24話
着々と準備が進む中、私は殿下とお出掛けすることになった。
表向きは『ルベア様』と侍女で、おつかいということになっている。
だから私は侍女服だし、殿下は騎士服だ。
もちろん、本当はエイベル殿下とのデートよ!
「今日はよろしくお願いします、ルベア様」
「ああ、よろしく」
ちなみに立場上はルベア様だが、演技はしないそうだ。
殿下としては、ルベア様の演技はやりたくないらしい。
王都の街中をのんびり歩きながら、ちょっと聞いてみた。
「あんな軽薄そうな人間のフリなど、やりたくない」
「…そもそも、どうして『ルベア様』の演技を?」
「別人と思わせる必要があるからな。私とは一切思わせない人格を演じようと思って提案があったのが、あれだ。それに、あれで意外と令嬢受けは良かった。おかげで情報収集は捗ったがな」
「殿下にあんな演技力の才能があったなんて、驚きですわ」
「…隣国で、劇団に指導してもらったからな。徹底的に」
「なるほど」
プロに指導してもらったというのなら、納得だ。
それでも、殿下に才能があったのは否定できないけど。
そんな風に穏やかに話しながら、王都を歩き回る。
一応おつかいという形なので、人気のお菓子屋を巡って買い集めていく。
「そろそろ疲れただろう。あそこのカフェが人気らしい。休んでいこう」
「はい、わかりました」
殿下のエスコートに従い、店内へと進んでいく。
確かに人気店らしく、女性客も多い。
席に着くと、サッとメニュー表が置かれ、早速内容を見ていく。
「ここの売りはフルーツたっぷりのタルトだな」
「さすがルベア様。下調べはばっちりですね」
「………ああ」
なんだか複雑そうな顔をされてしまった。
何か気になったのかしら?
「…アリス、一応弁明させてもらいたい」
「弁明ですか?」
「『ルベア』が女性好きなのは、そう思わせた方が相手に隙が生まれるからそうしただけだ。私自身がその…不特定多数を好むわけではない」
「……なるほど、そういうことですか」
「怒っては…いないのか?」
「怒りませんよ?」
どうして怒っていると思われたのかしら?
『ルベア様』としてそうされていたというのだから、怒る理由なんかどこにもないのに。
「そうか…ならいいんだ」
私が本当に怒ってないのが分かってみたいで、殿下はホッとしていた。
たっぷりの季節のフルーツが乗ったタルトと酸味濃厚なフルーツジュースを堪能すると、カフェを出る。
本当はもっといろんなところを殿下と歩きたかったけど、今は侍女服に、殿下は騎士服。
名残惜しいけど、ほどほどに切り上げて王城に戻った。
執務室に戻る途中で、見覚えのある派手な姿が目に入った。
あちらもこっちに気付いたようで、石畳に甲高い音を響かせながらこちらに歩み寄ってくる。
「あらあらアリス様。騎士を侍らせて一体どこにお出かけですの?殿下の侍女ともあろうお方が、何をしているのかしら…」
ミルドレッド様は開口一番挑発的だ。
やれやれと言った様子を見せながら、目は侮蔑的。
相変わらず、見目麗しい令息を侍らせてるし。
しかし、ルベア様がエイベル殿下だと分かってる今だと、この状況がおかしくてしょうがない。
殿下の侍女が殿下と一緒に行動していることに、どこもおかしいことなんて無いんだから。
もちろんそれは言えないので、表向きの理由で流しておきましょう。
「殿下のためのおつかいです。ルベア様は殿下がわざわざ護衛のためにと付けてくださったんですの。ミルドレッド様が何を考えておられるのかは全く分かりませんが、一体何をお考えなのですか?」
「…フン!ルベア、そんな女のことなんか放っておいて、こちらに来なさい!」
「ええ~?殿下直々に護衛しろって言われてるんで、それはまずいんですよね~。ちゃんと執務室まで送り届けないとダメなんで、その後でいいっすか?」
さすが殿下。
演技の切り替えが見事だわ。
知ってても、同じ人物だと思えないわね。
「~~っ!だったらいいわ!勝手になさい!」
そう言うと、ミルドレッド様はどこかに行ってしまった。
私はともかく、ルベア様が思い通りにならなかったことがよほど気に障ったみたい。
姿が見えなくなってから、こっそり殿下に聞いてみる。
「…大丈夫ですか?」
「問題ない。私より君のほうだろう。あんなに挑発して…」
「あら。挑発したほうがいいじゃないですか。殺したいって思わせないと、作戦がうまく行きませんもの」
嫌がらせ程度じゃダメだと思う。
確実に証拠をつかむためには、15年前と同じ状況にしなくてはならないんだもの。
殿下との婚約を発表するだけでも十分だと思うけれど、念には念をいれておかないとね。
そう思っていたのに、殿下はちょっと引いてた。
「…もう、あの純粋なリリーシアはいないんだな」
「一度殺されてますからね。殿下だって、そんな演技してまで犯人を捕まえようとしてるんですから、一緒ですよ」
ね?と首をかしげると、殿下は苦笑いしながら「そうだな」とうなずいた。
「その通りだ。やはり私たちはお似合いだな」
「はい!」
その後、執務室に戻ると側近の方々と影武者の方がぐったりしていた。
どうやらさっきのミルドレッド様は執務室に突撃をした後らしく、その対応に疲れ切ったようだ。
買ってきたお菓子を振る舞いながら紅茶を淹れると、すぐに回復したわ。
その際に殿下が、
「リリーシアの淹れた紅茶を飲めることを感謝するんだな」
と、側近の方々を睨みつけていた。
そんなことを言ったら、怖がらせてしまうでしょうに。
その口を閉じさせるのにお菓子を手づから食べさせてあげたら、すぐに大人しくなってくれたわ。
「せっかく回復したのに、惚気見せつけて何気なく追い打ちかけてくるとか、ほんと鬼畜だわこのお嬢さん…」
相変わらずボソボソ言われるので聞き直そうとしたら、また殿下が睨みつけてたわ。
一体なんて言ったのかしら?




