名前と呼び名(ジャンル:コメディ?)
名前と呼び名
「あたしは、お母さんじゃないっつーの!名前があるのよ!名前が!」
彼女は怒って言うが、私はため息をついた。
「しょうがないじゃない。名前なんて教えてないんでしょ?」
「教えても呼んでくれるかどうか。」
「呼ばないと思うな。病院だもん。」
「だからって!あたし、独身なのよ?まだお母さんって歳でもないのに!」
「いや、世間一般的にはお母さんの年齢だから。」
「子供もいないのに!」
「しょうがないでしょ!ほら、可愛い息子が散歩って縄もって来てるよ!」
グレー色のコロコロ太った毛むくじゃらの犬が尻尾を振っている。
「コロ。さっき、散歩行ったじゃない。」
「しょうがないでしょ、コロのお母さん、病院の先生に肥満気味だから、散歩させてくださいって言われたんでしょ。」
「だから!あたしは、犬を生んだ覚えはない!」
「いいから諦めて行きなさいよ、飼い主!あんただって、ジロー君のお母さんの名前なんか知ってるの?」
近所の犬を思い出してみる。
「……知らないケド。」
「苗字さえも、でしょ。その人は、ジロー君のお母さんなのよ。で、あんたはコロのお母さん。はい、散歩行ってらっしゃい!」
「わかったわよ。」
しぶしぶ、彼女が立ち上がった。
「行ってきます、鍵、閉めておいてね、母さん。」
「はいはい。」
私は、娘とコロを見送ると、ちょっと笑って鍵を閉めた。




