題14話 もうネタ切れの日は近い
ーーまさかクルトに見られるとは。弱味を握られたことになるのかな。
「おい!」
ーーだけど、公爵令嬢がボッチ飯決め込んでた〜なんて言いふらされても私は別に気にしないし。
「おい、シャーロット!」
ーーむしろ、あのテラスに行けなくなることが困る。
「シャーロット・クリストス!」
うーむ、と頭を捻らせていると突然乱暴に肩を掴まれる。
「……何ですの。ルーメルド様。」
肩を掴んだのは、婚約者のルーメルド・ナイトレイ第3王子。最近とんと姿を見せないと思えば、傍らには女を連れている。
「それと、マリアさん。」
「ふん! 気安く彼女の名前を呼ぶな!」
ルーメルドは何故か激怒している。
「いいの! ルーメルド! 私のことは気にしないで!」
「あぁ、マリア。なんて君は慈悲深いんだ。まるで女神か天女のようだ……。どこかの誰かとは大違いだな。」
ーー私は一体何を見させられているんだ……。
ルーメルドの気の弱さはどこへやら。完全にマリアにご執心のようだ。
「特に用も無いのでしたら、私はこれで。」
この場にいてもなんの生産性もない。去ろう、と思ったが再び乱暴に肩を掴まれる。髪の毛が絡まってキシリと痛む。
「待て!シャーロット! 貴様、余が別の女のところにいったから妬いているのだろう!分かっているぞ!」
「……痛いですわ。ルーメルド様。」
「五月蝿い! 貴様が今更どれだけ媚び諂うても遅いわ! 余はマリアという運命の人を見つけたのだ! もう貴様の奴隷などにはならんぞ!」
「そ、うですか。良かったですね。ですから、離してください。」
「五月蝿い! 口答えするな!」
ルーメルドが怒りを露にするのに比例して、肩を掴む手の強さが強くなる。リリィが褒めてくれた私のブロンドの髪がブチブチと音をたてて抜けているのが分かる。
また、ルーメルドの声の大きさのせいで、野次馬がわらわらと集まってきた。この国の第3王子と話題の渦中のシャーロットにマリアが居るのだから余計に人が集まる。
それに気を良くしたのか、ルーメルドが口角を上げて勝ち誇ったように笑う。
「……ふふ、はははは! 場を整えてから言ってやろうと思ったが、まぁよいだろう! シャーロット・クリストス!」
「ふふ。」
とうとう肩から手を離し、私の髪だけを掴んだ手は真上に引っ張られる。私は、ルーメルドを見上げる形となる。その様子を見てマリアは心底嬉しそうに、ルーメルドの肩にしなだれる。
ーーこの雰囲気は、まさか。
「貴様にこの場で、婚約破棄を言い渡す!!」
「……な、にを。」
私は驚いた振りをする。
そう、これは私の予想通り、ゲームのシナリオだ。
ーーマリアが無茶をしているせいで、番狂わせが起きてはいるようだけど、当初の予定通りだ。
「ふふ、ははは! 残念だったなぁ! 皇后になるのは貴様ではない!マリアだ!」
「は?」
ーールーメルドは皇帝になるつもりなのか? 第3王子なのに?
「余なら皇帝になれる、そう言ってくれたのはマリア、お前だけだ。」
「ええ、ルーメルド。」
2人は熱々の視線を交わしている。ラブラブなのは結構だが、手を離して欲しい。これ以上髪を失うわけにはいかない。
「……そうだ。シャーロット。土下座しろ。」
私の体が跳ねる。いや、正確にはシャーロットの体が反応した。
シャーロットの魂が、公爵令嬢としての誇りを訴えている。土下座など、できないと。
だが。
凪雲凜々からしたら、シャーロットはそれ程の事をしたと思う。シャーロットは確かにルーメルドを奴隷のように扱った。
ーーどうするべき、か。
野次馬達も突然の婚約破棄宣言や土下座の命令にどよめいている。明日の話題の渦中になるのは間違いないだろう。
「おい。聞いているのか!!」
髪を掴むルーメルドの力がさらに強くなる。流石に痛い。
「わ、かり……」
「その手を離せ。」
私が折れようとした時、ずっとこちらを睨んでいた赤い髪の男が低く唸った。
王族に向けているとは思えない低く威圧的な声は、どよめいていたその場に静寂を訪れさせる。
「クラウス……?」
「何度も言わせるな。その手を離せ、と言ったんだ。」




