カルマやモラルの暴露具合からすると、その他のステータス項目を偽装しているわけでもなさそうだ………………よしっ。」
そして、一定の結論に達したのかジーザに改めて向き直ると、懐からおもむろに腕輪を取り出す。
「次は、これを付けて貰う。」
ジーザに投げて寄越された腕輪は、黒い石が散りばめられている以外、変哲のないもののように見えた。
意味も分からず、言われた通り腕輪に右手を通すジーザ
すると腕輪は勝手に手首にアジャストする。
「なんだこりゃ?」
「呪縛のマジックアイテムの一種だ……『我に従え』『罪なき正者に危害を加えるな』」
オルロフの言葉に反応して、黒い石の内の2つが弾ける。
ジーザは、何かが身体に染み込んで来るような感覚を覚えた。
「これであんたは、俺の支配下に入った。今の2つの命令に背けば、身体に激痛が走る事になる。」
「はぁ~?何言ってるんだ……っと言いたい所だが、この不思議な世界の事だ、本当なんだろうな……。」
ジーザは、お手上げといった具合の表情を浮かべる。
「さて……ジーザ。君は、何者だ?何処から何の目的でこの村に来たんだ?」
「……俺は、今は何者でもない、ガルム爺さん所にいるただの居候だ。
前はカントー一円を支配するキングの下、それなりの荒らくれどもを率いていたがな……。
で、今でも理由は分かんねぇ~が、気付いたら、この村の近くにいたってわけだ。だから、大層な目的なんてもんは、ねぇ~な。」
「……カントーというのは、何処にあるんだ?」
「おそらくだが、こことは別の世界だ。魔法なんてもんはねぇ~し、ジョブやらアビリティなんてもんも聞いたことすらないわ。
ステータスっつ~のも含めて初めて知るもんばかりだ。」
「……教会もないのか?」
「とぼけた爺ぃが、牧師様とやらをやってたりするのは、知ってるが、腹の足しにもならねぇ~話をくどくどしてるだけの所だな。何の力もありゃしない。」
それから2時間近くオルロフのジーザに対する聴取は続いた。
普通であれば、ジーザも苛立ってご破算にしてしまう長さであるが、
逐一、オルロフに確認される事により、この異世界と元の世界の違いが明確になっていくため、ジーザにとっても有益な時間となっていた。
例えば、ステータスの項目ついても
名前:同左
種族:同左だが、人、獣人、亜人(エルフ、ドワーフ等)、魔人(知性を持つ鬼人、竜人等)に種族が大別
年齢:同左
身長:同左
体重:同左
出身地:生まれた街又は地名
所属:組織、商会、ギルド等本人にとって主要なもの
業:行いにより➕99~➖99まで増減
徳:性格や心情により➕99~➖99まで増減
Lv:0から始まる。村人なら20くらいが平均(以下の基本値は、各10程度(魔力は5))
状態:毒、麻痺等の身体の異常の他、憤怒や魅了といった精神状態も反映
体力:傷付くと減り0になると死ぬ、ライフ
魔力:減り過ぎると徐々に意識薄弱になり、0になると気絶する、マナ
筋力:物理的な力の大きさ、パワー
反応:反射神経や身体を早く動かす力、アジリティー
耐久:身体の頑丈さ、タフネス
持久:動作の持続力、スタミナ
職業:宗派問わず教会で洗礼を受ける事により付与され、該当する能力が補整される。ジョブ
能力:ジョブレベルが一つ上がる度にそのジョブに応じ取得出来る特殊能力、該当する能力が補整される。アビリティ
技能:修練によって得られる、アビリティのような補整はない、スキル
加護:特定の条件を満たす事で、神や精霊、悪魔、龍等の超常的な存在から付与
装備:同左だが、基本値に影響を与えるもののみ表示
なお、ジョブやスキルのレベルの捉え方は、Ⅰ:一人前、Ⅱ:中堅、Ⅲ:ベテラン、
Ⅳ:天才、Ⅴ:化物、Ⅵ~:不明。
といった具合であることが分かった。
ちなみに日常会話に問題ないと言っても専門的な用語が入った会話は、流石に理解出来ないため、『言霊』という言葉の意味やニュアンスが伝わり易くなる魔法をオルロフが使っていた。
何でも、この世界では、ありふれた生活魔法らしい。
………………
「……にわかに信じがたい話もあるが、認めざるを得ない状況だな。
自己の利益には聡い悪人の言質は、下手な善人の話より信用できるという事もある。」
「褒めてるんだか貶してるんだかな……。」
ジーザは、ポリポリと鼻っ柱を掻きながらぼやく。
「フッ……。最後になるが、我々の、いや、俺の任務への協力を依頼したい。」
「この状況で、俺に拒否権があるのか?」
「乗り気になってくれるなら、それに越した事はないからな。」
そこでピンと気が付くジーザ
「……依頼って事は、それ相応の報酬があるって事か?」
「ご明察。俺も綺麗事だけで生きてきた人間ではないんでね……。
依頼中に倒した魔物の素材やギルドからの懸賞金は、あんたのもんだし、
依頼を達成したあかつきには、呪縛の解除はもちろん、村を含めてこの辺一帯くらいならあんたの自由にして良いっていうのはどうだ?」
ジーザは、腕組みしながら思案を巡らせる。
「……協力とやらの中身は?」
「大きく二つ。
一点目は、指名クエストの実施、簡単に言うと偵察とそれに伴う魔物狩りだ。
この教会は、ギルドの機能も兼務しているから、冒険者登録も上手く俺がしてやれる。
身分のはっきりしないあんたがこの先やってくには、損な話ではない。」
「フン、単なる小間使いか……二つ目は?」
「二点目は、ナディア様を狙う敵の排除だ。
俺が今までは、対応してきたが、この村に2人だけで腰を落ち着けてからは、受け身の態勢にならざるを得なくてね。
調度、汚い事も躊躇なく出来る奴を探してたのさ。
これも神様の御導きってやつかもな……。」
「……詳しい事情は、またの機会にするとして、報酬の保証は?あんたがそんな話はしていないと言ったら簡単に覆るだろ。」
「それもそうか……値が張る品だが、先行投資としては妥当か。」
オルロフは、ジーザに着けさせたものと同じ腕輪をもう1つ取り出す。
「『神に誓う。この腕輪の所有権をジーザに譲り渡すと……。』」
オルロフの言葉と共に腕輪が光を帯びると、フワリと浮いてジーザの元に。
ジーザが握る事で、光が消え、どうやら所有権が移ったようである。
あとは、ジーザがされたようにオルロフに対して『必ず定めた報酬を渡す』呪縛をかけて証を立てたのだった。
その上で、オルロフは話を続ける。
「……まあ、薄々気付いていると思うが、俺はこの村の事なんて、正直どうでもいい。任務を果たし、我々が去った後どうなろうとな。
つまり、あんたの自由に出来るってことだ。
難なら、領主のバルクホルン子爵に掛け合ってやってもいいぞ?」
ジーザにとってみれば、悪くない提案であった。
それに加え、これからもオルロフからは、有益な情報が引き出せるであろう。
あまり人の下に付くのは好きではないが、レベルとやらを上げれば強くなれるらしい。いずれ、誰にも指図されないくらい強くなってやるさ……ジーザは内心そう考えていた。
「分かった。その依頼、受けるぜ……俺の今後のためにな。」
ジーザの回答に手を差し出すオルロフ
「交渉成立。宜しくっ……。」
「野郎の手を握るのは依頼に含まれてねぇ~ぞ?」
差し出された手を拒否して、悪びれないジーザ
「はははっ、確かにな。じゃあ、挨拶代わりに……ステータス、オープン。」
ジーザの目の前に表示されるオルロフのステータスウィンドウ
――――――
名前:オルロフ
年齢:27
所属:東方教会ナディア派
Lv:206
状態:正常
体力:64/64
魔力:33/34
筋力:40
反応:74
耐久:42
持久:52
職業:双剣士Ⅳ
装備:ミスリルダガー×2、飛竜の鎧、飛竜牙の首飾り、飛竜爪の腕輪、飛竜石の指輪
――――――
「これが俺のステータスだ。以後、宜しく頼む。」
「ん?だいぶ俺より項目が少ないが?」
「手の内を全部見せるのは、良くないからな。ははははっ」
「……なるほど、こりゃ一本取られたね~。」
ジーザは、軽い態度で返すものの、この世界に無知では、やっていけないだろう事を痛感していたのだった。
「……さてと、もう昼飯の時間だ。特に急ぎの用がなけりゃ、一旦引かして貰うぜ?」
「分かった。あんたの事は、ナディア様にもよく話しておく………明日の同じ時間にまた来てくれ。
その時は、昼食も森の中で摂れる準備をしとくようにな。」
去り際に、軽く片手を上げて、応えるジーザ
オルロフから見えていないその顔は、笑ってはいなかった……。